蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

なにゆえに第9回~西暦2014年長月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に 第259回 なにゆえに蝶よ花よと褒めそやす生殖のほか生き甲斐なきを なにゆえに結社などと粋がるのたかが詩歌の同好会なのに なにゆえにかくも涼しきものなるか隣の扇子からやってくる風 なにゆえに己のパニック障碍を明かしてる母親の同じ…

ジョン・スタージェス監督の「墓石と決闘」をみて

bowyow cine-archives vol.702 1957年の「OK牧場の決斗」が気に入らないと同じジョン・スタージェスが10年後に撮り直した作品がこれだが、いきなりOK牧場の決闘から始まるので驚く。 これが史実にもとづくワイアット・アープ(ジェームズ・ガーナー)とク…

金子兜太著の「語る兜太」を読んで

照る日曇る日第731回 兜太といえばまず思いだすのが普く人口に膾炙しているこの1句であろう。 銀行員ら朝より螢光す烏賊のごとく そこにはトラック島で戦争の飢餓地獄を体験し、命からがら帰国して働いた日銀で干され、窓奥族として金庫の番人を務めて退職…

夏目漱石の「こころ」を読んで

照る日曇る日第730回 朝日新聞に連載されていたので林真理子の「マイ・ストーリー」と合わせて読んでいたのですが、漱石の方が去る9月25日に終わりました。 漱石は好きな作家ですが、個人的には「猫」「坊っちゃん」「夢十夜」など最初期の一部の作品…

夢は第2の人生である 第19回

西暦2014年水無月蝶人酔生夢死幾百夜 「あまりにも多忙だったので、パンフレットの文字校正をする余裕がなかったのです」、と若者たちは、懸命に弁明するのだった。6/30 私たちが運営しているNPO法人は、今年は赤字のはずだのに、なぜか50万の黒字に…

豊島ゆきこ歌集「冬の葡萄」を読んで

照る日曇る日第729回 豊島ゆきこさんの最新歌集を拝読しました。 江戸の代より十三代目の鐘が鳴る二千年紀の人びとの上に 歌詠むはふしぎな遊びたましひの原野に紅き花摘むごとき かなしみも喧嘩も笑ひもひと括り 三人の衣類がぐるぐる廻る わたくしはゐ…

ベートーヴェン

家族の肖像 その1~「これでも詩かよ」第100番 ある晴れた日に 第258回 私「さて問題です。今からお父さんが演奏する音楽の作曲者は次の3人のうちの誰でしょう? 1番バッハ、2番モーツアルト、3番ベートーヴェン。 音楽スタート! ♪ジャ、ジャ、ジ…

すべての言葉は通り過ぎてゆく 第14回

西暦2014年葉月蝶人狂言畸語輯&バガテル-そんな私のここだけの話op.185 延長45回でも決着しない軟式高校野球の準決勝戦。こういう試合こそ見たいのに、今日もどこを探してもやっていない。いかにメディアが駄目であるかのいい証拠だ。8/31 朝日新聞…

ごきげんよう、さようなら~「これでも詩かよ」第99番

ある晴れた日に 第257回 今日わたくしが滑川をのぞきこみましたら、 だいぶ大きくなったハヤたちが、 楽しげにすいすいと泳いでいます。 大きな亀のドン太が、 大きな甲羅から首だけ出して、 あたりをきょろきょろ眺めていましたので、 「ドン太、ドン多…

キャメロン・クロウ監督の「エリザベスタウン」をみて

bowyow cine-archives vol.701 冒頭、亡くなった父親の葬儀に出席するためにデルタ航空に乗った主人公が、可愛らしいスッチー(キルスティン・ダンスト)にもうれつアタックを受けて、1時間半ほどやっさもっさするうちにめでたく一緒になる仕合せ映画なり。…

リチャード・リンクレイター監督の「ビフォアー・サンセット」をみて

bowyow cine-archives vol.700 ひと昔前に一夜だけ契った男女が、巴里で再会して旧闊を叙す、というただそれだけの話といったらそうなんじゃが、どこか昔のヌーヴェルヴァーグの記憶もよみがえり、見ていて懐かしく、切なくなってくる。つまり私のとても好き…

ジェームズ・マンゴールド監督の「17歳のカルテ」をみて

bowyow cine-archives vol.699 実話の映画化で、原題は「壊された少女」。主人公の少女が体験した、悲惨で壮絶な世界を描いている。 すべての人が発達障がいの要素を備えているのなら、すべての若者も精神障がい要素の一部を備えていることになる。 だからこ…

「THE ALL- BAROQUE BOX」全50枚CDを聴いて

音楽千夜一夜第335回 歳をとると、クラシックも昔の音楽を昔の演奏で聴くに限りますなあ。 んなわけで、ここんとこ、アルフィーフ・レーベルが特集したモンテヴェルディからバッハまでのバロック作品集をちびちびと聴いておりました。 ベトちゃん、シュバ…

豊島ゆきこ著「りんご療法」を読んで

照る日曇る日第728回 川越在住の歌人の第1歌集ですが、その表題がとても個性的です。それは つやつやのりんごたくさんスライスし煮詰むればたのし りんご療法 という、ちょっと意表をつく1首から採られていて、日々台所に立つ主婦の労苦とそこからのし…

ロバート・アルドリッチ監督の「北国の帝王」をみて

bowyow cine-archives vol.698 アメリカ30年代の大恐慌の折りに、職を失った労働者たちが方々でホーボーという名の浮浪者となって各地を放浪し、鉄道を無賃乗車したそうな。 んでそいつをなんとしてでも断固阻止しようとする鉄血車掌がアーネストーボーグ…

