蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年皐月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第127回 じゃんじゃかじゃん5月になってもなにもない おのれの内臓をまるでベーコンのように描きたりフランシス・ベーコン 「フランシス・ベーコンです!」と画家は答へたり「ローマです!」と答えしヘプバーンのやうに あの人は黒い花びら…

永田和宏著「近代秀歌」を読んで

照る日曇る日第597回 明治・大正・昭和を中心に日本人の心のふるさととして永久に口ずさみ伝えるべき100首を選び、適切な解説をほどこした岩波新書の好企画です。 「恋・愛」「青春」「旅」「四季・自然」などの項目ごとに、いつかどこかで目にした短歌の名…

岸恵子著「わりなき恋」を読んで

照る日曇る日第596回 才色兼備の俳優でありエッセイストでもある著者が70歳を超えて年下の男性と大恋愛をして、その顛末を小説に書いたというふれこみの広告にだまされたふりをして早速読んでみましたが、まあこれはなんと申しましょうかあ、半分は小説で半…

「円」の2013アンシャンテ公演「ビロクシー・ブルース」を観て

茫洋物見遊山記第125回 演劇にうとい私が生まれて初めて見物したニール・サイモンの自伝的ビルドゥングスドラマですが、非常に面白かった。 ときは第2次大戦中の1943年、アメリカ南部ミシシッピー州のビロクシーを舞台に作家をめざす主人公のユージンをはじ…

中村登監督の「紀ノ川」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.460 紀の国を悠々と流れる大河紀ノ川にも似たある女性の生涯を、あしひきの山鳥の尾の垂り尾のごとく長々しく描く。 中村というよりは撮影監督の成島東一郎の長所はその抒情性にあって、ヒロインの司葉子が朝紀ノ川を…

オタマジャクシはカエルの子 後篇

バガテル-そんな私のここだけの話op.168&鎌倉ちょっと不思議な物語第286回 今から10年ほど前のある日、突然このヒキガエルの雌雄が10匹ほど峠道の水たまりに現れて見境なしに交尾していたことがあった。 「ぐええ、ぐええ」と奇声を上げながら雄が雌を追い…

オタマジャクシはカエルの子 前篇

バガテル-そんな私のここだけの話op.167&鎌倉ちょっと不思議な物語第285回 2週間ほど自宅の水盤で飼っていたオタマジャクシを細君と一緒に太刀洗へ行って元の水たまりに放してやった。本当は現地のオタマジャクシが事故で絶滅したりした際に備えて毎年こう…

川西政明著「新・日本文壇史第十巻」を読んで

照る日曇る日第595回 「日本文学から世界文学へ」と副題された本シリーズの最終巻では、尾崎一雄、丹羽文雄、舟橋聖一、川端康成、三島由紀夫、島尾敏雄、庄野順三、吉行淳之介、安岡章太郎、小島信夫、三浦朱門、小川国夫、古井由吉、安部公房、開高健、大…

ヒュー・ハドソン監督の「炎のランナー」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.458&ふぁっちょん幻論第78回 普段は忘却の彼方にある英国の由緒ある古式豊かな服飾術。それは20年に一度くらいの確率で古い歴史の奥座敷から呼び出されてくる。 この映画に登場するスポーツウエアがまさにそれ。冒…

アンドリュー・ドミニク監督の「ジェーシー・ジェームズの暗殺」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.457 ガラガラ蛇を腕に巻きつけたジェーシー・ジェームズは、ついには彼をしとめることになる敵か味方か分からない暗殺者の前で、いきなりナイフを取り出して蛇の二つの首を平然と切断したりするのだが、ここで私たちは…

工藤栄一監督の「十一人の侍」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.455 天保十年の某国某藩における御家騒動を扱った暗欝な時代劇である。将軍のアホ馬鹿息子が引き起こした陰湿な殺人事件が起こったのが旧暦十月としてあるためか、登場人物の吐く白い息が気になって仕方がない。厳寒期…

鎌倉文学館の「腰越文学散歩」に参加して

茫洋物見遊山記第124回&鎌倉ちょっと不思議な物語第284回 毎年3回開かれている鎌倉文学散歩は半日で最近ようやくユネスコ世界遺産への妄想から醒めてくれたこの湘南の田舎町のあちこちを文学館のガイドさんの案内でぶらぶら歩く文学現地ツアーですが、朝か…

鎌倉文学館で「太宰治vs津島修治展」を見て

茫洋物見遊山記第123回&鎌倉ちょっと不思議な物語第283回&ふぁっちょん幻論第77回 高橋源ちゃんの監修による特別展を、薔薇の香りが緑のそよ風に乗って漂う鎌倉文学館にて鑑賞いたしました。 まずはじめに展示されていたのが、彼の晩年のついの住処となっ…

勅使河原宏監督の「利休」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.453 野上弥生子の原作を赤瀬川原平が脚色し、武満徹が音楽をつけ三国連太郎が主演したああ堂々の歴史絵巻だ。 勅使河原宏という人は文芸物では安部公房の原作もの、音楽では朝比奈隆のブルックナー演奏のライヴ、SM…

佐藤賢一著「小説フランス革命第10巻 粛清の嵐」を読んで

照る日曇る日第594回 1793年7月13日、ジャン=ポール・マラーはジロンド支持者のシャルロット・コルデーに暗殺されるが、この予期せぬ凶行を契機にして無風状態にあった国民公会のジャコバン党、というよりはロベスピエールを長とする公安委員会が、…

