蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-01-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年睦月蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に第120回 君と僕エンドクレジットの音楽が途切れたときのように気まずい 美輪明宏をかなぐり捨てて歌いたり丸山明宏「ヨイトマケの唄」 喜びも悲しみもこの曲に込めてさらばプリプリダイアモンドだお 雪が降るぞえチントレットなぞと呟きな…

アンリ・ヴェルヌイユ監督の「ダンケルク」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.389 1940年6月、ナチスドイツに追い詰められた連合軍がダンケルクから撤退する際の余話を描いたちょっと珍しい仏伊合作映画で、ベルモントとカトリーヌ・スパークの競演がうれしい。 この映画の出演当時、カトリ…

ジュリアン・シュナーベル監督の「潜水服は蝶の夢を見る」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.388 仏蘭西のふぁっちょん雑誌「エル」の編集長が突如脳溢血でまぶたしか動かすことのできないいわゆる「植物人間」になってしまうが、その瞼の瞬きを駆使して自伝的小説をものしたのを一期に、壮年の盛りにみまかって…

ジュリアン・シュナーベル監督の「潜水服は蝶の夢を見る」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.388仏蘭西のふぁっちょん雑誌「エル」の編集長が突如脳溢血でまぶたしか動かすことのできないいわゆる「植物人間」になってしまうが、その瞼の瞬きを駆使して自伝的小説をものしたのを一期に、壮年の盛りにみまかって…

マルセル・カルネ監督の「歎きのテレーズ」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.387 エミール・ゾラの原作「テレーズ・ラカン」を名匠マルセル・カルネが演出した往年の名画で、主人公の男女が追い込まれていく悲劇のどうしようもない破滅的な成り行きをシモーヌ・シニョレとラフ・バローネが好演し…

マルセル・カルネ監督の「歎きのテレーズ」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.387エミール・ゾラの原作「テレーズ・ラカン」を名匠マルセル・カルネが演出した往年の名画で、主人公の男女が追い込まれていく悲劇のどうしようもない破滅的な成り行きをシモーヌ・シニョレとラフ・バローネが好演し…

「ウラジミール・ホロビッツ・プレイズ・グレートソナタズ」全10枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜 第295回 現代の美形若手によるいっけん新しいそうでじつは陳腐な迷演奏の数々を聴いた口直しの手が伸びるのは、いつもこういう大家の大演奏である。 ご存知ソニーの超廉価盤シリーズの中でもホロビッツのベートーヴェン、モザール、スクリャー…

「ウラジミール・ホロビッツ・プレイズ・グレートソナタズ」全10枚

♪音楽千夜一夜 第295回 現代の美形若手によるいっけん新しいそうでじつは陳腐な迷演奏の数々を聴いた口直しの手が伸びるのは、いつもこういう大家の大演奏である。ご存知ソニーの超廉価盤シリーズの中でもホロビッツのベートーヴェン、モザール、スクリャー…

佐藤賢一著「ジャコバン派の独裁」を読んで

照る日曇る日第565回 1793年10月16日、ひょんなことから国王ルイ16世をギロチンに送り込んだものの、フランス革命を遂行する革命家とサンキュロットたちの前途には不気味な暗雲が立ち込めていた。 ヴァンデ県のみならず全国の地方のあちこちで、革…

佐藤賢一著「ジャコバン派の独裁」を読んで

照る日曇る日第565回1793年10月16日、ひょんなことから国王ルイ16世をギロチンに送り込んだものの、フランス革命を遂行する革命家とサンキュロットたちの前途には不気味な暗雲が立ち込めていた。ヴァンデ県のみならず全国の地方のあちこちで、革命…

村山由佳著「花酔ひ」を読んで

照る日曇る日第564回 京都の葬儀会社と東京のきもの販売会社の2組の夫婦が巡り合い、ひょんなことからスワッピングするようになるという通俗小説にありがちなよろめきドラマであるが、こういう主題をさかんにとりあげている渡辺淳一と違って、このひとの文…

村山由佳著「花酔ひ」を読んで

照る日曇る日第564回京都の葬儀会社と東京のきもの販売会社の2組の夫婦が巡り合い、ひょんなことからスワッピングするようになるという通俗小説にありがちなよろめきドラマであるが、こういう主題をさかんにとりあげている渡辺淳一と違って、このひとの文章…

ダグラス・マグラス監督の「Emma エマ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.386明治時代の倫敦に留学した漱石がもっとも愛し、かつ高く評価したのがこの映画の原作者であるジェーン・オースティンであることはつとに知られている。人世の基本が男女の相愛であり、その相愛を決めるのは結婚であ…

フランコ・ゼフィレッリ監督の「マリア・カラスは永遠に」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.385&♪音楽千夜一夜 第295回 カラスの友人だったフランコ・ゼフィレッリが彼女の思い出とカラス伝説を「利用して」でっちあげた最晩年の偽カラス物語。1974年の最初で最後の日本ツアーの出来が悪かったことを苦に…

バルザック著・石井晴一訳「艶笑滑稽譚第二輯」を読んで

照る日曇る日第563回パート2に入ってバルザック選手のエロ噺のおもしろさといかがわしさはますます快調なり。第八話の「ムードンの司祭の最後のお説教」もかのフランソワ・ラブレー師に仮託した文豪の筆が異常なまでに冴えわたり、当時の権力者たちを徹底的…

