蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2011年文月 蝶人狂歌三昧

♪ある晴れた日に 第94回 天啓の如く鮎閃きぬ土曜日はゴマダラカミキリと遊びけりニイニイゼミ鳴きて夏綻びぬものみながはげしくにおう夏の夜少数の見知らぬ友に日記書く丸印は性交ありし日か荷風日記かにかくに今日もなんとか生きている秋風やパソコン嫌い…

市川昆監督の「おとうと」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1351960年製作のこの映画は、黒白のコントラストを強調した世界初の「銀残し」という画像処理を施された映画ですが、その特色は本作よりはスピルバーグの「マイノリテイ・レポート」などでもっとよ強烈に生かされ…

アルフレッド・ヒッチコック監督の「ロープ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1341948年に製作されたヒッチコックのサスペンス映画です。いきなりロープでの殺人シーンがでてくるのがいかにもヒッチですが、話の中身はジエームズ・スチュアート扮する大学教授の「超人!」思想を真に受けた教…

ロマン・ポランスキー監督の「チャイナタウン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.133この映画もこれまでに何回か見たはずなのに、それを忘れてまた見てしまった。ロサンジェルスの水道をめぐる殺人事件をジャック・ニコルソンの私立探偵が巻き込まれ最後はファム・ファタール役のフェイ・ダナウエイ…

清水宏監督の「風の中の子供」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.132 これは懐かしい坪田譲治原作の映画だ。ご存知善太と三平の兄弟が主人公となって、日本軍が南京で中国人を大虐殺していた頃の貧しい地方の暮らしをいっけんのんびりと描く。しかし彼らの父親は文書偽造の嫌疑をかけ…

伊集院静著「なぎさホテル」を読んで

照る日曇る日第448回これは昔逗子海岸にあったホテルを舞台にした、著者の青春回顧小説である。離婚の慰謝料や借金をかかえ実質的には一文なしの風来坊が偶然逗子の海を訪れ、なぎさホテルの支配人の格別の好意に恵まれて出生払いということでその夜から寄宿…

ベルンハルト・シュリンク著「週末」を読んで

照る日曇る日第447回60年代の後半から70年代にかけては左翼の武装闘争が全世界で荒れ狂った。日本では赤軍派などは牢屋に入れられたままだが、ドイツでは少しずつ釈放されているらしい。 本書は当時のドイツの資本主義の中枢にいた財界人などを殺した赤…

続々 狂言綺語

バガテルop139 世界の「水泳飛び込み競技」においてスプラッシュ(水しぶき)を消すことが最大の努力目標になっているようだが、そのどこが素晴らしいのか。じゃんじゃん飛込み、バンバン水しぶきを上げるのがこの競技の最大の見どころではないか? こんな阿…

続 狂言綺語

バガテルop138 今年のセミが鳴かないとか少ないとか騒いでいるが、こと鎌倉の十二所地区に限ってはそんなことはない。当地で例年ニイニイゼミが鳴き出すのは7月の4日前後であるが、今年のニイニイゼミの初鳴きは6月27日でいつもより早く、その日から今…

狂言綺語

バガテルop137 原発の本質は核の爆発である。原発を全廃しようとする国民の総意に反対する経産省大臣や与野党の議員や経団連や東電や大企業の指導者は、エネルギー政策の転換に伴う利権の棄損やもたらされるかもしれない経済的混乱に反対しているのではなく…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第4回

bowyow megalomania theater vol.1 12月3日 曇今年はいつもより暖かい冬だったのですが、だんだん寒くなってきました。谷戸を渡る風は冷たく、鎌倉時代の武士たちのお墓であったやぐらを仮の宿とする僕たち3人を取り巻く環境は日一日と厳しいものになっ…

磯崎新著「日本の建築遺産12選」を眺めて

照る日曇る日第446回神を感知するためには出雲大社と伊勢神宮、伸びゆく内部空間を考察するためには円覚寺の舎利殿と三十三間堂、建築の自由形を見るためには三仏寺投入堂と西本願寺飛雲閣という塩梅に、現代の代表的な建築家である著者が6つの切り口で12…

文化学園服飾博物館で「暑さと衣服」展を見る

茫洋物見遊山記第60 回&ふぁっちょん幻論第64回うだるような暑さの中で「民族衣装にみる涼しさの工夫」と題した恰好の展覧会を見物しました。この節はスーパーの付いたクールビズとやらで全国で落ち目の百貨店のみならず青木青山春山ユニクロなどのメンズの…

成瀬巳喜男監督の「めし」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.131この映画は原節子扮する主人公の人妻が、女の幸福とは懸命に働く夫を陰ひなたなく支える夫唱婦随のささやかな喜びにあるのではないか、と殊勝に呟くシーンで終わっているが、こんなくだらない結末を、原作者の林芙…

藤井譲治著「天皇と天下人」を読んで

照る日曇る日 第445回講談社から刊行されている天皇の歴史シリーズの第5巻であるが、ここでは戦国時代に我が国を天下統一に導いた三英傑と天皇の関係について述べられている。己を天下人であり国王であり天皇以上の存在でありと自負していた織田信長は、一…

