蝶人戯画録

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ロナルド・トビ著「「鎖国」という外交」を読む


照る日曇る日第162回

 663年の天智天皇の「白村江の戦」は同盟国の救援という大義名分があったとしても、豊臣秀吉による文禄・慶長の役は明々白々な海外侵略であった。

この狂気の戦によって日本軍は多数の敵兵を殺しただけでなく老若男女の民間人を貴賤の別なく殺戮し、その耳や鼻を大量に切り取り、塩漬けにして秀吉のもとに搬送したのみならず、島津、藤堂、伊達、毛利、加藤、小西などの諸将は数万人を下らない朝鮮人捕虜を一種の戦利品として国内に拉致し、陶工を有田、唐津、萩、薩摩苗代川などに監禁して陶磁器の生産に従事せしめ、あまつさえ少なからに人数を東南アジアやヨーロッパに奴隷として売りとばした。

 私たちは北朝鮮による日本人の拉致を金正日の専売特許のように非難するが、それに先駆けてそれと同じような行為を私たちの英雄と称えられるご先祖たちが大手を振って敢行していたこと、またこれらの蛮行はすぐる大戦においても帝国軍人によって各地で繰り返されたことを忘れてはいけないだろう。

秀吉のみならず隆盛、利通などの明治の元勲たち、そして昭和の軍人の一部はとかく中国、朝鮮、台湾、琉球などの異邦の人々を己よりも下位に見てもっぱら軽侮、差別し、軽々に植民地支配を企図し、実践したが、本書では三代将軍家光が明朝の再興をめざす鄭芝龍一派に加担して対清遠征軍派遣計画を立てていたという驚くべき史実が明らかにされている。(137p)

私たちの黄色い肌の下には、何世紀経っても侵略戦争大好きのDNPが潜流しているのであらうか。


♪結局は他人がやっていることには興味がないということになるんだな 茫洋