蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

鎌倉文学館の「腰越文学散歩」に参加して

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茫洋物見遊山記第124回&鎌倉ちょっと不思議な物語284

 

毎年3回開かれている鎌倉文学散歩は半日で最近ようやくユネスコ世界遺産への妄想から醒めてくれたこの湘南の田舎町のあちこちを文学館のガイドさんの案内でぶらぶら歩く文学現地ツアーですが、朝から歩いてお昼には終了する半日コースなのがありがたい。

 

鎌倉では他にガイド協会が開催している各種の見物ツアーがあるのだが、こちらは500円の会費を払い、お弁当を持参し、終わるのがだいたい午後の2時ごろなのでもう1日仕事になってしまうのである。

 

さて今回は腰越周辺がテーマということで江の電の腰越駅前に30名ほどが集合して、腰越漁港から小動神社、満福寺を訪ね、恵風園胃腸病院前で解散となったので私たち夫婦は鎌倉高校前からまた江の電に乗って帰った。

 

腰越には作家の舟橋聖一田村隆一立原正秋田中英光などが住んでいたそうだが、漁港ではたまたま朝市が開かれており、取れたてのサザエを1200円で売っていた。

 

高台にある小動神社からは右に漁港、左には昭和5年に太宰治がカフェの女給と自殺を図った大きな岩盤が見下ろせる。彼の「人間失格」などには入水自殺を試みたと書かれているが、実際はこの岩の上で服毒し、女だけが死んでしまった。彼はその5年後にも鶴岡八幡宮の裏山(小林秀雄の旧宅の辺りか)で自殺を図っているが、おそらくはその過去と減形を苦にやんで自己を清算しようとしたのだろう。

 

太宰が「道化の華」で青松園という名で描いた恵風園胃腸病院は今なお健在だが、この裏山から主人公の葉蔵が看護婦の真野と眺めた江の島方向には、小説と同様この日も富士山は見えなかった。

 

DⅤとⅤDの違いもわからず生きており 蝶人