蝶人戯画録

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エルネスト・チェ・ゲバラ著「チェ・ゲバラ革命日記」を読んで

kawaiimuku2012-08-13



照る日曇る日第530回

1956年12月2日、「グランマ号」という名のボートに乗ってメキシコからキューバに上陸したカストロ兄弟やアルゼンチン人医師のチェ・ゲバラなどわずか82名の武装勢力が1959年1月1日にバチスタ政権を武力で打倒するまでの革命闘争を記録した文字通りの日録である。

シエラ・マエストラを拠点とした少数精鋭の革命軍は、バチスタ軍を奇襲していくつもの勝利を収めるがその行軍は困難に満ち満ちたものであり、多くの犠牲者を出しながらも一歩後退二歩前進というような形で進んで行く。

持病のぜんそくに苦しみ、待ち伏せ、死亡、負傷、裏切り、処刑……殺すか殺されるかの極限状況を体験しながら、ゲバラの筆致はラテン的な楽天性と理知的な冷静さの両方を兼ね備え、ときおり皮肉やユーモアも交ざっていて興味深い。

指導者のカストロは軍団連中に訓示を垂れ、「不服従」、「脱走」、「負けを認める」、の三つの罪を犯した者は死刑にするとアジっているが、過酷な行軍に耐えきれず除隊を願い出た少年兵には、バチスタ軍の逮捕を警告したうえでそれを許している。

ゲバラがボスであるカストロの命令に基本的には従いながらも、時々それを無視して我が道を行ったりするのも面白い。このような度量の大きさがキューバ革命を成功させた要因のひとつではなかろうか。

本書の末尾の付録には反乱軍の伝令を務めていたサンチエス・リディアのゲバラへの初々しいラブレターが紹介されていて微笑ましいが、その彼女が革命成就前夜の1958年12月12日、敵に捕えられ拷問のうえ惨殺されたと聞くと、思わず粛然と襟を正さざるを得ない。

そのために己の生をなげうつ程の不跋の信念がなければ革命なんて軽々に参加できないし、従って簡単には実現できないのであろう。



革命てふ言葉なんて発する力既に無くヤマトシジミ翼畳む 蝶人