すべての言葉は通り過ぎてゆく 第13回

西暦2014年文月蝶人狂言畸語輯&バガテル-そんな私のここだけの話op.184 よりによって相撲取りが「大和魂」とはけったくその悪い文句を吐くものだ。いまどき泉下の赤尾敏総裁だってンなダサイこたア云わないだろうに。7/31 土曜日に由比ヶ浜で20分泳…

本多猪四郎監督の「ゴジラ」をみて

bowyow cine-archives vol.697 何十年ぶりに見たがさしたる感銘なし。演出はとろいし、クリーチャア(粒円谷特製の作り物ゴジラのこと)はチャチイし、なんでまあこんな駄作がヒットしたのかしら。 そもそもゴジラは水爆実験で深海から浮上してきたジュラ紀…

吉田秀和放送収録本「モーツアルトその音楽と生涯2」を読んで

照る日曇る日第727回 吉田秀和翁の「名曲のたのしみ」のモーツアルト放送の収録編集版を読んでいると、故人の独特の風貌が声音と共に蘇って来て、ただただ懐かしい。 本巻では1981年から82年にかけての放送分で、内容としては、モザールが1772年…

田中徳三監督の「眠狂四郎 殺法帖」&三隅研二監督の「眠狂四郎 勝負」をみて

bowyow cine-archives vol.695&696 この2作が市川雷蔵主演のシリーズの嚆矢となった記念すべき作品である。 前者ではヒロインが可憐な中村玉緒、宿敵役になんと勝新太郎ならぬ若山富三郎が登場するのであるが、彼の武器は素手の拳法なので笑ってしまう。い…

リドリー・スコット監督の「テルマとルイーズ」をみて

bowyow cine-archives vol.694 欲求不満気味の2人の主婦が、ストレスを発散しようと旅に出るが、ハメをはずしたテルマ(ジーナ・デイヴィス)をレイプしようとする男を、ルイーズ(スーザン・サランドン)が射殺してしまうところから始まる偶発的悲劇なり。 …

パット・オコナー監督の「スウィート・ノベンバー」をみて

bowyow cine-archives vol.693 ここでもアメリカの広告業界の異常な内幕がちょっと紹介されているけれど、彼らのクライアントへのプレゼンテーションの技術たるや、東京五輪のアホ莫迦オ・モ・テ・ナ・シなどの生やさしいレベルではない。 電通や博報堂など…

ロバート・アルドリッチ監督の「アパッチ」をみて

bowyow cine-archives vol.692 1954年ユナイテッド・アーティスト製作の先住民が主人公の西部劇なり。 アパッチの酋長ジェロニモが投降したあとを、バート・ランカスター演じるマサイが孤軍奮闘するという、フィクションのような実話の映画化である。 面…

EMI 盤「ALEXIS WEISSENBERG10枚組CD」を聴いて

音楽千夜一夜第334回 「自分への御褒美」ということで、なんかかんか機会あるごとにクラシック音楽のCDをHMVやタワーレコードやアマゾンで購入してきたのですが、いまではそれらが書斎の足元に散在していて、飯を食うために部屋を出ようとするたんび…

マイケル・チミノ監督の「天国の門」をみて

bowyow cine-archives vol.691 1人の娼婦をめぐる2人の男の荒ぶる生と死が、西部の荒野の凄絶な死闘を背景に延々と描かれる。 普通の監督は遠景で歴史の周縁を、近景で人間のドラマを、中景で物語の展開をはかるのだが、この監督はそういう常識や技法にい…

ロバート・ゼメキス監督の「バック・トゥ・ザ・フューチャー1,2、3」をみて

bowyow cine-archives vol.687、689、690 自由に過去、現在、未来を行き来できたら、さぞや楽しかろうなあという空想をパンパンにふくらませたいかにもスピルバーグな映画で、マイケル・J・フォックスとクリストファー・ロイドが楽しそうに演じている。 1…

リュック・ベッソン監督の「レオン」をみて

bowyow cine-archives vol.685 おふらんすがハルウッドへ行くと多少の違和と情緒が出るが、それがよりよい映画の醸成につながるかどうかは、おのずから別問題ということになる。 レオンという名の殺し屋が、マチルダという美少女を愛しながら死んでゆく感傷…

ガス・ヴァン・サント監督の「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」をみて

bowyow cine-archives vol.684 孤児で継父に苛められるという不幸な生い立ちながら数学に驚天動地の天賦の才を持つという主人公(マット・デイモン=脚本も)という設定に、はじめから最後までついていけない。 グロタンディークに扮するならともかく、マッ…

マルセル・プルースト著吉川一義訳「失われた時を求めて7 ゲルマントのほう」を読んで

照る日曇る日第726回 吉川一義氏による岩波文庫版の「失われた時を求めて」も、これでおよそ半分まで到達した。妙な文学趣味に偏することなく、意味が明確で、注釈が比類なく充実しているのが素晴らしい。今後は本シリーズが、この仏蘭西古典の名作の翻訳…

加藤典洋著「人類が永遠に続くのではないとしたら」を読んで~「これでも詩かよ」第98番

照る日曇る日第725回&ある晴れた日に 第256回 人類が永遠に続くのではないとしたら、 私は来る朝毎に咲く朝顔を一輪ずつ丁寧に鑑賞し、 泣き叫ぶセミどもの声にもっと親身に耳を傾けるだろう。 人類が永遠に続くのではないとしたら、 私は愛する家族…