ジョーゼフ・L・マンキーウイッツ監督の「クレオパトラ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.451 1963年に20世紀フォックスが総力を挙げて映画化した通算4作目のクレオパトラである。 ローマの異人たちと浮き名を流したエジプトの女王クレオパトラ7世の生涯をエリザベス・テーラーが熱演している。彼女…

バリー・レヴィンソン監督の「レインマン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.450 ダスティン・ホフマンが自閉症の長男、トム・クルーズが健常の次男役を主演する兄弟愛をテーマにした障碍物の映画であるが、その功罪は相半ばする。 「功」としては21世紀に入っても聖ルカ病院の老理事長のよう…

ベス・ヘンリー作芦沢みどり訳「クライムス・オブ・ザ・ハート」公演を観て

茫洋物見遊山記第122回 友人の翻訳家、芦沢みどりさんの案内で久しぶりに演劇の「ナマ」を体験しました。演劇集団「円」の若手俳優、演出家たちによる自主公演「クライムス・オブ・ザ・ハート」です。 これは女性演劇作家ベス・ヘンリーの出世作で、1974…

IL PRETE ROSSO「ヴィヴァルディ10枚組セット」を聴いて

IL PRETE ROSSO「ヴィヴァルディ10枚組セット」を聴いてIL PRETE ROSSO「ヴィヴァルディ10枚組セット」を聴いて ♪音楽千夜一夜第307回 これは独メンブランによる超廉価盤のヴィヴァルディ名曲集だ。 まず冒頭の「四季」を聴いてそのフレッシュな音色とノ…

梅原猛他著「世阿弥 神と修羅と恋」を読んで

照る日曇る日第593回&遥かな昔、遠い所で第89回 前巻の「観阿弥」に続く「能を読む」シリーズは子の世阿弥の作品の解釈・解題と興味深い論考、対談がぎっしり詰まった660頁です。 ここに収められた「敦盛」「井筒」「浮舟」「姥捨」「砧」「恋重荷」「西行…

東京新宿の東郷青児美術館で「ルドン展」を観て 茫洋物見遊山記第121回 私は東郷青 児が好きではないし、損保ビジネスにもてんで興味がないし、ここに麗々しく飾られているゴッホの「ひまわり」は何回見ても真っ赤な偽物としか思えないので殆んど来ることも…

東京竹橋の国立近代美術館で「フランシス・ベーコン展」を観て

茫洋物見遊山記第120回 サザエ 観る前の印象としてはまんずこの人の名前が超カッコイイわね。でも現代絵画だそうだけど、訳がわからない絵だと困るなあ。 マスオ まあなんと奇麗な色使いなんだろう。特にあのピンクとグリーン。ブライトカラーとパステルカラ…

リュック・ジャケ監督の「きつねと私の12か月」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.448 最近の動物ドキュメンタリーを見ると、いったいどうやってこんな珍しい光景を撮影できたのかと驚くことが多いが、本作でもきつねの塒や生態がさながら「映画のように」捉えられていることに感嘆する。 最近製造中…

「フライブルグ・バロックオーケストラ選集」10枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜第306回 独フライブルグの古楽団体がソニーの超廉価盤に入れたロカテルリ、バイバー、パーセル、ゼレンカ、テレマン、バッハ、ヴィヴァルディなどのCD選集であるが、私の苦手な古楽器の演奏であることを忘れさせてくれる快演ぞろいでお薦めで…

木下恵介監督の「二十四の瞳」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.448 最近内外の映画はデジタル・リマスターを施されることによって格段に見やすく聴きとりやすくなったが、本作もその恩恵に浴している。 この映画は壷井栄原作の歴史的悲戦厭戦映画などとレッテルを張るよりも全篇文…

梅原猛他著「翁と観阿弥」を読んで

照る日曇る日第592回 全4巻からなる能にかんする最大最高の入門書の第1巻は、「能の誕生」という副題で観阿弥の全作品の解釈と現代語訳を主軸に、梅原猛、松岡心平、天野文雄、中沢新一などの論考や名人ゲストを迎えての対談を添え物にしているがじつに素晴…

岸田秀著「唯幻論大全」を読んで

照る日曇る日第591回 むかし昔の「ものぐさ精神分析」を読んで以来の再会だったが、このひとの論法はまったく変わっていなかったので、そこがかえって新鮮であった。 フロイトの理論を踏まえて、「人間は性本能をはじめすべての本能が壊れているために現実を…

鏑木清方記念美術館で「清方、美人画の巨匠へ」展を見て

茫洋物見遊山記第119回&鎌倉ちょっと不思議な物語第282回 今年開館15周年を迎えるというこの美術館だが、ろくろく訪れる客もいないというのによくも続いたものだ。かのアホ馬鹿大阪市長ならすぐにも閉館を命じていただろうに。そういう点ではまだ文化芸術…

鎌倉国宝館で「鎌倉の至宝」展を観て

茫洋物見遊山記第118回&鎌倉ちょっと不思議な物語第281回 青蓮寺の十一面観音菩薩像など新たに鎌倉市の指定文化財となった仏像などを公開しているが、私のぼんくらな目にはどれも似たようなほとけ様に映るので不信心者はどうにも仕方のないことだ。 それよ…

ダグラス・ボストック指揮デンマーク響「カール・ニールセン」10枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜 第305回 1856年に生まれ1931年に亡くなったこのデンマークの作曲家はだいたいフィンランドのシベリウスとほぼ同じ時期に活躍したらしい。 これは彼の6つの交響曲、フルートやヴァイオリン、クラリネットなどの協奏曲を集めた10枚組…