蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ある晴れた日に 第100回

西暦2011年神無月 蝶人狂歌三昧 10月の6日に夏の蝉が鳴く蝉どもは街から山山から谷へと日々退けり曼珠沙華刈り残すほどの菩提心毎日空の写真を撮り続ける人の心は寂しいこらそんな所で車を停めて昼寝するな白洋舎の営業マンお前は歌うな 黙ってそこで大…

ジェフ・ダイヤー著「バッド・ビューティフル」を読んで

照る日曇る日第461回 レスター・ヤング、セロニアス・モンク、バド・パウエル、ベン・ウエブスター、チャールズ・ミンガス、チェト・ベイカー、アート・ペパー、そしてデューク・エリントンにイタコのように成り変わって著者が勝手に空想してでっちあげた8つ…

小津安二郎監督の「秋刀魚の味」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.162妻に死なれた老齢の夫が、親思いの娘の労働力に頼る。あっという間に歳月が経つと最愛の娘は婚期を逸して、可哀想に愚かな父親の哀れな犠牲者になってしまう、という話はこの映画が製作された1962年くらいまで…

ロバート・デ・ニーロ監督の「ブロンクス物語」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1611993年製作のハリウッド映画で、デ・ニーロが製作、監督、主演と大活躍しています。つづめていえばニューヨークのブロンクスを舞台にした、バスの運転手である父親と息子の成長と青春を描く平凡なビルダングス…

鎌倉文学館で「芥川龍之介と久米正雄」展を見て

茫洋物見遊山記第65回&鎌倉ちょっと不思議な物語第245回 日毎に深まりゆく秋の日の昼下がり、相模湾の見える庭園に薔薇が咲き乱れる鎌倉文学館を再訪した。芥川は明治25年に東京、久米はその前年に長野に生まれ帝大の英文科に学び、晩年の漱石に師事して…

川西政明著「新・日本文壇史第六巻」を読んで

照る日曇る日第460回 葦平、泰次郎、泰淳、知二、順、宏、鱒二、道夫……、文士が、続々とアジアの戦場に出る。彼らは満州から中国、フィリピン、シンガポール、ビルマ、インド……、大東亜共栄圏のために積極的にしろ消極的にしろ陸海空で戦う。 そして著者は読…

さようなら「青砥」

鎌倉ちょっと不思議な物語第244回&バガテルop146 いつもその前の道路をバスで通っていながら気がつかなかったのだが、青砥橋のバス停の近所にあった家庭料理屋の「青砥」がこの3月に閉店していた。素材を吟味した質朴な家庭料理を上品な家庭婦人が饗するこ…

ヘンデルの「オペラ・コレクション」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第226回大廉価メーカーのソニーグループが傘下レーベルを総動員して編んだヘンデルの偉大なオペラを2週間ほどで聴き終えました。この「音楽の母」には全部で40曲以上のオペラがあるようですが、そのうちの比較的ポピュラーな8曲、すなわちリ…

セルジオ・レオーネ&ロバート・アルドリッチ監督の「ソドムとゴモラ

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.161旧約聖書の「創世記」第19章にでてくる有名な乱倫と退廃の街を舞台にした1961年製作の映画であるが、聖書の簡単な叙述を近代的な間隔で自在に脚色した結果、面白くて見ごたえのある作品となった。古代ヨルダン…

テレンス・ヤング監督の「うたかたの恋」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1601889年にマイヤーリングで男爵令嬢マリーと謎の死を遂げたオーストリア皇太子ルドルフの不幸な生涯と恋愛を扱った1968年仏英合作の映画です。母エリザベート(あな懐かしやのエヴァ・ガードナー!)の影響…

♪ピンポンパンの唄

ある晴れた日に 第99回&バガテルop145あれはたしか一カ月ほど前、税務署から出頭を命じられて大蔵大臣と一緒に出向くと中国の不思議な役人みたいな奴とそのしたっぱが丁重に出迎えわが内閣が数年前に提出した予算案に疑義があり保険金利子の申告漏れが見つ…

サバリッシュ指揮の「シューベルト宗教的世俗的合唱作品集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第225回シューベルトのミサ曲全曲に加え、彼が友人たちを囲んで開いた小さなサロンコンサート(シューベルティアーデ)のために作曲した家庭的な合唱曲などもまとめて収録した全11枚組の超廉価盤(@233円!)CDである。ウオルフガング…

鎌倉市図書館のポスターを評す

茫洋広告戯評第14回 &バガテルop144&鎌倉ちょっと不思議な物語第243回鎌倉の御成小学校の辺りを歩いていたら、「万巻の書をよみ 万里の道をゆく」という鎌倉図書館創立100周年の記念ポスターが貼ってあった。明治44年に当時の町民の篤い志によって市のは…

セイ・ハシモト新作絵画展を見て

茫洋物見遊山記第64回セイ・ハシモトこと橋本精一画伯は1938年神戸市に生まれ、小磯良平、田村孝之助などからデッサンの指導を受け、1961年に日大芸術学部美術学科を卒業し83年文春画廊にて初個展。以後全国の百貨店他で個展を多数開催している。…

