蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

佐野真一著「甘粕正彦 乱心の荒野」を読んで

照る日曇る日第151回満州帝国の影の支配者といわれた甘粕は、超天皇主義者であったとおなじくらいに、超合理主義者でもあった。本書の371pには満映理事長時代の甘粕は東条に満州情勢を報告するために一時帰国した折の挿話が書かれている。甘粕は、国民精…

イサク・ディネセン著「アフリカの日々」を読んで

照る日曇る日第151回 「アフリカの日々」を読んでいて、これはいつかどこかで見聞きした話だなと思っていたら、やっぱりロバートレッドフォードがかっこよく死んでいったあの愛と哀しみの「アウト・オブ・アフリカ」の原作だった。しかし映画ほどあまっち…

平野啓一郎著「決壊」を読んで

照る日曇る日第150回この節は自分を独り静かに滅却できない人間が通りすがりの人間を無差別に殺害する殺人事件が流行しているが、この小説でもその種のテーマをなんのてらいもなく取り扱っている。これは一昔も二昔も前にはやった小説作法における「主題の積…

続 五味文彦・本郷和人編現代語訳「吾妻鏡」第3巻を読んで 

照る日曇る日第149回&鎌倉ちょっと不思議な物語143回いっぽう弟の義経を憎みその殲滅をはかろうとした頼朝は、文永3年1186年4月8日に京で捕らえた静御前を鎌倉八幡宮に召し、白拍子の名手として知られる彼女の踊りを強いた。 よし野山 みねのしら雪 …

五味文彦・本郷和人編現代語訳「吾妻鏡」第3巻を読んで その1

照る日曇る日第148回&鎌倉ちょっと不思議な物語142回7月下旬に発注された賃労働が本日午前にやっと終了。午後3時から30分間の由比ガ浜海水浴を楽しむ。今日は大潮であった。昨日より波風少ないが、なぜか遊泳注意の黄色い旗が翩翻とひるがえっていた。この…

宇苗満著「幻の鎌倉」を読んで

照る日曇る日第147回&鎌倉ちょっと不思議な物語141回 今日は敗戦記念日なのに、今年11回目の海水浴。風波強く全身砂まみれになった。 同じ由比ガ浜の海なのに、毎回様子が違うので飽きることがない。さて本書だが、著者は鎌倉新宗教の一方の旗頭である一遍…

さらば利尻礼文

♪ある晴れた日に その37利尻にはただ一軒の魚屋なし魚屋なしに魚喰う人の幸走れども走れども一台の車なし車なき礼文の喜びと悲しみ浜茄子の色と香りは優しくてげに礼文こそ花の浮島サハリンと呼ばず樺太と言うバスガイド国家主義者ならねど好ましと見るカフ…

宗谷岬・稚内紀行

♪ある晴れた日に その36立秋の海と空とが交わる日宗谷岬に樺太見たり樺太はわが指呼の間に横たわる海と空とが接するところに台湾人は怒鳴るがごとく会話せり礼文稚内のフェリーの中で稚内の青物市場で求めし富良野メロン余す所なく食べにけり稚内の生鮮市場…

続 礼文島紀行

♪ある晴れた日に その35海猫鳴きアキアカネ飛ぶ北の海アザラシの群れ一路南下すリーダーは頭を一旋加速せりいずこへ急ぐや樺太アザラシ「冷た貝」に食べられてしまった「小巻貝」礼文の浜に静かに眠るさいはての冷たき海に沈みけり真っ赤に燃えし礼文の夕陽…

礼文島紀行

♪ある晴れた日に その34わが国の最北端の岬にて営業す民宿スコトンはとことん商人桃太郎が空に向かって投げつけし強大な岩を桃岩というにやにやうにやうと哀しき声にて鳴きにけり最果ての空にウミネコどもは朝五時にサイレン鳴りて島民はこぞりて昆布漁を支…

利尻島紀行

♪ある晴れた日に その33いつまでも村人たちは踊りたり余りに短き夏を惜しみて選挙迫り地元議員は浴衣着て山車に跨り太鼓叩くも利尻富士に聖なる神が居ますゆえ蛇は棲まぬと親爺説きけり樺太を追われて来たるアザラシはサハリン1、2の犠牲者なるかな荒き波荒…

利尻・礼文島にて その1

♪ある晴れた日に その32――今月の5日から7日まで生まれて初めて北海道の利尻島と礼文島を旅行した忘れ形見に電車に乗り飛行機に乗りてから船に乗り 利尻礼文の海山に着きたり利尻には利尻夏蝉、礼文には礼文夏蝉 ひがなジジッと鳴きおり利尻富士は富士よりう…

桐野夏生著「東京島」を読んで

照る日曇る日第146回おそらくは東シナ海にある孤島東京島に吹き寄せられた日本や中国やフィリピン人たちが繰りひろげる真夏の夜の夢のような一場の戯画であるが、メンデルスゾーンの夢幻世界と違うのはそれがまぎれもなく私たち現代人に親しい夢魔の世界であ…

レオニード・ツィプキン著「バーデン・バーデンの夏」を読んで

照る日曇る日第145回新潮社のクレストブックは用紙や装丁がどことなく西欧の文学書のにおいをほのかながらも伝えているので、たまに手に取るが、この本はタイトルに惹かれて読んでみた。なんとなく私の愛してやまない「旅の日のモーツアルト」を連想したのだ…

続々安田次郎著「走る悪党、蜂起する土民」を読んで

照る日曇る日第144回&鎌倉ちょっと不思議な物語140回 室町幕府は京の花の御所にあったが、関東の政務は鎌倉公方4代目の足利持氏が関東管領の上杉憲実と共に執り行っていた。鎌倉公方の御所は私の住まいから5分の浄明寺にあり、その旧蹟には写真のような鎌…

続 安田次郎著「走る悪党、蜂起する土民」を読んで

照る日曇る日第143回&鎌倉ちょっと不思議な物語139回 盂蘭盆には死者のために経を読み、供物や手向け水を供える。風流(ふりゆう)、風流踊り(盆踊り)はほんらいは死者の供養のためのダンスだが、これらは室町時代に日本全国で流行し、芸能化・娯楽化の道…