蝶人戯画録

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小澤征爾指揮サイトウキネン管のラベル、ガーシュインを視聴して

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音楽千夜一夜第316回

 

長らく病気療養中であった小澤征爾がようやく今年の松本音楽祭に出てきて、ラベルの「子どもと魔法」とガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」を振った。

 

 彼は昔からラベルのこの愛すべき一幕物オペラを得意としていたおり、とっくの昔に自家薬籠中のものとしていたから、いわば安全運転しているようなものだったが、特筆すべきはロラン・ペリーの演出で、みる者を忽ちにして童心に帰らせるような幻想的なイメージの展開は、やや生硬な音楽の流れを忘れさせてくれるようだった。

 

ないものねだりではあるが、全盛時代の指揮者がパリのオーケストラを振ったならと思わずにはいられない舞台であった。

 

引退したはずの大西順子トリオを担ぎ出した「ラプソディー・イン・ブルー」は、予想を裏切らないぶっつけ本番のスリリングな演奏だった。はじめは処女の如く大人しかった大西のピアノが徐々に滑らかさを取り戻し、超名人揃いのベース&ドラム共々オケに割って入り、古式蒼然たるオケを向こうに回して自在な即興の限りを脱兎の如く披露すると、小澤&サイトウキネンも得たりや応と死力を尽くす。

 

いずれがあやめかカキツバタ、いずれが吉野か山桜か、いずれがジャズでクラシックか、丁々発止と渡り合いながら、なんとかきゃんとかのるかそるかのフィニッシュにもつれ込んだのであーる。

 

幸か不幸かカデンツアが長すぎるなどいくつかの瑕瑾はあったものの、そんなことより大西と小澤がいっさいの予定調和的演奏を排し、年甲斐もなく向う見ずな爆走に駆けたところが何よりの収穫であり、ここ数年のサイトウキネンの無風状態に強烈な一石を投じたといえよう。

 

こんな熱いコラボレーションが出来るのなら、どうして死に損ないゾンビ集団のデュトワ&N響のかわりにこの夏のザルツブルク音楽祭に招かれなかったのかと不思議でしょうがないなあ。

 

 

いつまでモンゴル人ばかりに名をなさしめるのかまっことだらし無き日本人力士 蝶人