蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2008年茫洋長月歌日記

♪ある晴れた日に その40 逝く夏やあまたの栗を拾いけり 紋黄揚羽の雄が由比ヶ浜真っ二つ名月や五人揃いし美人かな道端に魚の尻尾が落ちていた水に漬け叩きつけたるわがパソコンおんどりゃ誰じゃあ正体明かせオラオラ、オンドリャガアア〜片脚を置いてどこか…

日中共同研究「「満洲国」とは何だったのか」を読んで

照る日曇る日第165回いわゆる満州国について私たちの父祖たちが行った行為について、私たちはあまりにも知らなさすぎるのではないだろうか。 おりから珍しくも日本と中国の歴史家たちが共同で「満州国」について研究した成果を集大成した本書が刊行された…

残雪の「暗夜」を読んで

照る日曇る日第164回そういえば私も時々夢を見る。いつものように見る夢だ。会社でリーマンをやっていたときの話だ。わが親しきリーマン・ブラザーズが続々と登場して、中間管理職の私に対してある種の決断を迫るのだ。会社はバベルの塔のような高い高い塔…

続 ロナルド・トビ著「「鎖国」という外交」を読んで

照る日曇る日第163回秀吉、家康を経て我が国は鎖国に突入したというこれまでの学説を全面的に否定したのがロナルド・トビさんの本書である。幕府は一方ではキリスト教を禁じ、日本人の海外渡航と帰国の制限、ポルトガルの追放を行ないつつも長崎、対馬、薩…

ロナルド・トビ著「「鎖国」という外交」を読む

照る日曇る日第162回 663年の天智天皇の「白村江の戦」は同盟国の救援という大義名分があったとしても、豊臣秀吉による文禄・慶長の役は明々白々な海外侵略であった。この狂気の戦によって日本軍は多数の敵兵を殺しただけでなく老若男女の民間人を貴賤…

さらばプロムス2008

♪音楽千夜一夜第41回 この夏8週間にわたって英国各地で繰り広げられたプロムス2008が9月13日のラストプロムスをもって終了した。私のパソコントラブルのために多くのプログラムが聞けなかったのは残念だ。諏訪内選手の鋭いヴァイオリンは聞けたが、ポリ…

息子の言葉『父の遺したもの』第2回

ある丹波の家族の物語 その10&♪遥かな昔、遠い所で第83回オルコット作「若草物語」を読んでの父の感想は、次のようなものでした。 「何でも買うことのできる金持ちは不幸です。」また父は、特殊学級の先達者、杉野春男氏(小倉市、四七年モスクワ空港で没)…

息子の言葉『父の遺したもの』第1回

ある丹波の家族の物語 その9&♪遥かな昔、遠い所で第82回 父が私たちの前から、それこそ忽然として姿を消してから早や1年を迎えようとしています。最近の日本人の平均寿命からいえば、短すぎた生涯ではありましたが、その最後の瞬間が、隣人への奉仕に捧げ…

孫の言葉『おじいちゃん』第3回

ある丹波の家族の物語 その8&♪遥かな昔、遠い所で第81回 八月九日 ねんどきのうねんどで遊びました。はじめハンバーグを作って、クッキーも作りました。クッキーは、ABCDEFGHIの形にしました。おいじちゃんに「おひとつ、どうぞ。」と言ったら、「お、上手…

孫の言葉『おじいちゃん』第2回

ある丹波の家族の物語 その7 ♪遥かな昔、遠い所で第80回 一二月二九日 おてつだい おじいちゃんは、はき物店をしていて、毎日げたをすげていました。わたしが「げたのうしろのシールをはる。」と言って、シールのカンをとって中のシールを出しました。シール…

孫の言葉『おじいちゃん』第一回

ある丹波の家族の物語 その6 ♪遥かな昔、遠い所で第79回 ―小学三年生、冬休みの日記から きょうはおじいちゃんと、なわとびをもっておはかまで、さんぽしました。おはかについて、さかをのぼっていくと「○○家」とかいたおはかがありました。○○とは、おじいち…

父の言葉『思い出の記』第四回

ある丹波の家族の物語 その5 ♪遥かな昔、遠い所で第78回 「おそらくキリスト教より立派な宗教があるかもしれない。それだのに、そんな宗教をさがさないのは、キリスト教が私の求めるものに対して必要にしてかつ十分な保証を与えてくれているので、他の宗教を…

父の言葉『思い出の記』第三回

ある丹波の家族の物語 その4&♪遥かな昔、遠い所で第77回 さて、誠にたよりない足取りで信仰の道をたどりはじめましたが、聖書に記されている数々の奇跡を、如何様に頭でなく心で受け入れる信仰をもつことができるかと、迷い続けました。この世の常識を越え…

父の言葉『思い出の記』第二回

ある丹波の家族の物語 その3 ♪遥かな昔、遠い所で第76回 私は、子供のころから今日まで、内向的で人見知りする性で、しばしば自己嫌悪におちいることがあります。そして早くから罪ということを意識していました。 どの兄も私を無理に教会に連れて行くことを…

ある丹波の家族の物語 その2

♪遥かな昔、遠い所で第75回父の言葉『思い出の記』第一回私は大正二年、岡山県倉敷市に生まれました。父は、私が九歳の時に亡くなりましたが、姉一人、兄六人、妹二人という賑やかな家庭でした。倉敷教会は、田崎健作先生の精力的な伝道で発展し、県内でも指…

