蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2007-02-01から1ヶ月間の記事一覧

モーツアルト狂想曲

♪音楽千夜一夜第13回 真率あふるる音楽の言葉、心情の奥の奥の、またその奥にかすかに響く音を、私はTRAZOMに聴く。いま流れてくるのはハ短調の幻想曲K475、そして続いて同じハ短調のピアノソナタK457、いずれも偉大なクラウデイオ・アラウの演奏で聴いて…

フランス革命、万歳!

♪音楽千夜一夜第12回 恐るべきフランス革命は、「魔笛」の夢の世界を徹底的に破壊し、音楽の真の革命家であるモーツアルトの革命的な音楽を破壊しつくした。19世紀にはもう彼の市民権はなかった。モーツアルトと同様に、あの高雅なハイドン、ヘンデル、ヴ…

甦ったモーツアルト

♪音楽千夜一夜第11回音楽の唯一無二の革命児、TRAZOM。彼の死後およそ1世紀を経て、さながらダライラマのように欧州の地に生まれ変わったのは、他ならぬアルチュール・ランボーであった。100年後のTRAZOM、ランボーの言葉を聴こう。「僕らの欲望には、巧…

2つの春

鎌倉ちょっと不思議な物語45回第43回の続編です。小さな水溜りに2種類のカエルの卵を発見しました。笑み里さん情報によれば、一番右側がアカガエルの仲間であろう、ということです。きのうと1昨日に見かけた割合小さい2匹が、おそらくこの卵の産みの親…

モーツアルトの最期

♪音楽千夜一夜第10回モーツアルトの生前の最後の作品は、1791年11月15日に書きあげられた「フリーメーソン小カンタータ」である。いま私はそのK623をCDで聴きながら、これを書き飛ばしてる。オロナミンCのような元気ではつらつとした音楽で「楽…

笑々っていいとも

鎌倉ちょっと不思議な物語44回鎌倉でも京都でも、電線はいたるところに張り巡らされ、電柱は勝手にそそりたち、おまけにアホバカ携帯会社がおんなじ地域に3本もU字型のアンテナ塔をおったてても誰も文句をいわない。さすがの彼らも多少は気がひけるのか、昨…

早すぎた春

鎌倉ちょっと不思議な物語43回今日は家族と例の産卵場所に行って泥と木の葉をかき出して水溜りを増やしてやった。で、鎌倉ちょっと不思議な物語42でご紹介したカエルの卵であるが、どうも違うみたい。ヒキガエルはもっと大きなループ状になっており、ゼラチ…

♪醜い鎌倉の私

あなたと私のアホリズム その11 おお鎌倉、お前は醜い。東口駅前は、かなり醜い。小町通りも、相当醜い。ああマクドナルド、お前もひどく醜い。そして「笑々」、おめえは余りにも、余りにも醜い。 しかし我々は、醜いものを直視しない。そっと眼を逸らして、…

ちっとも美しくない日本と日本人

あなたと私のアホリズム その10中島義道が説くように、日本人はそれほど美しいものを愛好しているわけではない。むしろその逆だ。 我々は、新宿や秋葉原や渋谷センター街の現代的な光景をことのほか愛している。そしてそこは醜悪でグロテスクな街だ。 三茶や…

ありがとう、ありがとう、ありがとう

遥かな昔、遠い所で 第7回今日の日経の夕刊に嵐山光三郎の「渡辺和博氏の死」を悼む弔文が掲載されていた。彼は10年間にわたって週刊朝日に「コンセント抜いたか」というエッセイを連載していたのだが、その相方のイラストレーターの渡辺和博氏がガンで亡く…

四吟歌仙

遥かな昔、遠い所で 第6回 一 (新年) パソコンを開けば思はぬ賀客かな 杉月二 (新年) ネットを揺らす獅子舞踊 あまでうす芒洋三 (春) 梅林に黒猫一匹横切りて 峯女四 (春) 主人はひとり春炬燵する ろく水五 (春・月) おぼろ月異郷の家並みにかかり…

不安な春

鎌倉ちょっと不思議な物語42回 去年は3月6日に発見したヒキガエルのオタマジャクシの卵を、昨日同じ場所で見つけた。私が知る限りヒキガエルが天然自然に繁殖しているのは、光明寺の深い池と果樹園とここだけだ。かつては春近い季節のとある日に、突如どこか…

遥かな昔、遠い所で 第5回

三歌仙発句 鎌倉の谷戸に咲きたり岩煙草 あまでうす芒洋 脇 そぼつ五月雨烟るむらさき ろく水 第三 早乙女の笑顔まぶしき昼下がり 峯女 四句目 誰かさんが眠っているよ小麦畑 芒洋 五句目 名月に栗も団子も間に合わず ろく水 六句目 可不可を論ずる虫たちの…