オリバー・ストーン監督の「JFK」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.131ケネディ大統領が殺された日のことはよく覚えている。私は京都市左京区の田中西大久保町の下宿を出たところで近くから流れてくるFEN放送のコールサインに続くプレジデントケネデイワズアササンドという悲痛な繰り返…

河野多恵子著「逆事」を読んで

照る日曇る日第444回十九世紀の終わりに英国の心理学者ウイリアム・ジェームズが唱えた「意識の流れ」という考え方にもとづく小説作法をジェームズ・ジョイスやヴァージニア・ウルフなどが実践したそうだが、5つの短編を集めたこの本もまたそういう書き方が…

ビリー・ワイルダー監督の「フロント・ページ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.130 1928年ニ「ブロードウエイで上演された戯曲を、1974年にビリー・ワイルダー監督が映画化したコメディです。お馴染みジャック・レモンがシカゴの熾烈な新聞記者生活から足を洗って上司のウオルター・マッソ…

マイケル・ゴードン監督の「夜を楽しく」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.129 1959年のアメリカの喜劇PillowTalkをこう邦訳するとはおぬしなかなかできるな。辞書には寝物語あるいは性交後のうちとけた会話などとあるが、「夜を楽しく」とはねえ。そして実際に見ての感想も、そのタイトル…

ビーチャム指揮「英国音楽集CD6枚組」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第212夜ロイヤルフィルの創始者にして英国音楽の泰斗トーマス・ビーチャム卿が指揮するデーリアスと聞いて胸が躍らぬクラシック愛好家はいないはずだが、聞いてびっくり期待とは裏腹にわが心には初夏のそよ風さえ吹かず、緑の蓮池にささなみひ…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第3回

bowyow megalomania theater vol.1 12月2日 雨のち雪昨夜またお母さんの夢を見ました。お父さんと弟の純ちゃんと犬のムクも一緒でした。お父さんは、 「おーい、岳どこにいるんだ。もう怒っていないから。早く帰ってこい。早く帰って来るんだ」 とおっかない…

椹木野衣監修「岡本太郎爆発大全」を読んで

照る日曇る日第443回有名な「太陽の塔」などの建築物をつらつら眺めていると、芸術は確かに爆発だと思わされる。何の爆発? もちろん己の爆発に決まっているさ。社会と大衆の面前で己を爆発させるためには、知情意の恐るべき集中と膨大な量の薪が必要だった…

黒田日出男著「源頼朝の真像」を読んで

照る日曇る日第442回最近伴大納言絵巻や江戸図屏風などの図像の謎解きで大きな成果をあげている著者が、今度は源頼朝の彫像の謎解きに取り組んだ。これまで頼朝の肖像として知られていた神護寺の「伝源頼朝像」が、なんと14世紀半ばに制作された足利直義のも…

小島信夫著「うるわしき日々」を読んで

照る日曇る日第441回この本は何と言っても題名がよい。それが素敵なタイトルであるということは、ちょっと目端のきいた人ならすぐに分かってくれると思うのだが、著者の説明では、ベケットの「しあわせな日々」という芝居からとり、ベケットはヴェルレーヌの…

小島信夫著「こよなく愛した」を読んで

照る日曇る日第440回 この短編集の中に「路上」という掌編小説があって、これは老年の小説家であるところの著者が、かつて、ということは生前に居住していた浅間山麓の別荘の近所の「路上」で、なにやら精神的な懊悩を抱えこんでいる中年の女性と行き合って…

アバド指揮「チャイコフスキー交響曲全集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第211夜これまたソニーの叩き売り超廉価盤CDですが、珍しやクラウディオ・アバドがシカゴ響を指揮しています。最近のアバドは「知・情・意」が絶妙に融合された名演奏を聞かせてくれるようになりましたが、これはちと知が勝ち過ぎて、情と意…

コリーヌ・セロー脚本監督の「サン・ジャックへの道」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1282005年製作のフランス映画です。母親が亡くなったので3人兄弟が遺産を相続しようとするが、それにはフランスのル・ピュイからスペインの西の果て、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまで1500kmにもおよぶ…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第2回

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第2回bowyow megalomania theater vol.1 11月30日綿、オクラ 早く、着替えといで、和絵、和絵、止しなさい。どうしたの、叩かないで。そんなに、げらげら、笑うのは、阿ほ笑いは、悪い子よ。空き缶投げ捨ては、やめましょう。助…

Sony盤「ロベール・カサドシュ・プレイズ・モーツアルト」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第210夜毎度おなじみのソニーの超廉価盤5枚組CDでカサドシュのモーツアルトを聴いたのですが、いったいどうしたことか、さして心が弾まない。昔LPで聞いた時には、ああ艶なるかな!と二嘆、三嘆して飽かなかったのに、これは異なこともあ…

コンラッド著・柴田元幸訳「ロード・ジム」を読んで

照る日曇る日第439回はじめはタイタニックの遭難のようなスケールの大きい海洋小説なのに、話がとつじょ海から海へと経巡って、いきなりスマトラ島の奥地の密林に飛び、そこで「善の王」となりおおせた主人公ジムが、ロード・ジム(ジム旦那)と成りあがって…