ソニー「マスターワークス・ヘリテージ」ボックス全28枚組CDを聴

♪音楽千夜一夜 第294回 アベノミクソのお陰でどんどん輸入盤の円安メリットが失われてはいるけれど、いま世界で最も安価な韓国ソニー製の米コロンビア録音による名盤集である。私の好きなセル&クリーブランド響によるシューマンの交響全曲やドボルザーク、…

ウォシャウスキー兄弟監督の「マトリックス・リローデッド」「マトリ

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.383&384ブルース・リーとスーパーマンとスペースオデッセイを足して3で割って純愛物のスパイスを振りかけた鳴り物入りの重厚長大SF3D映画。ハイテクの限りを駆使している割には1対1のカンフー拳法対決シーンが…

佐藤賢一著「黒王妃」を読んで

照る日曇る日第562回&ふぁっちょん幻論第73回 イタリアのメディチ家からフランス王家に輿入れし、国王アンリ2世の王妃となった一代の女傑カトリーヌ・ドゥ・メディシスの半生を描く著者お得意の史伝小説である。 夫が騎馬槍試合における不慮の事故で亡く…

マリオ・バルガス=リョサ著「アンデスのリトゥーマ」を読んで

照る日曇る日第561回 人類は、共同体の維持・持続・発展のために生贄や人身御供を必要としてきたが、それはなぜだろうか。おそらくは共同体の成員に対してあえて「平等な人為的脅威」を課すことによって、より共同体の精神的肉体的紐帯を緊密に強化しようと…

「白隠展」を見て

茫洋物見遊山記第101回 久しぶりに東京に出て渋谷の駅周辺を歩いたのだが、あろうことか路に迷ってしまった。いたずらに広大な駅構内はまるで荒廃した未来都市の迷路のようで、無と空虚そのもの。東急資本による商業施設が完成したり、なおも拡大工事が続く…

野村芳太郎監督の「拝啓天皇陛下様」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.382普通の戦争映画なら新兵いじめの地獄のような光景をこれでもか、これでもかと見せつけるのであるが、この作品ではそういう残酷物語のような暗黒面は後景に退いている。渥美清が演じる主人公は、「シャバと違って軍…

小津安二郎監督の「秋刀魚の味」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.381何度見ても(聴いても)斎藤高順のミニマル音楽とインテリアの色彩が素敵な日本映画だ。しかしこの小津の遺作のテーマは「晩春」と同様またしても「女性の結婚」である。23、4になった女性はたとえ母親を亡くした父…

春原政久監督の「三等重役」「三代目社長」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.379&380源氏鶏太の原作を春原というきいたことも無い名前の監督がメガフォンをとって、若き日の森繁久弥や小林桂樹がでてきて後年の社長シリーズのさきがけを演じている。ただし社長役は森繁ではなく川村黍吉というこ…

東京国立近代美術館の「美術にぶるっ!」展をみて 後編

茫洋物見遊山記第100回 「実験場1950S」と題された第2部は、土門拳の衝撃的な原爆写真で幕を切って下ろします。原爆病院の患者さんの無惨な傷跡の痛みは藤田のアッツ、サイパンの断末魔と完璧にシンクロしていました。木村伊兵衛の東北、濱谷浩の裏日本の…

東京国立近代美術館の「美術にぶるっ!」展をみて 前篇

茫洋物見遊山記第99回 冬の晴れた朝、開館60周年を記念する日本近代美術の100年展を見物してきました。 第1部のコレクションスペシャルは壮観です。萬鉄五郎の「裸婦美人」の黒い腋毛、村山槐多の死霊のような「バラと少女」ハイパーレアルな岸田劉生…

周防正行監督の「ファンシイダンス」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.378&♪音楽千夜一夜 第293回 もちろん先ずは岡野玲子の原作があったにせよ、まずはお寺に目をつけた監督の創見に拍手。すでに「雁の寺」という傑作はあったけれども、古刹にうごめく坊主どもがいったいどういう思いで…

石井輝男監督の「黄線地帯」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.377 1960年制作の新東宝映画で、懐かしき三原葉子や天知茂、吉田輝夫等が出演している。殺人犯の天知に誘拐されて神戸に逃げた三原を婚約者で新聞記者の吉田が追う。神戸にはアルジェのそれを模したカスバという売…

赤坂真理著「東京プリズン」を読んで

照る日曇る日第560回15歳でなぜかアメリカの中学校に入れられた少女の苦悩、果てしなき自問自答と襲いかかる過去の亡霊と幻影の数々、16歳で卒業試験に課せられた模擬ディベートの異常な体験、天皇の戦争責任と日本の戦後史について総括、などなど著者その人…

山形国際映画祭グランプリ、王兵監督の「鉄西区第一部工場」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.376中華人民共和国遼寧省の瀋陽の銅や鉛の精錬工場の浮沈を描き尽くした4時間を越える長編ドキュメンタリー映画で、03年の山形国際映画祭グランプリに輝いたそうだがそれも宜なるかなの秀作だ。この工場はもともと中…

デヴィット・リーン監督の「戦場にかける橋」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.375 投降したとはいえ軍隊の誇りと規律が大事か、それとも敵国への非協力とサボタージュが大事か、と問われれば、私などはもちろん後者がより重要だと考える。ところがこの映画の英軍指導者ニコルソン大佐は、前者の考…