蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2007-07-01から1ヶ月間の記事一覧

小澤征爾音楽塾の「カルメン」を聴く

♪音楽千夜一夜第23回小田実の死と自公を葬送する嵐のような1日が終わろうとする夜、私は鎌倉芸術館へ行ってビゼーの「カルメン」を抜粋で聴いた。小澤征爾音楽塾オーケストラ&合唱団の演奏である。 はじめはひさしぶりに小澤の指揮に接することができると…

會津八一記念博物館にて

遥かな昔、遠い所で第15回&勝手に建築観光22回昨夜は醜い國を代表する醜い男の連立政権に対し良識あるひとびとの鉄槌が下され、久しぶりにいい気持ちだった。さて思いは現世を遠く離れてまたしても遠い昔をさまようのである。 たしかここら辺が早稲田大学の…

秋山祐徳太子著「ブリキ男」を読む

降っても照っても第40回今年72歳になった天才的アーチストの自伝である。最初の60年安保闘争時代のハチャメチャな回顧も面白く、二回の都知事選挙の話や新宿青線地帯の乱痴気騒ぎも抜群に面白く、終わりごろの「放尿論」なども抱腹絶倒ものである。(余談な…

気色の悪い日本語

♪バガテルop23とかく最近の日本語は、私のような世捨て人には格別に不可解である。その1 立ち位置 『ミラノの3Gと称されたジャンフランコ・フェレが亡くなったが、彼の「立ち位置」はジョルジュ・アルマーニやジャンニ・ヴェルサーチとは少し違っていた…』 …

レイモンド・カーヴァー著「ファイアズ(炎)」を読む

降っても照っても第39回原作者のカーヴァーと村上春樹の翻訳の相性は抜群によく、本作のエッセイも、詩も、短編小説もついつい村上が書いているような錯覚に陥りそうになり、電車の中で読んでいても、枕頭で読んでいても、あまりの気持ちよさ、読書の快感の…

五木寛之著「21世紀仏教への旅・中国編」を読む

降っても照っても第38回紀元前5世紀ごろバラモンに対するアンチテーゼとしてインドで生まれたジャイナ教と仏教は栄えるが、次第に仏教それ自身が体制化するようになる。その一方で民衆の奥底に潜入したバラモンがふたたび活力を取り戻してヒンズー教となっ…

小さな勇気と大きな偶然

鎌倉ちょっと不思議な物語68回パタゴニア社の向かいに聳えるのが思い出深きH芸術学院である。ここは早い話が美容師さんを養成する専門学校であるが、美大受験生のための予備校でもあり、以前はスタイリスト科という講座もあった。私は二〇〇〇年の1月に職…

出てきた携帯

♪バガテルop22これで通算4回目か、それとも5回目になるのだろうか? 先週工芸大からの帰途、たぶん新宿から戸塚間の電車内で携帯を落とした私に、およそ一週間経ってなんと小田原警察から拾得の通知があった。正確には小田原警察からの通知を受けたauから私…

鎌倉ちょっと不思議な物語67回

前回紹介した鎌倉の農協連即売所のすぐ傍に、米国のアウトドアアパレルメーカーのパタゴニア社の日本法人がある。この会社は世界で初めてすべてのコットン製品をオーガニック(有機栽培)に切り替えたり、他社に先駆けてペットボトルからの再生フリースを販…

瀬戸内寂聴著「秘花」を読む

降っても照っても第37回 世阿彌によれば、推古天皇の御世に、聖徳太子が渡来人の秦河勝に命じて天下保全と諸人快楽のために66番の遊宴を行わせ、これを申樂と称したのが能のはじまりとしている。申樂はその後河勝の遠孫が相伝して春日・日吉神社の神職とな…

鎌倉市農協連即売所にて

鎌倉ちょっと不思議な物語66回ここは昭和三年、あの中原中也が亡くなった翌年に開設された鎌倉市農協連即売所である。なんでも当時鎌倉にいた牧師から、欧州では農家の直接小売制度があると聞いた農家の人たちの有志がこの地で即売所をつくったらしい。もし…

モーリス・バレス著「精霊の息吹く丘」を読む

降っても照っても第36回&勝手に建築観光22回1862年フランスのローレーヌ地方で生まれ、1894年のドレフェス事件ではゾラに反対し、1905年にはカトリック教徒と共に政教分離に反対し、20世紀初頭の青年層にアナトールフランスと人気を分かち合…

江國香織著「がらくた」を読む

降っても照っても第35回45歳の美術史専門の翻訳家の女性とテレビ番組を制作する50過ぎの夫や18歳の少女と建築家の父親と祖母などが登場し、海外のリゾートやビーチのパラソルやヴィラや透明なグラッパやアマレットやオマール海老や、サワークリームを添え…

ある丹波の老人の話(37)

「第6話弟の更正 第5回」弟はそれから大阪へ戻り、親戚を頼って今度はお家芸の下駄屋の夜店を出し、少し儲かったんで手馴れたメリヤス雑貨に変わりました。ここで嫁をもらったんで、ようやく今度はかたぎになるかと思ったら、またまた性懲りもなく道楽をはじ…

ある丹波の老人の話(36)

「第6話弟の更正 第4回」明治44年の退営後、私の弟は福知山の長町に家を買い嫁ももらって、なかなか盛大にメリヤス雑貨の卸売問屋をやっておりました。しかし、その資金をどうしたもんかは私にもようわかりまへん。その頃の私の家は相変わらず貧乏だったはず…