深川栄洋監督の「白夜行」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.159東野圭吾という今まで読んだことのない作家の大ベストセラー小説を映画化したのが本作だというが、ともかく全篇を通してセリフが聞こえないのでどういう話かよく分からない。どうやら「砂の器」を模倣したような長…

桐野夏生著「緑の毒」を読んで

照る日曇る日第459回タイトルに魅せられて読んだが、奇妙な失敗作というべきか。開業医が水曜日の夜に手当たり次第に住居に不法侵入してスタンガンで気絶させ、麻酔薬を注射して婦女暴行するという話には大いに興味を抱いたのであるが、いったいどうしてそう…

金原ひとみ著「マザーズ」を読んで

照る日曇る日第458回 3人の独身女性がそれぞれの子をもうけ、育児に翻弄されながらそれぞれの道を切り開いていくありさまが、おのがじしの体験と重ね合わせるようにして愛と共感と激励とともに語られる。一人は作家、一人はモデル、もうひとりは普通の主婦…

EMIの「マルタ・アルゲリッチ・ソロ&デュオ集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第224回 1965年から2009年の間に彼女が演奏した独奏曲と連弾を集めた超バジェット6枚組CDでげす。しかしソロはシューマンの作品15と46、ショパンの作品24等をスクープしたたった2枚しかなくて、あとの4枚はコワセヴィッチやフレ…

ファン・ホセ・カンパネラ監督の「瞳の奥の秘密」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.158 これは英語でもフランス語でもなくスペイン語で喋っているあら珍しやのアルゼンチン映画。部下の男性を愛する女性判事がヒロインですが、後期バーグマン似のこのラテン系のえぐい顔がどうしても気になってあんまり…

ジュリアード弦楽四重奏団のモーツアルト集を聴いて

♪音楽千夜一夜 第223回 お馴染みのソニーによる超格安セットですが、いくら安くても駄目なものは駄目だ!とあら懐かしや土井委員長。ハイドンセットや弦楽五重奏曲の全集を6枚のCDにセットした演奏は見事なのですが、ともかく録音が悪いから聞くに堪えませ…

フランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー3」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.157シリーズ最終作はマフィア稼業を揚棄して政財界のみならずバチカン銀行、枢機卿、法王にまで渡りをつけたアルパチーノ・ゴッドファーザーが、一将成って万骨枯れるさまを彼の息子が主演する「カバレリア・ルスティ…

フランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー2」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.156 シリーズ第2作ではトマト畑で亡くなった先代ゴッドファーザーの生い立ちが二代目アル・パチーノの暗欝な闘争と覇権の確立と交互に描かれる。マーロン・ブランドの若き日を演じるのはロバート・デ・ニーロで、この…

マイケル・パウエル監督の「うずまき」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.155これは1945年製作の英国映画で、話も面白いがそれよりも第2次大戦を戦いながらよくもこういうスリルとサスペンスに富んだ奇想天外な冒険恋愛映画をつくったものだと感心する。アメリカもフランスもそうだが1945年製…

ジャン・ドラノワ監督の「サン・フィアクル殺人事件」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.154ジョルジュ・シムノン原作のメグレ警視が活躍する探偵小説を、懐かしのジャン・ギャバンが余裕たっぷりに風格の主演を楽しんでいる。サン・フィアクルというのはフランスの地名で、わがメグレ警視の生誕の地である…

フランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.153マリオ・ブーゾの原作をコッポラが監督し、マーロン・ブランドとアル・パチーノが共演した1972年のアメリカ映画で、この2人の演技と存在感がともども素晴らしい。特にブランドのしゃがれ声がニノ・ロータの哀愁を帯…

加藤陽子著「昭和天皇と戦争の世紀」を読んで

照る日曇る日第457回本書を読むと、満州事変、日中戦争、そしてアジア太平洋戦争のいくたの局面に、昭和天皇がどのようにかかわったのかを詳しく知ることができる。昭和天皇と戦争相関関係を微に入り細にわたって追及する著者の筆は鋭い。例えば米国への宣戦…

マイケル・ウインターボトムの「日蔭のふたり」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.151トーマス・ハーディの「日蔭者ジュード」をマイケル・ウインターボトムが映画化した1996年製作のイギリス映画である。いかにも朴訥なイングランドの農家や荒野が出てくるが、そこで人々は過酷な生活を強いられ…

ムルナウの「最後の人」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.151こちらは「タルチュフ」の前年1924年に製作された名編で、ベルリンの名門ホテルの名物ドアマンのエスカレータ物語。寄る年波に勝てず支配人から洗面所の世話係に降格された主人公は、プライドと共に絢爛豪華な…

ムルナウの「タルチュフ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.150ドイツ映画創世記の巨匠ムルナウが1925年に製作した無声映画で、モリエールの原作に触発されて撮った愛はぺテン師に勝つ、という教訓物語。悪賢い家政婦に財産を巻きあげられ、あわや毒殺されようとしたボケ老…

アン・リー監督の「いつか晴れた日に」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.149 1995年製作の米英合作映画。漱石がもっとも愛した閨秀作家ジェーン・オースティンの「センス&センシビリティ」を英国の女優エマ・トンプソンが脚色し、台湾人のアン・リーが監督している。人世の基本は家庭と…