蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ある晴れた日に 第100回


西暦2011年神無月 蝶人狂歌三昧


10月の6日に夏の蝉が鳴く

蝉どもは街から山山から谷へと日々退けり

曼珠沙華刈り残すほどの菩提心

毎日空の写真を撮り続ける人の心は寂しい

こらそんな所で車を停めて昼寝するな白洋舎の営業マン

お前は歌うな 黙ってそこで大人しくしてろ

これまでにかくも繊細なる工芸品を見たことなし夏目金之助氏の細身の名刺 

さらば青砥五風十雨の恵一去一来の所縁哉

脳内に兇暴なる鰐を飼うわたしたち

「だ」は男性的攻撃的「です」は女性的受容的あら不思議

ビンボーな日雇い労務者からむしりとる鎌倉税務署のピンポンパン

落下して骨折りし妻に忠義立て痛い痛いと泣くオンボロ自転車

秋の蚊を柔らかく叩いて殺す午後

駄句ムク抱く愚句冗句ジョーズ 

狭き庭に巨大な棕櫚を植えし人

猫か幼児かそれとも私が泣いているのか

最期まで闘いつつ死ぬは独裁者の最期の務め

驚天動地生成流動才気煥発丁々発止清新溌剌縦横無尽

日記書きましたなぞとつぶやいて客を誘う君は孤独な一匹ブロガー

少年の眼の塵をぞろりと舐めて取りしは祖父小太郎

翌日には皆忘れ去られる誇大記事を今日も綴るなり三文新聞

音楽を聴いていると眼を瞑るので免許は取りませんでしたと坂本選手

11年シャンパンファイトを知らざりし背番号51の秘かな哀しみ

モザールを弾いてほしいのにいま私ショパンを弾きたいんですという少女

お父さん風のガーデンに行ってきましたと無事長男帰宅す

パパハイドンを料理してラフマニノフに挑む九十八歳

自閉症を脳障害と認知できにまま百歳になりたる大病院長

セキレイが私を見ている私も黄セキレイを見る

どこまでも釣り舟草を追いかけてゆく

ブレーキのない自転車に乗る奴はみなみな弾き殺されろ

ヘイ・ジュード! 人生から逃げるな、宿命を恐れるな

ミンミンと鳴くのはミンミン、ジイジイは油、チイチイはニイニイ蝉、カナカナはヒグラシ、シャンシャンはクマ蝉、ツクツクオーシはその名のとおり



今日の命を精一杯生きるのよとヒメアカタテハがいう 蝶人