蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年神無月蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第174回 「あの人はこれから素敵な恋をしてお嫁に行くのよ」と妻がいうなり 大木家より歩道に落ちる栗の実を素早く拾う散歩者多し 台風で相模湾遠く流れたか天然ウナギの三郎よいずこ 三郎やーい、晴子やー、次郎やーい、サミュエルやーい…

テンギズ・アブラゼ監督の「懺悔」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.584 ペレストロイカを象徴する作品といわれているようですが、そんなことはどうでもよろし。 陽気なスターリンを思わせる独裁的な市長を巡る悲喜劇で、どこかドストエフスキーやチエーホフやゴンチャロフの小説を読…

デヴィッド・リーン監督の「旅情」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.583 アメリカの田舎町から貯金をくずしてはるばるベネツィアにやって来た、もう若くはないけれど異国での素敵な出会いにあこがれるヘップバーン。私も彼女とおなじようにカメラを抱え、同じルートでフィレンツェか…

テレンス・マリック監督の「天国の日々」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.582 広大な麦畑の中の高台に1軒だけ建っている地主の館。そこに住んでいる大金持ちの青年と貧しいルンペンプロレタリアートのリチャード・ギアとその恋人(妹と偽っている)のとの悲劇的な三角関係を描いているが…

ジョン・スタージェス監督の「OK牧場の決斗」をみて

「これでも詩かよ」第41番&ある晴れた日に第173回&闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.581 OKコラアー、OKコラアー、OKコラアール! 映画とは映像のあいつぐ出現であって、それ以外に映画という現象はない。 この映画の冒頭で高鳴るのは、かの…

神隠し

「これでも詩かよ」第40番&ある晴れた日に第172回 だんだん寒くなってきたのだが、私が去年愛用した室内履きの片っぽうが出てこない。 妻が私の誕生祝いに贈ってくれた1万5千円もする、とても暖かな、シープスキンのはきものなのです。 しかし、探し…

中原中也訳「ランボオ詩集」を読んで

「これでも詩かよ」第39番&ある晴れた日に第171回&照る日曇る日第630回 ランボーの詩の翻訳は、今ではたくさん出されている。それらは語学的には寸分の誤りもなく、学問的にも最新の成果が反映されているようだ。 また見つかった。何がだ? 永遠。…

鏑木清方記念美術館で「昭和に描いた明治の風情」展をみて

茫洋物見遊山記第138回&鎌倉ちょっと不思議な物語第294回 きゃまくら小町通りの奥にひっそり閑として佇む旧清方邸では題記の収蔵展をひそかに開催中です。 今回は「朝夕安居」、「女役者粂八」、「虫の音」、「徳川慶喜」など日本画の秀作が並んでい…

鎌倉国宝館で「北条時頼とその時代」展をみて

茫洋物見遊山記第137回&鎌倉ちょっと不思議な物語第293回 中世鎌倉でのさばっていたのは、源家から政権を簒奪した陰険卑劣な北条一族である。彼らはライバルの御家人一族を次々に皆殺しにしていったので、げんざいの鎌倉のいたるところに、謀殺され、…

エルンスト・マリシュカ監督の「プリンセス・シシー」「若き皇后シシー」「ある皇后の運命の歳月」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.578、579、580 「プリンセス・シシー」は、はじめからおわりまでなぜか至福の感覚が持続する不思議な映画です。 かれんなロミー・シュナーダーと若きオーストリア皇帝(なんと名指揮者カール・ベームの息子が…

スティーヴ・ベンデラック監督の「Mrビーン カンヌで大迷惑?!」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.577 原題は「Mrビーンの休日」なので邦題もそういうふうに直してほしい。英国の喜劇怪優Mrビーンはじっと顔をみていると吐き気がしてくる。 どことなく不快で不吉で凶悪なまなこを持った存在であるが、そんな彼…

「サタンよ、退け!」

「これでも詩かよ」第38番&ある晴れた日に第170回 塩見牧師は、街いちばんのインテリゲンチャ。 毎月刊行される岩波新書をすべて購入し、 説教台の壇上から 大江健三郎の「芽むしり仔撃ち」を するどく批評された。 丹陽教会のしののめの東の窓を押し…

「輪ゴムのうた」

「これでも詩かよ」第37番&ある晴れた日に第169回 大きな輪ゴム、中くらいの輪ゴム、小さな輪ゴム 茶色の輪ゴム、緑色の輪ゴム、まれに白い輪ゴム 私は、輪ゴムを捨てられない。 台所の引き出しの奥に全部仕舞っておいて、 時々眺めてみるんだ。 大き…

「ミスタ・クロマティをご存知ですか?」

「これでも詩かよ」第36番&ある晴れた日に第168回 ある夏の日の昼下がり、千駄ヶ谷小学校の交差点の近所にあった私のオフィスに、松田光弘という未知の人から電話が掛って来た。(後で分かったのだが、松田氏は先年亡くなった「ニコル」という有名ブラ…

ロドリゴ・ガルシア監督の「彼女を見ればわかること」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.575 タイトルからしてまた軽薄でつまらんハリウッド映画だろうと莫迦にしていたら、これが題名も原題どおりだし、またその内容が素晴らしいのですっかり見直してしまった。 世におおい女性映画もその大半が男性主導…

