蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2012年葉月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第113回 大潮が四日続くや由比ヶ浜赤白と千切って流す蓮の花メダルより君には似合う夾竹桃八月や名刀鍛える眼の光八月や白装束で母逝きぬ八月や胸にメダルの無い帰国紅白の蓮投げ入れし祖母の棺八月や凡作もある名監督来る度に潮目が変わる由…

歌って踊ってメッセージ

バガテルop158&広告戯評第17回&♪音楽千夜一夜 第278回 マツケンサンバが登場したときはちょっと新鮮だったが、しばらくすると彼奴はどうも軟弱かつ邪道であると思うに至り、かの東海林太郎や藤山一郎が直立不動の姿勢で朗々と歌い上げるあの姿を懐かしく思…

ジョン・フォード監督の「タバコ・ロード」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.298コールドウエルの原作を1941年にダリル・F・ザナックが映画化したモノクロ映画。ジョン・フォードの映画とはいってもその大半は大物実力プロデューサー、ザナックが縦横無尽に切り刻んだものであることは彼の…

「ディーリアス生誕150周年エデション18枚組CD」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第277回このEMIの18枚組セットに収められたディーリアスの「夏の歌」を聴いて思い出すのは、1969年か70年の初秋にNHKで放送されたケン・ラッセル監督・BBC製作の同名のドラマである。視力を失い全身がマヒして創作活動に支障を…

夏の終わりに

バガテルop157&茫洋物見遊山記第91回 長男と妻と3人で由比ヶ浜の海水浴場へ行く。毎年17,8回はここへ通うのだけれど、今年は天候不順や義母のお葬式で今日で11回目の海行きである。 幸い県営の駐車場は空いていたのだが、生憎の台風で遊泳禁止の赤旗が…

半藤一利著「日露戦争史1」を読んで

照る日曇る日第535回満州から朝鮮半島へと南下してくる西欧の超大国ロシア。朝鮮を落としたら彼奴は日本海を渡って帝都を侵すに違いない。臥薪嘗胆、仏の顔もここまでだ、二度と「三国干渉」の憂き目を見てはならない。今こそ北方の巨熊にひと泡ふかせるのだ…

佐藤賢一著「ジロンド派の興亡」を読んで

照る日曇る日第534回長らく中断していた佐藤賢一氏の「小説フランス革命」シリーズがいよいよ第2部に入り、その再開第一弾の第7巻が数年振りに刊行されたのは誠に慶賀に堪えない。この巻では革命第4年に入った1792年のジロンド派とルイ16世の角逐を…

テリー・ギリアム監督の「バロン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.297 未来世紀ブラジルで圧倒的な映像美で全世界のシネフィルを戦慄させたテリー・ギリアムが次に手掛けたのが「法螺吹き男爵の冒険」を原作とするこの映画である。 けれども男爵が月へ飛んだり、鯨に呑みこまれたりす…

「カラヤン60 全82枚組」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第276回カラヤンが1960年代にドイッチエグラモフォンに録音したすべてのLPをそのまま82枚のCDセットに再構成したもので、1枚当たり212円の廉価盤である。アルビノーニ、バッハからモーツアルト、スッペ、ヴィヴァルディまで、カ…

「ディーリアス・エデション8枚組」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第275回夏に聴く音楽といえばやはりフレデリック・ディーリアスだろう。あらゆる英国の音楽家のうちで私がもっとも愛するこの作曲家の曲は、しかしあまり英国的とはいえず、彼が長く住んだフランスや、どこか北欧やアメリカやドイツからの遠い…

「ヴィルヘルム・ケンプ・ソロ35枚ボックス」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第274回ケンプといえばやはりシューべルト全集ということになるのだろうが、このたび聴き直してみてさしたる感銘を覚えなかったのはなぜだろう。シフや内田などを耳にした後ではゆるすぎて核心に欠け、もはやその表現自体が古くなったと言わざ…

林望訳「謹訳源氏物語8」を読んで

照る日曇る日第533回源氏が「雲隠」してから物語は第2部の宇治十帖に入り、薫が美しき姉妹を相手にむなしい独り相撲を取る。薫の推挽でたちまち妹の中君をものにした匂宮とは正反対に、薫中将はなにごとにつけてもぐずぐず考え込み、慎重で積極的に行動せず…

磯崎新著「気になるガウディ」を読んで

照る日曇る日第532回&勝手に建築観光第50回 「眼高手低」とは私が磯崎新につけたキャッチフレーズ。建築にかんする蘊蓄を語らせたらこの人の右に出る者はいないが、実際に作っている作品が口ほどにもないのがこの本の著者である。しかし、ガウディ建築は不…

「オペラ・イタリアーナ」40枚組CDを聴いて

♪音楽千夜一夜 第273回400年に及ぶ歴史を誇るイタリアオペラの中から20人の作曲家を選んで1人1曲全部で40枚組のセットに編んでいます。1枚100円の超廉価盤ですが、メルカダンテの『イル・ブラーヴォ』、ジーノ・マリヌッツィの『ジャクリーの乱』、ジャン・…

ジョセフ・フォン・スターンバーグ監督の「間諜?27」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.296 いつもそうとは限らないが、1931年製作のこの映画ではヒロインのマレーネ・ディトリッヒの顔容が異様なくらいいつまでも眺めていたいくらいに美しい。これが後年になると妙に崩れてエグくなるから俳優稼業もつ…

