蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第4回

kawaiimuku2011-07-21



bowyow megalomania theater vol.1


12月3日 曇

今年はいつもより暖かい冬だったのですが、だんだん寒くなってきました。谷戸を渡る風は冷たく、鎌倉時代の武士たちのお墓であったやぐらを仮の宿とする僕たち3人を取り巻く環境は日一日と厳しいものになってきました。

夜は3人が抱き合ってお互いの身体を暖めあって眠ろうとするのですが、歯の根も合わないほどの寒さなのです。昨夜は初めての雪が降り、シイ、ドングリ、野イチゴ、カキ、クリなどのわずかばかりの蓄えも底が尽いたので、今朝僕たちは近くの禅宗のお坊さんの真似をしてたくはつに出かけました。

およそ1時間ほどかけて町内のにぎやかな大通りに出ると、僕たちはいつか見たお坊さんの見よう見まねでナムアミダブツナムアミダブツと念仏を唱えながら、一軒一軒の前で神妙に手を合わせました。しばらくそうやっていると、その姿がいつもの建長寺円覚寺の若いお坊さまでなく薄汚れた少年と少女であっても、哀れみをかけてくれたおじいさんやおばあさんたちが、お米や野菜、時によるとお金やおいしい鳩サブレーのお菓子などを恵んでくれるのでした。

お米をもらっても簡単に食べることができない僕たちは、いろいろ苦労を重ねた挙句、一軒の農家のおばさんに頼みこんで、お米を炊いてもらったのでした。



三台も自動車を並べている家の玄関をモンキアゲハが通り過ぎる 蝶人