蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年弥生 蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第125回 これやこのロック縄文時代のシャウトなりジェームズ・ブラウン『Out Of Sight』 狂気のきわみにあらず冷徹の叡智が光る出口なお「お筆先」 貧者の一灯のごと天上の音楽ごと美しき夢に満ちたり王仁三郎の碗 ママ友が「ドメバ」にさ…

半藤一利著「日露戦争史2」を読んで

照る日曇る日第578回 この本を読んで痛感するのは、一朝事ある時(例えば第2次大戦)のわれら大衆は容易に情動化(例えば橋下現象や民主自公大転換)し、一時の毀誉褒貶に激動して抑制を忘却するということである。 その先例が日露戦争の連合艦隊で、明…

「春の鎌倉文学館ツアー」で材木座を歩く

茫洋物見遊山記第115回&鎌倉ちょっと不思議な物語第279回 今回は材木座近辺の半日文学散歩です。若き日の大佛次郎が教鞭をとっていた鎌倉高等女学校(現鎌倉女学院)を出発して、放浪中の泉鏡花が寄宿していた日蓮宗の妙長寺を訪れました。彼はこの時の体験…

鎌倉雪の下の鏑木清方美術館で「清方描く桜の風情」展を見て

茫洋物見遊山記第114回&鎌倉ちょっと不思議な物語第278回 ここ数日でいっきに桜が開花した。絶好のタイミングで開催された本展ではあるが、その中身をみてがっかり。見ごたえのある作品なぞほとんどなかった。 このような出品作の半分くらいが下描きやデッ…

ホ・ジノ監督の「四月の雪」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.417 不倫などという言葉はよして浮気にするが、浮気していた男女が交通事故で入院し、その間に付き添いの男女、すなわち浮気相手の夫婦が浮気するというお話の韓国映画である。 別に韓国の映画でなく日本でもアメリカ…

鎌倉芸術館で「出口なお展」を観て

茫洋物見遊山記第113回&鎌倉ちょっと不思議な物語第277回 大本教の開祖出口なおのあの「お筆先」の実物を、とうとうこの目で見ることができました。 重労働と極度の貧困に追い込まれていた55歳の丹波の綾部の女性に、一夜突如「艮の金神」が降臨し、神が…

「岡井隆歌集第四巻」を読みて詠める 後篇

照る日曇る日第577回&ある晴れた日に第124回 その歌は時代精神と世界苦に引き裂かれたるが その顔は仏のように笑っている 反米愛国植民地国家てふ旧態依然たる日共民青的政治観? 国旗をフレー、フレー逆さに振ればなんか新しき愛国愛郷の新人類転がり…

神奈川県立近代美術館鎌倉の「実験工房」を見て

茫洋物見遊山記第112回&鎌倉ちょっと不思議な物語第276回 久しぶりにここを訪れるとほっとする。どんな展覧会であろうが、周囲の環境と見事に調和した坂倉準三設計の美しい建物なので、こころはつねによろこびにみたされるのである。 しかし噂によるとこの…

「岡井隆歌集第四巻」を読みて詠める 前篇

照る日曇る日第576回&ある晴れた日に第123回 ――北冥に鯤ありてその名をタカシ・オカイとなす。その大いに遥遊すること幾千里なるを知らず。 歴歴と地層を貫き刻まれしわれらが痛苦なるZeitgeist1994―2003 腰をかがめよろよろとそこを行くのは…

「グレン・グールド・コレクション第15集」5枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜第299回 グールドさん、そんなに急いでどこへ行く? と聞いてもこの天才児は絶対に耳を傾けないであろう。それにもうとっくの昔に死んじまってるし。 彼は管弦楽でチェリビダッケがやったと同じようなことを、ピアノでやった。異常に早いテンポ…

桐野夏生著「ハピネス」を読んで

照る日曇る日 第575回 江東区の湾岸にそびえる超高層マンションに棲息する「ママ友」たちの生態をあからめようとする著者の最新版の小説である。 ママ友とは育児する母親の仲間の謂いだそうだ。昔はだいたいおばあちゃんが嫁の育児を支援してくれたが、最…

フレッド・カヴァイエ監督の「この愛のために撃て」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.416 サザエ「普通の犯罪映画だと悪い犯人を正義の味方のおまわりさんが逮捕するんだけど、この映画では犯人が悪い刑事で普通の市民がこいつらに命を狙われて酷い目に遭う。」 マスオ「刑事が妊婦を誘拐して窓から突き…

川島雄三監督の「とんかつ大将」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.415 いつでも誰に対しても親切できっぷのいい怪男子を演じるのは、私が(特に小津作品などでは)あまり好きではない佐野周二。とんかつが大好物の主人公は、本作では老若男女、とりわけ若くて美しい女性たちにもおおい…

三谷幸喜著「清須会議」を読んで

照る日曇る日 第574回 織田信長が本能寺で明智光秀に斃され、その光秀が羽柴秀吉に斃されたあとで、織田家の宿老達が清須城に集まって後継者を決めた「清須会議」。ここにドラマを見出し、自在な想像をふくらませて一場の物語を仕立ておおせるとは、まこと…

「ドナルドキーン著作集第6巻 能・文楽・歌舞伎」を読んで

照る日曇る日 第573回 私は西洋音楽が好きで、殊にモザールのオペラを愛していて、電脳上のあざ名を「あまでうす(あざーす)」と名付けているくらいだが、その大好きなモザちゃんの遥か高みを天駆けるのが浄瑠璃と江戸歌劇場の下座音楽である。ちなみに三…

