蝶人戯画録

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鎌倉芸術館で「出口なお展」を観て

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茫洋物見遊山記113回&鎌倉ちょっと不思議な物語277

 

大本教の開祖出口なおのあの「お筆先」の実物を、とうとうこの目で見ることができました。

 

重労働と極度の貧困に追い込まれていた55歳の丹波の綾部の女性に、一夜突如「艮の金神」が降臨し、神がかりとなった彼女がその神の言葉を狂気のように書きつづったと思いこんでいたのですが、アクション・ペインティングのような解読不能な文字を想像していたら、あにはからんや、半紙の上に筆で冷静に書き下ろされた普通の文字だったので、ちょっと驚きました。

 

彼女が折々に書き継いだ「お筆先」は半紙で約20万枚に及び、これを彼女の最高のオーガナイザー出口王仁三郎が編集して教典に編集したことによって「大本教が成立するわけですが、それにしてもいかなる神秘がこのような奇跡を可能にしたことかと、不可思議なオーラを漂わせる歴史的ドキュメントの前で私はしばし呆然と佇んでおりました。

 

この展覧会にはその出口王仁三郎が晩年に製作した楽焼茶碗も並んでいましたが、素人ならではのその大胆な意匠、自由奔放な色彩感覚に打たれます。

 

こうした茶碗は現代の人間国宝などによっても手掛けられ高値で売買されているのですが、王仁三郎のそれは「芸術をやるんだ」とか「傑作をモノすのだ」というような要らざる邪念が一切介在していないために、このような融通無碍の作陶が可能になったのでしょう。

 

キャッチフレーズの「古今独歩」はいささか褒めすぎですが、作品としてかなりいいものだと私はにらみました。

 

*なお同展は3月24日に終了しましたが上野の「東光苑」にて常設点を開催中。

 

狂気のきわみにあらず冷徹の叡智が光る出口なお「お筆先」 蝶人

 

貧者の一灯のごと天上の音楽ごと美しき夢に満ちたり王仁三郎の碗