蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

松家仁之著「沈むフランシス」を読んで

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照る日曇る日第636回

 

フランシスってベーコン? それともザビエル? 

 

と、不思議に魅力的な題名に惹かれて手にとってみたら、なんとフランシス氏の発明にかかる水力発電機の愛称の謂いでした。

 

これなら私が名付けた青鷺のザミュエル&ベンジャミン母娘や、震災地からやって来た和犬雑種の次郎、天然ウナギの三郎のほうが少しましかもしれませんね。

 

それはともかくここで取り上げられているのは東京から北海道の故郷に帰って来たヒロインと、その地でフランシスと共に自家発電売電事業で食べているどこか世捨て人風情の謎の青年とのラブロマンスで、人里離れた安地内の厳しくも美しい風光やその地に住む人々の孤独な風貌が二人の愛の陰影に富んだ様相ともども精密かつ達者な文章でつづられてゆきます。

 

ヒロインが惚れた男性は知的でお洒落で、オーディオなんぞに入れ上げていたり、世界各地で録音した音を大迫力で再生したりする趣味の持主で、こういうのが著者の自画像とオオバアラップした「理想の男性像」なのでしょうが、私などは読んでいて少しく辟易させられますですね。

 

けれどもラストでは、そのフランシス選手が水没しても愛の不滅は残っているぞという愛の賛歌が鳴り響き、物語は高らか幕を閉じるのですが、惜しむらくは全体のトーンが格調高い純文学路線で貫かれているのに対して、二人の性愛の描写がかなり通俗に堕していることで、こればっかりは一考あってよろしいのではないかと思うのです。

 

 

それが被災者にとって何だというんだいつまでも花咲音頭を歌い続けている君 蝶人

 

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