五木寛之著「21世紀仏教への旅・朝鮮半島編」を読む

降っても照っても第34回インドと同様、いま韓国では仏教が熱いそうだ。韓国の仏教はその9割以上が新羅の護国仏教であった華厳宗の流れを汲む曹渓宗だそうだが、奈良の東大寺がわが国の華厳宗総本山であることを思うと、改めてこの二つの国、地域の切断され…

梅原猛の「京都発見第9巻」を読む

降っても照っても第33回読売新聞、途中から地元の京都新聞に連載された本シリーズの最終巻は「比叡山と本願寺」である。比叡山延暦寺は、空海から密教を学びなおした最澄をはじめ、円仁、円珍、良源の手で天台密教の総本山となり、その後、法然、親鸞、道元…

♪バガテルop22

先日の新聞報道によれば、東京都足立区の区立小学校が学力テストの集計から障碍者を除外して、健常者のみの成績を教育委員会に報告していたそうだ。同区は学校選択制を取り入れており、成績上位校には入学希望者が殺到する。この学校では「学力実態」を知る…

河野多恵子の「臍の緒は妙薬」を読む

降っても照っても第32回クラシック音楽の指揮も、純文学も、老境に入って死期が迫れば迫るほどその芸術表現に凄みと滋味が出るようだ。河野多恵子による本作も、まさしくその典型である。全体的に著者は耄碌しかかっているが、それが武者小路実篤とはひとあ…

金原ひとみの「ハイドラ」を読む

降っても照っても第31回 題名のHydraは9つの首を持つ海蛇であるが、この小説の主人公は二つの首しか持たず、しかもその2つがお互いにぐるぐる巻きになってしまって、どちらを主人公にしていいのか自分でもわからなくなってしまう「双頭の蛇女」である。拒食…

ガルシア・マルケスの「族長の秋」を読む

降っても照っても第30回 言葉、言葉、言葉…。大きく逸脱し乱反射する豊饒なビジョンを、酔っ払った大脳前頭葉が猛烈な勢いで追走し、追いついた時点で次々に自由奔放な言葉に置き換えられる…。それが「族長の秋」でマルケスが発明した書き方だ。ここで100…

モーツアルトの1音符

♪音楽千夜一夜第22回 先日音楽評論家の吉田秀和氏がNHKの教育テレビに出演してインタビューに答えていた。そのなかで小林秀雄のモオツアルト論の衝撃について語りつつ、しかし小林は音楽の専門家ではないこと。また小林は直感と文体に優れてはいるが、彼の論…

O氏の雄たけび

遥かな昔、遠い所で第14回&勝手に建築観光21回&♪ある晴れた日に13回私は長い長い時間を隔てて、再び低い階段を踏んで大学本部に入った。有名な大隈公の銅像は私が思っていたよりも遥か遠い場所にあった。そして私は在学中にただの一度も正視したことがな…

大隈講堂を仰ぐ

遥かな昔、遠い所で第13回&勝手に建築観光20回&♪ある晴れた日に12回私らの頃からここには大隈講堂が建っていた。昔はもっとうす汚れていたと思うのだが、お色直しでもしたのだろうか? キャンパスを歩くといたるところで普請中であるが、この大学はずいぶ…

カフェー・オー・ジャルダン

遥かな昔、遠い所で第12回&勝手に建築観光19回&♪ある晴れた日に11回馬場下にあった「カフェー・オー・ジャルダン」という奥に庭園があったガラス張りの喫茶店はすでにこぼたれ、まさしくその位置に天丼屋の「てんや」が建っていたのはいっそ小気味よくも…

文学部スロープ下にて想える

遥かな昔、遠い所で第11回&勝手に建築観光18回&♪ある晴れた日に10 穴八幡の丘を下れば文学部である。ところがいつの間にか文学部はもっと右側に移転したらしくここは大学院の看板がかかっていた。かつてこのスロープの上に私たちが張り巡らしたバリケード…

中央図書館にて

鎌倉ちょっと不思議な物語65回鎌倉市は税金は高いが、そしていろいろ不満もあるが、市の図書館はとても充実している。 以前に比べると予算が減ったために他の図書館の本が回ってくることが増えたけれど、いまなお大量の新刊リクエストに応じてくれている。感…

由比ガ浜のお昼

鎌倉ちょっと不思議な物語64回やっと賃労働が一段落したので、梅雨の晴間を縫って由比ガ浜の回転寿司「ととやみち」に行く。昔と違っていつも混んでいるようだ。ここは1皿100円から200円、350円までで様々な魚貝を楽しめる。近くの腰越港などから…

穴八幡をのぞく

遥かな昔、遠い所で第10回&勝手に建築観光17回戸塚を過ぎて早稲田に入る。かつて全線座があった向かいの丘に登れば穴八幡神社である。ここは岩清水八幡宮から幕府が勧請した北の鎮護で、かつては能が舞われ、流鏑馬が走り、堀部安兵衛が有名な敵討ちをした…

なおも戸塚近辺をうろつく

遥かな昔、遠い所で第9回ここいらあたりは昔は戸塚1丁目と2丁目であったはずなのに、地名表示を見ると西早稲田に変わっている。いつ誰が勝手に変えたか知らないが迷惑な話だ。東京の地名はすべからく戦前の呼称に復古してもらいたい。私はそーゆー構造改革…