上野の国立西洋美術館にて「ラファエロ展」を見て

茫洋物見遊山記第112回 いきなり対面する「自画像」が彼の素直さと敬虔さ、夢見るような魂という人間的な特質をよく物語っているように思われる。 それにつづく数々の肖像画では、黒と赤の色彩の対比の中で、これしかないという正確さと大胆さで切り取られた…

会田誠展「天才でごめんなさい」を見て

茫洋物見遊山記第111回 たとえば9.11の青空と飛行機を見て思わず「美しい」と呟いたり、美貌の皇室の貴婦人を瞥見して「犯したい」と思ったりするくらいの自由は、この息が詰まるような平成の御代に棲息する普通の市民に許されているはずだが、その市民の中…

「グァルネリ弦楽四重奏団のモザール」を聴いて

♪音楽千夜一夜第298回 グァルネリ・カルテットのモザールを聴いたのはたぶんはじめてだが、アルバン・ベルクなどの現代的な、前に出てくる演奏とは全然異なるアプローチ。構えたところがないとても自然な演奏で、かというて昔風でもなく、それがモザールには…

ゲイリー・マーシャル監督の「プリティ・ウーマン」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.414 いわゆる一つのシンデレラ・ストーリー。金の亡者が普通の人間の良識と愛に目覚めたという現代のお伽話なり。 どうでもよいことではあるが、こういうある意味ではてんで自立していない男女が一緒になって果たして…

大島渚監督の「愛の亡霊」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.413 初恋とかカルピスとか恋愛などとほざいている間はどうでもよいが、これが一歩進んで性愛の奈落にはまりこんでしまうと、いくらあがいても男も女もどう仕様もなくなってしまう。 そんな極限が続けば、有夫姦の泥沼…

リチャード・フライシャー監督の「ミクロの決死圏」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.413 リチャード・フライシャーはジュール・ヴェルヌ原作の名作「海底二万哩」を演出した名監督で、私は映画の面白さをこの作品から、映画の哀しさを「しいのみ学園」(♪ぼくらはしいのみまあるいしいのみ」という歌!…

林望「謹訳源氏物語九」を読んで

照る日曇る日 第572回 前巻から「宇治十帖」に入ったが、ここでは薫二十五から二十六歳までの「早蕨」「宿木」「東屋」の三つの章を収めている。 何度読んでも歯がゆいのはその薫の優柔不断さだ。さきに美女に惚れるのはいつも薫なのに、中君も浮舟もライ…

大島渚監督の「儀式」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.412 これは1971年に製作されたアートシアターギルドの10周年記念作品である。 横溝正史の「犬神家の一族」を思わせる地方の旧家の一族郎党のおどろおどろの物語であるが、そこでは一家に君臨する頑迷で独裁的な祖父(…

アレクサンドル・ソクーロフ監督の「牡牛座 レーニンの肖像」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.411 2001年のカンヌグランプリに輝いた秀作でロシア革命の指導者レーニンの最晩年を描いている。 全体に画面が緑色の紗がかかって曖昧模糊としているが、これはいかなる意図に基づくのかしらん。 最早死に瀕してい…

大島渚監督の「少年」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.410 今はあまりはやらないが、昔「当たり屋」という商売があった。自動車に轢かれたふりをして騒ぎ立て、示談金をむしり取るという商売である。 親の生活のために強要されてこの因果な「仕事」を続ける「少年」を主人…

上田正昭著「私の日本古代史(下)」を読んで

照る日曇る日 第571回 上巻に続いていかにも学者らしい冷静な筆致で、継体朝から律令国家の成立までをバランスよく記述している。最近「聖徳太子」が実在しなかったとか、「古事記」は偽書であるなどという俗説が商売繁盛しているようだが、それらが事実無…

東博で「円空」展を観て

茫洋物見遊山記第110回 飛騨高山の千光寺のコレクションを中心に46点の円空の木彫を見せるが、ズズズズイっと眺めて行くと、だんだん退屈してくるのはなぜだろう。木彫りの大小は異なるが、手法が同一であり、特に顔の表情が類型的であるために、そういう…

東京都美術館で「エル・グレコ」展を観て

茫洋物見遊山記第109回 私はキリスト教の宗教画がなべて押しつけっぽくて嫌いなのですが、なぜかこの人のは面白く見物できました。 もちろん画家は、基督やマリアや預言者や天使などがジャカスカ登場する聖書の中の物語や伝奇や奇跡を題材にしているのですが…

埼玉県立近代美術館で「ポール・デルヴォー展」を観て

茫洋物見遊山記第108回 ポール・デルヴォーはこれだけの作品をまとめて見たのははじめてであるが、時代順に眺めてゆくと、デルヴォーがデルヴォーになったのは1944年の「夜明け」からであることが分かる。 ここで突然現実が超現実に吸い込まれて現実的な…

横須賀三笠公園の「記念館三笠」をみて

茫洋物見遊山記第107回 1905(明治38)年5月27日の日本海海戦で大活躍をした、かつての連合艦隊旗艦の「三笠」を見物しました。 ロシアのバルチック艦隊が36隻中撃沈16、自沈5、拿捕6の被害を出したのに対して、我が方のそれはたった3隻の水…