平成風狂散人の傑作を読む 

嵐山光三郎著「よろしく」(集英社) 嵐山光三郎は不当に低く評価されている作家だが、それは間違っている。彼の作品はすべて読むに値し、読後の深い感銘を残す。特に山田美妙や芭蕉などの文学者を素材に取り扱った際の彼の技量の冴えは鋭く、凡百のヒョーロ…

遥かな昔、遠い所で 第4回

両吟歌仙 「春の膳の巻」 独活に蛸酢味噌よろしき春の膳 ろく水 そよと吹き込む五弁の桜 楽斎蝶来る窓辺に本の積まれおり ろく 学成り難くごろ寝するなり 同満月を見つけし宵のうれしさよ 楽 げにすさまじきゴッホの流星 ろく跳ね橋の袂に咲きたる曼珠沙華 楽 …

景山民夫氏の思い出

遥かな昔、遠い所で 第3回昔、といっても80年代の中頃のことだが、マガジンハウスの「ブルータス」という雑誌の名物編集者で、現在は「ソトコト」の編集長である小黒一三さんから景山民夫という作家を紹介された。景山氏は長身の都会的な青年で、とても端正…

くたばれ!マウンティング・バイク

あなたと私のアホリズム その9 最近これはちょっとヤバイと思うのが、山道の奥の奥の杣道を猛烈な勢いで突っ走る無軌道なマウンティング・バイクである。こっちは都会の喧騒と車が嫌で田舎に引っ込んでいるというのに、最新式の重装備自転車にまたがった奴ら…

勝手に東京建築観光・第6回

夕中野坂上には、かの有名な中野長者の成願寺がある。昔紀州熊野出身の鈴木九郎という男がいた。先祖はかの源義経の部下で奥州で討ち死にしたそうだが、その後裔である九郎は、いま東京タワーが建っている縄文時代の聖地芝に漂着し、葛飾の馬市で売った馬の…

落石に注意!

鎌倉ちょっと不思議な物語41回 おなじみの朝比奈峠に最近異変が起こっているらしい。つい先日も市役所の史跡保存関係者の面々が上空を見上げていた。この峠のさらに上にはハイキングコースがあって、その根本の石や土砂がいつ崩落してもいい状態にあるらしい…

半藤一利著「其角俳句と江戸の春」を読む

あなたと私のアホリズム その8 鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春鶯の身をさかさまに初音哉闇の世は吉原ばかり月夜かなわが雪と思へばかろし笠の上夕涼みよくぞ男に生まれけり憎まれてなかれえる人冬の蝿いなずまやきのふは東けふは西秋の空尾上の杉を離れたり…

五木寛之の「仏教の旅」を読む

あなたと私のアホリズム その7 最近NHKがインドの衝撃という番組でその破竹の進撃ぶりを伝えていたが、不思議なことにこの国の最大の問題点であるカースト制度についてまったく触れていなかったのが印象に残った。インドのカーストとは身分を分ける4つのヴァ…

未来世紀ブラジル

勝手に東京建築観光・第5回 才人監督テリ―・ギリアムの「未来世紀ブラジル」は大好きな映画だが、ここに出てきた近未来都市さながらの光景が、中野坂上駅前のサンブライト・ツインビルの外装である。階上に向かうエスカレーターに乗って左上方を見上げれば、…

ザ・ビッゲスト・スリー

あなたと私のアホリズム その6 世界の三大宗教は3人の偉人の偉大な死によって始まった。イエス・キリストは西暦28年、32歳のときポンテオ・ピラトの命によってゴルゴダの丘で十字架上で磔になり、「わが神、わが神、なんぞ我を見捨て給いし」と叫んで息…

数珠を回して

ある丹波の老人の話(4) その日、大広間には大勢の人たちが集まりました。そして一同は輪になって座ると、まず願主の祈りがあり、続いて会衆は口々に南無阿弥陀仏を唱えつつ、両手で珠を送って数珠をグルグル回すのです。珠の中には格別大きうて房の垂れた…

百万遍の大祈祷会

ある丹波の老人の話(3) にわかめくらの母はなにひとつ自分ではできません。食事の世話は箸の上げ下ろしから、便所通いにはいちいち肩を貸し、私はだいじなだいじな母、好きな好きな母のために、学校を長く休むかなしさも、友達と遊べないさびしさも忘れて…

ある丹波の老人の話(2)

するとそのとき、母は「わたしは柳谷の観音様におこもりして“消えずのお灯明”をあげて一生一度の願を掛けてみよと思うんや。そやからどうぞわたしをそこまで連れて行っておくれやす。あとはどないなってもええさかいに、二人は家に帰っとくれ」というのです…

ある丹波の老人の話(1)

私の家は昔から不思議に男の子が生まれへん家でしてなあ、三代四代と養子を続けておりました。そこへ私が生まれたのでありますが、その私はまことにひ弱な、しなびたみっともない子でしてなあ、母は恥じて人には見せなかったと申します。 それがどうにか育っ…