マーティン・スコセッシ監督の「ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.574 こないだ彼等の曲をメドレーで聴いていたら、だんだんおんなじ曲のように思えて眠くなってきたのだが、この映画をみて眼が覚めました。これは、2006年にNYブロードウエイのビーコン・シアターで行われた…

福田和也著「其の一日」を読んで

照る日曇る日第629回 伊藤博文、大隈重信、近衛文麿、福沢諭吉、下田歌子、明治天皇など、主に明治に生きた24の著名人のある日の相貌を、仏蘭西演劇の「三一致」の処方であざやかに切り取った連作掌編小説である。同じ題名の書が鴎外にあったのではない…

山本周五郎著「小説日本婦道記」を読んで

「これでも詩かよ」第35番&ある晴れた日に第167回 同書の「松の花」に触発され、2013年6月6日の夜を思う詩 晴れ。風もない。だんだん暗闇が深くなってきた。 君を誘って蛍を見にゆく。 懐中電灯のあかりに照らし出されたのは、一尺くらいの長さ…

風立ちぬ

「これでも詩かよ」第34番&ある晴れた日に第166回 Le vent se lève, il faut tenter de vivre! 風が吹いてきたね。さあ、もういっかい生き直そうじゃないの。 痩せたからだ、薄い骨に食い込むこの荷物は重いけれど、歯を食いしばって立ち上がり、目の…

ある国内亡命者の秘かな愉しみ

「これでも詩かよ」第33番&ある晴れた日に第165回 この頃はすっかり人間嫌い、ニッポン嫌いになってしまい、その反動で草花や昆虫や動物などと馴れ親しむ機会が増えてきました。まあ国内亡命者にでもなったような気分です。 私が好きだったのは、滑川…

DANG-KONG

「これでも詩かよ」第32番&ある晴れた日に第164回 夜、風呂の中で、何年振りかでDANG-KONGを洗いながら、思う。 キングコングのDANG-KONG、マントヒヒのDANG-KONG、ニッポンザルのDANG-KONG、そしておらっちのDANG-KONG。 DANG-KONGは男根…

独メンブラン盤「ベラ・バルトーク10枚組」を聴いて

音楽千夜一夜第318回 ベラ・バルトークの作品を10枚組にした独メムブランによる10枚組の廉価版セットです。 ここにはクーベリリック指揮ロイヤルフィルのオーケストラのための協奏曲やアンセルメ指揮スイス・ロマンド、カッチエン独奏のピアノ協奏曲…

チャップリン監督の「ニューヨークの王様」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.571 某国をクーデタで追われたチャプリン王がNYに亡命してくるが、アメリカのマスメディアに翻弄されて妻のいるパリに飛ぶまでの喜劇映画であるが、今回久しぶりに再見して私が記憶していた哀愁に満ちた主題歌がど…

独メンブラン盤「ジョージ・セル10枚組」をきいて

音楽千夜一夜第317回 名人セルの、主に1950年代の録音を集めた独メムブランによる10枚組の廉価版セットで、ロイヤル・コンセルトヘボウやクリーブランド、ロンドンフィルなどを振ったドボルザーク、モザール、シューマン、ベートーヴェン、ハイドン…

藤野可織著「爪と目」を読んで

照る日曇る日第627回 芥川賞を受賞した「爪と目」は、ざっくり要約すれば、継母に反抗する娘がどたんばで恐るべき仕返しをするという、親の因果が子に報いるという平成版びっくり残酷話であるが、その道行自体よりも、著者独特の生理的な感受性と、登場人…

『善悪の彼岸に』

「これでも詩かよ」第31番&ある晴れた日に第163回 東方隆三世、南方軍茶利夜叉 西方大威徳、 北方金剛夜叉明王、中央大聖大動明王 真っ赤な曼珠沙崋が、美しく咲いている 善悪の彼岸に、毒々しく咲いている 衆院院選で選挙違反を犯した徳州会が、いま…

『江戸の秋』

「これでも詩かよ」第30番&茫洋物見遊山記第136回&ある晴れた日に第162回 チョンチョン、チョンチョン、チョーンと柝の音が入って、三味線がチチンと爪弾かれ、太鼓がドドドドドロンと野太い不気味な音で転がったら、もうそこは江戸の秋の深い闇だ…

「能を読む」第4巻「信行と世阿弥以後」を読んで

照る日曇る日第626回 梅原猛、観世清和監修による「能を読む」シリーズの最終巻は、異類とスペクタルという副題が付けられているように、「風流能」を取り上げている。 能は観阿弥・世阿弥に代表される思弁的な問答劇である「劇能」を中心として発展して…

チャップリン監督の「殺人狂時代」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.563 チャプリンが次々に見境なしに熟女を殺しては金を盗むが、とうとう悪事が発覚してギロチンに送り込まれという話ですが、原案はなんとオーソン・ウエルズだという。 確かに婦女連続殺人事件はスキャンダラスだし…

小澤征爾指揮サイトウキネン管のラベル、ガーシュインを視聴して

音楽千夜一夜第316回 長らく病気療養中であった小澤征爾がようやく今年の松本音楽祭に出てきて、ラベルの「子どもと魔法」とガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」を振った。 彼は昔からラベルのこの愛すべき一幕物オペラを得意としていたおり、…