プルースト著・吉川一義訳「失われた時を求めて4」を読んで

照る日曇る日第531回全14冊の文庫本の4冊目に当たる本巻は、第2編「花咲く乙女たちのかげに2」第2部「土地の名―土地」の全訳です。パリを離れた主人公は、祖母や女中のフランソワーズと共にノルマンディー海岸の保養地バルベックにやって来て華やかな夏の避…

矢口史靖監督の「スウィングガールズ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.295柳の下にはもう一匹どぜうがいた。ウオーターボーイの後はスイングガールと来たぜ。 これは脚本や監督の演出、役者の活躍をうんぬんする以前にやはり企画の勝利というべきだろう。 はじめは全然やる気のなかった高…

イワン・プィリエフ監督の「カラマーゾフの兄弟」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.292&293&294 1969年に旧ソ連で製作された映画である。第1部を見て驚いたのは、登場人物のイメージが原作に近いというか、傷つけていないというか、とても好ましいこと。グルーシエンカとゾシマ長老はちょっと違…

エルネスト・チェ・ゲバラ著「チェ・ゲバラ革命日記」を読んで

照る日曇る日第530回1956年12月2日、「グランマ号」という名のボートに乗ってメキシコからキューバに上陸したカストロ兄弟やアルゼンチン人医師のチェ・ゲバラなどわずか82名の武装勢力が1959年1月1日にバチスタ政権を武力で打倒するまでの革…

瀬戸内寂聴著「烈しい生と美しい死を」を読んで

照る日曇る日第529回 えげつないタイトルだが、激烈な生涯を完走した伊藤野枝、辻潤、大杉栄、荒畑寒村などの革命家、詩人、芸術家などの生と死の火花を活写している全力疾走エッセイだ。 葉山の日陰茶屋で新参者の野枝に出しぬかれた神近市子が、嫉妬に狂っ…

マーク・トウェイン著「トム・ソーヤーの冒険」を読んで

照る日曇る日第528回 夏だ、休みだ、お子様ランチだ! ということで、柴田元幸氏の翻訳による文庫本を手にとってみましたが、これって全然子供が読む本ではないですね。確かに悪戯者のトムが悪友どもをたぶらかしてペンキを塗らせたり、可愛いベッキーちゃん…

トニー・スコット監督の「デジャヴ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.292これは第288回で紹介した同じトニー・スコット監督の「エネミー・オブ・アメリカ」に悪乗りしてさらに先を行くような映画で、ここでは、アメリカ政府は宇宙と地上のいたるところに張り巡らした精密な監視カメラ…

五社英雄監督の「御用金」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.291佐渡の金山から北船で運ばれてくる御用金を福井小浜近辺の貧しい藩が、日本海沿岸で横取りしようとたくらみ、漁村の人々を皆殺しにする。 その不正許すまじとひとり立ち上がった仲代達矢が、妻の司葉子や村の娘浅丘…

荻上直子監督の「かもめ食堂」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.290フィンランドで撮影した日本映画なんて初めてではなかろうか。監督が連れて行くのは小林聡美がたった一人で立ち上げた日本食堂。はじめのうちは全然お客がつかない。やって来るのは日本語をしゃべるアニメファンの…

ドナルド・キーン著作集第4巻「思い出の作家たち」を読んで

照る日曇る日第527回 読んでも読んでも終わらないので往生しましたが、なんのことはない、この分厚い本には谷崎、川端、三島、安部、司馬について書かれた「思い出の作家たち」、鴎外、子規、啄木、太宰などについて書かれた「日本の作家」、二葉亭四迷から…

トニー・スコット監督の「エネミー・オブ・アメリカ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.288至る所に監視カメラや盗聴マイクが仕掛けられ、権力を握る者たちが市民のプライバシーを完膚なきまでにぶち破っている状況を告発する映画である。主に英国に倣ってわが国の店舗や街頭のあちこちでこういう不愉快な…

中平康監督の「狂った果実」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.289昭和31年当時の鎌倉駅や逗子葉山の海岸、とりわけ曾遊の芝崎が登場するのが懐かしい。むかし家族揃ってよくこの岩磯で泳いだり魚やウニをとったものだ。そんな鎌倉の海でことし4回目の海水浴を楽しんで来たとこ…

NHK「世界ふれあい街歩き」を見て

バガテルop156&茫洋物見遊山記第90回 おおむねが消えてなくなればいい民放のアホ馬鹿番組の洪水の中で、やはり腐っても鯛、「皆様の」NHKは、有料とはいえ朝晩の定時ニュースをはじめ貴重な戦争記録証言、Nスペ、サラリーマンネオ、ぶらタモリ、音楽番…

スタンリー・キューブリック監督の「博士の奇妙な愛情」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.287「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」という素晴らしいタイトルのこの映画を製作、演出、脚色したのは他ならぬスタンリー・キューブリックであるが、この米ソ核…

ノーラ・エフロン監督の「めぐり逢えたら」

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2861993年のハリウッド映画で「シアトルの不眠男」というのが原題だが、ケーリーグラントとデボラカーの「めぐり愛」が引用されているので、この邦題はまあ許せる。 さてその内容はというと、最愛の妻に死なれて生…