蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2008年亡羊睦月詩歌集

♪ある晴れた日に その20 おみくじは引かずに帰る鎌倉宮なにごとのおわしますかはしらねども今年もなんとか生きていくよ去年今年生きてしあればそれでよし初日の出今年も市中に山居せむ小便の泡で描きたる髑髏かな父祖伝来暗黒面に光なし粛々と死地に赴く銀の…

ホッブズ・ファッションの時代

ふあっちょん幻論第7回前回、私は80年代に女性の肩パッド入りジャケットがアウト・オブ・ファッションになると同時に婦人服の全体的なシルエットがよりミニマムで身体にきちんとフィットした細身のシルエットに変化していったこと、それからおよそ二十年近く…

小島信夫著「暮坂」を読む

照る日曇る日第92回この本にはさまざまな人物とそれらの人物がかもし出すさまざまな事件というか日常生活の断片が次々に描かれる、それはそれとして面白くないこともないのだが、読んでいて退屈になるどうでもいい挿話も続々と出現してきて、普通の私小説な…

吉本隆明、梅原猛、中沢新一著「日本人は思想したか」を読む

照る日曇る日第91回梅原猛、吉本隆明、中沢新一の新旧思想家による日本思想史の大総括書である。今から10年以上前の対談であるが、いま読んでも随所に斬新な知見がちりばめられており、再読三読の価値がある。例えば次のような中沢などの指摘があって興味深…

ある丹波の女性の物語 最終回 

遥かな昔、遠い所で第69回 生涯病弱だった継母の死は、其の4年後の63年11月に訪れた。90歳を5日後にひかえた死であった。 夫の死後1年で創業100年余の店をとじ、殆ど床にある母と2人きりの暮らしが続いた。それでも気分の良い日には教会に出か…

ある丹波の女性の物語 第46回 

遥かな昔、遠い所で第68回 父が召されて28年がたってしまった。時代は移り変わり、洋装の時代となり店は縮小していった。 夫は父の死後、株に興味を覚え、ラジオの短波放送に聞き入る事が多くなった。そして1年後には持ち株の殆どをうしなってしまったの…

ある丹波の女性の物語 第45回 

遥かな昔、遠い所で第67回 37年6月21日、その父が突然亡くなったのである。 大津びわこホテルにおいて、信徒会の席上自分の抱負を語りつつ「イエス、キリストは………」の言葉を最後に倒れ、天に召された。 父は自分の思う通りに生き、まさに天国への道を…

ある丹波の女性の物語 第44回 喜寿

遥かな昔、遠い所で第66回 夫もボツボツ休みながら、仕事も出来るようになり、34年の問屋の招待旅行には、私に姉の絢ちゃんと2人で行くようにすすめてくれ、出雲大社への旅行に出かけた。 2月末なのにとてもあたたかくて、皆生温泉では私達姉妹には浜辺…

ある丹波の女性の物語 第43回 夫の入院

遥かな昔、遠い所で第65回 父が念のためにと、夫を京大病院の結核研究所へ連れて行った。開放性ではないが、肺炎と結核におかされているので、要入院との事で、直ちに綾部の郡是病院の結核病棟に入院した。私はすでに覚悟はしていたけれども、入院準備はすべ…

ある丹波の女性の物語 第42回 旅行 

遥かな昔、遠い所で第64回 翌32年も問屋の九州旅行に、私達は再び参加した。2月は一番ヒマな時期なので、父達も心よく留守を引き受けてくれた。別府、阿蘇を経て、長崎から雲仙、三角港から熊本へと1週間の旅であった。阿蘇山上は一面の雪で、あのこおり…

モーツアルトの降臨

♪音楽千夜一夜第31回&鎌倉ちょっと不思議な物語96回 プラハの国立劇場オペラは、モーツアルトの「ドン・ジョバンニ」や私が偏愛する「皇帝ティトスの慈悲」を初演したオペラハウスとしても知られている。先夜私は、この中欧の凡庸とは言わないまでもローカ…

吉本隆明・大塚英志著「だいたいで、いいじゃない。」を読む

照る日曇る日第90回 「だいたいでいいじゃない」というタイトルは悪くない、いや素晴らしいかもしれないと思ったのには理由があって、毎日のマスコミをにぎわせている政治、経済、社会などの話柄とそれを巡るとかく重箱の隅をつつくようなミクロの決死圏で、…

網野善彦著作集第6巻「転換期としての鎌倉末・南北朝期」を読む

照る日曇る日第89回 安達泰盛といえば蒙古来襲のみぎりに自らの首を賭けてひたすら恩賞を求めて一所懸命に戦った竹崎季長に破格の待遇と恩賞を与えた剛腹な御家人だった。しかし霜月騒動によって当時の悪党どもによって暗殺される(私のご贔屓の)悲劇の政治…

ことばには意味がある!?

♪バガテルop37最近岩波書店の広辞苑10年ぶりに改訂され、新聞をメインにした第6版新発売キャンペーンが展開されているようだ。ビジュアルに手塚治や桑田投手など意表をつくキャラクターを起用しているのはいいとしても、キャンペーンテーマのコピーが「こと…

スクッと立つ?