ある丹波の家族の物語 その1

♪遥かな昔、遠い所で第74回 ―心は、すすがれて良心のとがめを去り、体は、清い水で洗われ、まごころをもって信仰の確信に満たされつつ、みまえに近づこうではないか。『へブル人への手紙10-22』 ―霊魂のない体が死んだものであると同様に、行いのない信仰も…

「七人の侍」再見

照る日曇る日第161回このあいだBSでやっていたのでまた見たが、さすが黒澤の名作、なかなか面白かった。以前見たとき宮口精二演じる久蔵が野武士の棟梁から種子島で撃たれて死ぬ。そのとき倒れながら投げつけた刀が刺さって頭目は絶命した。と長い間思っ…

パソコン音痴の嘆き

♪バガテルop71この夏楽しかったことはなんといっても利尻礼文島への旅行だった。そしてその反対は、わがパソコンのスパイウエア感染である。おかげで8月18日からおよそ1カ月近くこの日記の書き込みはおろか原稿書きすらできないという悲惨な状況に陥っ…

西暦二〇〇八年茫洋葉月歌日記 続編

♪ある晴れた日に その39 今宵一夜の想い出にと エーデルワイスを歌いしは 礼文船泊のホテルの女小巻貝に 食われし冷た貝の成れの果て 船泊の浜にうずたかし利尻富士は富士よりうるわし 利尻山より落つる水 うまし走れども走れども一台の車なし 車なき礼文の…

西暦二〇〇八年茫洋葉月歌日記 正編

♪ある晴れた日に その38 脳天を震撼させてアブラ鳴く一日に二匹の蝉を拾いけり幼虫をトイレに捨てたる息子かな先祖累代油蝉は鳴き続けてきた世界一速き男の脇見かな観衆を見物しつつゴールせり敗者にもわれが授けむ月桂樹利尻島一軒の魚屋もない豊かさよ全村…

レイモンド・カーヴァー著「必要になったら電話をかけて」を読む

照る日曇る日第160回村上春樹の翻訳によるレイモンド・カーヴァーの未発表の短編集である。1988年に50歳の若さで亡くなったカーヴァーの人の世のほろにがい哀感をえぐった忘れがたい作品をもう読めなくなることは悲しい。この人はその短編の最初の…

横尾忠則著「人工庭園」を読んで

照る日曇る日第159回自作の絵に短いエッセイがつけられて全部で105の見開き世界が繰り広げられている。その第24回の「魂むしばむ戦争」は次のような文章で始まっている。「朝、目が覚めた途端、うっとうしい気分に襲われる。生きている証拠である。…

網野善彦著作集第3巻「荘園公領制の構造」を読んで

照る日曇る日第158回荘園の支配者は天皇家、貴族、寺社などの経済的基礎になってはいるが、その実態は現地の領主が年貢などを支配者に貢納する際の請負の単位であり、国家に規制された公的な行政単位でもあった。それゆえ最近ではこのような土地制度を、…

フォークナー著「アブサロム、アブサロム!」を読んで

照る日曇る日第157回フォークナーはハワード・ホークスに頼まれて「三つ数えろ」などの脚本を書いて身すぎ世すぎしながら、大脳前頭葉の奥底深く、壮大な幻想世界を築きあげ、ここからロダンが彫刻を切り出したように、本作や「野生の棕櫚」や「響きと怒…

丹波と能楽

続 梅原猛・松岡心平著「神仏のしづめ」を読んで照る日曇る日第156回梅若は現在は観世流れのシテ方であるが、もともとは丹波猿楽の一流であった。丹波の殿田には梅若屋敷跡があり、墓とともに殿田稲荷が祀られている。ただその本貫地は京都市右京区の梅津…

梅原猛・松岡心平著「神仏のしづめ」を読んで

照る日曇る日第155回梅原猛の「神と仏」対論集の第4巻は私が致命的に無知である能についての蒙をひらいていただくのである。両氏によれば能の基本に敷かれているのは「草木国土悉皆皆成仏」を唱える天台本覚論で、天台宗始祖の最澄にはじまるこの普遍的…

山田邦明著「戦国の活力」を読んで

照る日曇る日第154回小学館の日本の歴史第8巻である。戦国大名の誕生から大坂落城までの150年間を駆け足で描く。 鎌倉関連では永正11年1514年に日蓮宗本覚寺の陣僧役と飛脚役と諸公事が免除されている。坊主は意外にも健脚の者が多く、戦国大名は僧侶に…

小川国夫著「止島」を読んで

照る日曇る日第154回これも最近物故した作家の遺作短編小説集である。晩夏の昼下がり、一枚1枚拝みながら味読しました。 「しのさん」という少女に主人公は2回ほどつかみかかるが、ひらりと逃げられてしまう。しかしみなしごの彼女は若くして肺病で亡く…

♪バガテルop70

きのう福田首相が突然辞任を表明した。彼は靖国神社に参拝しなかった一事をとっても、自民党のなかで数少ないましな政治家の1人であった。狂気のライオン丸や隠微阿部が退陣してようやく普通に凡庸な福田に代わったばかりだというのに、これからまたしても…

小川国夫著「虹よ消えるな」を読んで

照る日曇る日第153回小川国夫という人はどこか懐かしさを感ずる人だった。もういまではどこか遠くに行ってしまった古く懐かしい時代の息吹がそこここに感じられる。この人の筆法は単刀直入で、物事の本質だけを短刀でグサリと心臓を抉るように墨痕黒々と…