蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2012年卯月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第107回 キーンさん、日本人になってくれてありがとう!ダルが投げイチローが打つ愉楽哉梅開きにわかに蛙声聴こゆれば一首詠まずにおらりょうか桜万朶関東平野駆け巡るわれ行けば万朶の桜関東平野わが庵の主となりぬ島桜桜咲く無神論者の庵哉…

川島雄三監督の「幕末太陽傳」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.233若くして病に斃れた奇才の代表作である。維新も間近な品川の遊郭を舞台に、遊女や町人や勤王の武士たちが終始駆けずり回る。余命いくばくもない商人に扮したフランキー堺が、これら多士済々の登場人物を手玉に取っ…

ビリー・ワイルダー監督の「失われた週末」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2321945年の米ハリウッド映画です。わが国ではアルコール依存症の患者がおよそ30万人もいるそうだが、これも小説家志望の呑んだくれの話。おのれの才能に絶望してなんども何度も酒におぼれていく弱い人間をワイ…

古井由吉著「古井由吉自撰作品一」を読んで

照る日曇る日第511回 全8巻の刊行が開始された本シリーズであるが、第1巻の本書では1971年に発表された「杳子」「妻籠」、72年の「行隠れ」、76年の「聖」という著者の初期の代表作が収められている。「杳子」では、山登りの途中で偶然行き悩んでいる杳子と…

ジェームズ・キャメロン監督の「アビス」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.231 「タイタニック」で知られるこの監督は、ともかくやたら海と潜りが大好きだ。沈没したタイタニック号の周辺海域には何度も潜って撮影しているし、先日は単身「ディープシー・チャレンジャー」を駆って世界最深1万…

家城己代治監督の「姉妹」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.230 野添&中原の両ひとみ選手が仲の良い姉妹を共演しています。実際にはおしゃまな後者が背が高くて大人っぽい前者より僅かに年配なのですが、とてもいい配役です。舞台は昭和30年代の信州松本という設定になってい…

ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.229 アンリ・ドカエのキャメラによるモノクロームに映えるジャンヌ・モローとモーリス・ロネのなんと若々しく美しいことよ! 1958年の巴里が懐かしい。夜のアウトドア撮影、即興的な編集、マイルス・デイビスのジ…

文化学園服飾博物館の「ヨーロピアン・モード」展を見て

ふぁっちょん幻論第69回& 茫洋物見遊山記第86回&バガテルop153毎年春の新学期になると陳列されるのが、この貴重なドレスコレクションだ。18世紀のロココ時代から1970年代までおよそ200年間の欧米の多種多彩なモードを一覧できるので大変面白くか…

ダメダバダアエヌエッチケエ

バガテルop152&♪音楽千夜一夜 第256回 春です、新学期です、新番組でやんす。超保守派の私は民放が嫌いで日本放送協会の放送を好むんだけど、それは同じアホ馬鹿でもアホ馬鹿度がかなり低いからだ。特にそれは報道番組や特集で顕著に現れ、「皆様のNHK」…

ある晴れた日に  第106回

帰玄君はもう見知らぬ土地へは行かないだろう 既に幾つもの風景を見てきたのだから 君は愛犬の傍らに座して思い出すだろう あれらの土地に吹いていた風の匂いと光のいろを君はもう本を読まないだろう いくら朱線を引いても人の世は分からないのだから 君は海…

ロナルド・ニーム監督の「ポセイドン・アドベンチャー」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.228一九七二年製作のパニック映画の秀作です。タイタニックを思わせる海難事故で突如沈没してしまった巨船ポセイドン。天地がさかさまになってしまった地獄絵のような状況で、ジーン・ハックマン扮する牧師が身を犠牲…

日出山陽子著「尾崎翠への旅」を読んで

照る日曇る日第510回尾崎翠という人についても、その作品についてもこの年になるまでまるで知らなかったことを激しく後悔している今日この頃ですが、世間では数多くの熱烈なる翠ファンが地下茎のようにうねうねと寂しく繁殖しているようです。彼女の作品に魅…

スタンリー・クレーマー監督の「招かれざる客」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.227 人種問題などに進歩的な見解を有する新聞社の社長夫妻(スペンサー・トレーシーとキャサリン・ヘプバーン)の家に突如娘が連れてきた招かれざる黒人婚約者シドニー・ポワチエ。おまけに彼の両親まで同家を訪れるこ…

国立新美術館の「セザンヌ展」を見て

茫洋物見遊山記第85回久しぶりのセザンヌだがちっとも心に響かなかった。この画家はあくまでも理知の人。山や画廊主やリンゴを前にしてキャンバスの上でそれらを一度解体してから、ああでもない、こうでもないと組み立てることに腐心する。それが悪いという…

東京国立近代美術館の「ジャクソン・ボロック展」を見て

茫洋物見遊山記第84回いわゆる「アクション・ペインティング」の元祖の作品が60点以上も見物できるというので竹橋まで出かけたら、金曜の午後だというのに人影もまばらでありました。やはり世間の人は上野公園のパンダや桜見物には繰り出してもアメリカ人…