♪バガテルop36 毎年「成人の日」にはサントリーの広告が出る。確か以前は山口瞳氏がコピーを書いていて、一読なかなかのものだった。氏亡き後は伊集院静氏が担当しているが、年々その中身も表現も、ビールにたとえるとコクが失せ、切れ味が鈍くなり、全体の…

行方不明

♪バガテルop35&鎌倉ちょっと不思議な物語95回家で寒さに震えていたらピンポーンと音がした。出てみる毛糸の帽子を被ったひとりの男が立っていた。私の近所の住人だ。 「年明けの今月の7日から自分の70代の母親が行方不明になっている。もし心当たりがあった…

君の瞳は6万6千ボルト

♪バガテルop34&鎌倉ちょっと不思議な物語94回去年の暮れに兵庫県川西市の住民が携帯電話の基地局から放射される電磁波で耳鳴り、吐き気、不眠などの健康被害が出たとしてNTTドコモを訴え、ドコモ関西が撤去したという記事が出ていた。携帯電話と健康の相関…

ある丹波の女性の物語 第41回 大売出し

遥かな昔、遠い所で第63回 31年2月の問屋の招待旅行には、両親のすすめで夫婦揃って、修善寺熱海旅行に出かけた。東京の結婚式から綾部の披露宴に帰る途中、強羅ホテル、奈良ホテルに宿泊して以来12年ぶりの事であった。三津港から眺めた富士山の姿が心…

藤原伊織著「名残り火」を読む

照る日曇る日第88回藤原伊織の最後の長編が本書である。著者はいったん雑誌の連載を終えてさらに推敲中に没したそうで、ある意味では未完だが物語はいちおうの結末には達しており、その全貌をうかがい知るうえでの問題はないだろう。仔細に点検すれば、殺人…

ポール・セロー著「ワールズ・エンド(世界の果て)」を読む

照る日曇る日第87回生まれてきて済みません、だの、ここはどこ、私は誰?といった違和感、場違い感は誰しもが人生に懐く感慨だが、ポール・セローの場合は筋金入りだ。おそらくは生まれながらにこの世界に対する複雑なねじれを感じつつこれまで生き延びてき…

メンズウエアの現在

ふあっちょん幻論第6回 現在の小売業の市場規模はおよそ133兆円、そのうちファッションの市場はテキスタイル、アパレル、身の回り品を含めて約11兆円である。さらにその内容を見ると婦人6兆、紳士3兆、子供ベビーなど1兆円、という大雑把な比率であ…

ぐあんばれ野茂!

♪バガテルop33長い長い蹉跌と雌伏と忘却の時期を経て、われらがヒーロー野茂英雄が大リーグのマウンドにまもなく帰ってくる。1月4日の彼のホームページによれば、彼はカンザスシティ・ロイヤルズとマイナー契約を交わし、3年ぶりにメジャーリーグに返り咲…

ある丹波の女性の物語 第40回 家族の写真

遥かな昔、遠い所で第62回昭和30年頃のアルバムの中に、京都岡崎動物園で2匹の象をバックに、私達親子5人を撮った写真がある。これが私達5人揃って外出した、最初で最後の記念写真である。 その頃の小さい個人商店では、家族揃って遊びに出る事など珍し…

島田雅彦著「佳人の奇遇」を読む

照る日曇る日第86回&♪音楽千夜一夜第31回 「佳人之奇遇」なら明治時代に元會津藩士の東海散士が書いた金髪美人が大活躍する政治小説だが、島田雅彦のそれは金髪や黒髪の美人が大活躍しこそすれまったく非政治的な泰平の御世の音楽小説である。その音楽とは…

「A@A アート・アット・アグネス アートフェア2008」へのご案内

すでにご存知の方も多いと思うが、今週土日の12、13日に「アグネスホテル アンド アパートメンツ東京」で「A@A アート・アット・アグネス アートフェア2008」が開催される。 東京神楽坂の瀟洒なホテルの一室をギャラリーに仕立て、選りすぐりの現代美術作品…

G・ガルシア=マルケス著「迷宮の将軍」を読む

照る日曇る日第85回ラテンアメリカ諸国の統一を夢見て1830年、サン・ペドロ・アレハンドリーナの別荘で47歳の生涯を終えた偉大な革命家であり、軍人であり、政治家であり、詩人であり、歌手でもあったシモン・ボリバールが本作の主人公である。現在のベネズ…

森見登美彦著「有頂天家族」を読む

照る日曇る日第84回この人の小説は初めて読んだが、とても面白かった。かつて私がケネディ大統領が暗殺された年に暮らしていた京都を舞台に、主人公である狸の一族と鞍馬に住む天狗と人間の3つの種族が、表向きは人間の姿かたちをしながら現実と空想が重層的…

ケルアック著「オン・ザ・ロード」を読む

照る日曇る日第83回東京の明治通りの千駄ヶ谷小学校の交差点をビクターの録音スタジオ、明治公園方向に下っていくと左側の交差点に河出書房がある。じつはこの近所に私が勤務していたかなり大きな会社があって、よくここまでランチを食べに来たものだった。…

神津朝夫著「山上宗二記入門」を読む

照る日曇る日第82回お正月といえば、なんとなく初釜やお茶の会などを思う。もうずいぶん昔になるが、私は東京の裏千家のお茶の会の末席を汚したことがある。どんなものかと興味津々だったが、しかしてその実態は、書画や茶碗を無暗に褒めたり、その凡庸な茶…

ある丹波の女性の物語 第39回 菊人形

遥かな昔、遠い所で第61回 25年春には長男が綾部幼稚園に入園し、秋には綾部商工会議所主催の「綾部菊人形」が始まった。会場は町はずれにあるので、行き帰りの客で商店街は大賑わいであった。催し物として「宝塚少女歌劇」の公演もあった。あんなに街中が…