ボストン美術館「日本美術の至宝」展を見て

茫洋物見遊山記第83回 といっても米国のボストンまで行ってきたわけではありません。櫻満開の上野の東博平成館でつらつら見物したのです。そこにはかの岡倉天心やフェノロサなどが本邦からせっせせっせと持ち運んだ国宝級の仏像、仏画、絵巻物、中世水墨画か…

内田樹&中沢新一著「日本の文脈」を読んで

照る日曇る日第509回 新進気鋭、というよりは今や論壇の主流に躍り出て大活躍の「男のおばさん」によるアットホームな雰囲気の対談集である。3.11の大震災が来るまでは「日本の王道」というタイトルで出版されるはずが、内田の提案でこともなげに急遽「…

鈴木杜幾子著「フランス革命の身体表象」を読んで

照る日曇る日第508回 ジェンダーから見た200年の遺産という副題が付されているように、これは人類の半分が女性である以上、美術史学もまたその事実を尊重すべしと断言する、新古典主義について造詣の深い著者に因って執拗に掘り起こされたフランス革命時…

ドナルド・キーン著作集第1巻「日本の文学」を読んで

照る日曇る日第507回&バガテルop151せんだってキーン翁は、晴れて我らが同胞の一員となられた。これについてわたくしは北区西ヶ原の区役所が小さな花束を贈ったことは知っているが、その他からあまり歓迎の声が掛からないのはいかなる仕儀であろうか。わが…

ジョン・ヒューストン監督の「黄金」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2261948年製作のアメリカ映画で、黄金の欲に取り付かれ常軌を失った貧乏な浮浪者をハンフリー・ボガードが熱演している。舞台は1920年代のメキシコで一攫千金を狙うアメリカ人の山師がメキシコ人の山賊や軍隊…

小林正樹監督の「人間の條件・第6部 曠野の彷徨篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.225 逃亡兵を引きつれて秋深い旧満州を放浪する梶は、一人の老人(笠智衆)に率いられた女たちが住む家を見出す。その夜寄る辺なき女性たちは自らの身体を開いて男たちを招き入れたが、高峰秀子扮する人妻の誘いを、梶…

小林正樹監督の「人間の條件・第5部死の脱出篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.224 梶は生き残りの部下たちと共に妻美千代の住む方角をめがけて脱出行を試みるが、途中でソ連兵の斥候と遭遇したためにやむを得ず彼を刺殺してしまい、血に染まった右手を何度も見詰める。彼には何の恨みもないが、梶…

小林正樹監督の「人間の條件・第4部戦雲篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.223 退院した梶が所属した部隊にいたのは、彼のかつての同僚影山少尉だった。影山(佐田啓二)は上等兵になった梶を初年兵教育係に任命して引きたてようとするが、部下を殴らず温情主義で育成しようとする梶は古兵たち…

小林正樹監督の「人間の條件・第3部望郷篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.222大卒の満鉄エリート社員でありながら2等兵として営倉に放り込まれた梶は初年兵としての過酷な任務に耐えながら帝国陸軍のおそるべき非人間性と直面していく。この極限の世界では異端の思想者と肉体的精神的な弱者…

小林正樹監督の「人間の條件・第2部激怒篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.221 部下の陰謀に因る工員と陳(石浜朗)の鉄条網感電死事件に続いて、7人の脱走者をめぐる処罰事件が引き起こされ、ヒューマニスト梶は最大の窮地に立たされる。梶がいくら良心的な個人として振舞おうとしても、彼が…

小林正樹監督の「人間の條件・第1部純愛篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.220五味川純平の原作を映画化した第1作では、主人公梶の満州老虎嶺鉱山における苦闘を描く。満鉄調査部における机上の空論を過酷な現実に適用することになった梶(仲代達矢)は、現地の鉱山労働者のみならず、上司や…

オリヴィエ・ダアン監督の「エディット・ピアフ 愛の讃歌」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.219名高いシャンソン歌手のあまりにも数奇な生涯をさまざまなエピソードを交え、時系列を無視した回想録風に映像化しています。オランピア劇場におけるコンサートなどいずれも歌手本人の録音が使われており、「薔薇色…

エドマンド・グールディング監督の「グランド・ホテル」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2181932年に製作された史上初めてのグランド・ホテル形式による映画。同じ場所に集う多くの人々の諸相を同時進行でスケッチしていく手法が、新しいドラマチックな興奮を生みだした。従業員を奴隷視する強欲社長や…

ジャン・ピエール・ジュネ監督の「アメリ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.217なんといっても主人公のキャラクター(オドレー・トトゥ)が素晴らしい。愛くるしい瞳と白い卵のような顔、そのすんなりした体つきと喋り方、そして不器用で傷つきやすいけれど繊細で人に親切な引きこもり型の少女…