蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

文化学園服飾博物館の「ヨーロピアン・モード」展を見て

kawaiimuku2012-04-22



ふぁっちょん幻論第69回& 茫洋物見遊山記第86回&バガテルop153

毎年春の新学期になると陳列されるのが、この貴重なドレスコレクションだ。18世紀のロココ時代から1970年代までおよそ200年間の欧米の多種多彩なモードを一覧できるので大変面白くかつ勉強になる。
どこが面白いかと云うと各時代の衣装がロココ、新古典、ロマン、写実、印象派、そして20世紀絵画へと続く美術史の意匠と図式的にほぼ対応しているように見え、しかもそれが時代の進行とともに「進歩・進化しているように」見えることだ。

しかしこれはもちろん現代という時点にまでさかのぼって歴史絵巻を拡げた時にはじめて総括できる「人間非在の神の視点」からの幻影であり、その時系列による変化・変遷が「進歩・進化」とはなんの関係もないことに注意する必要があるだろう。

かつて一斉風靡した唯物史観によれば、衣装史や美術史はもちろん世界の歴史それ自体も暗黒時代から文明開化、階級抑圧から自由平等博愛の時代へと未来に向かって一義的に「進歩→進化」するという証明不可能な奇怪な薔薇色の妄想に包まれていた。

けれどもこういうドレスのプリントデザインを一つ一つ眺めていると、過去の定説とは正反対に(注=ここで「真逆」などという汚らわしい非日本語を使用してはならない!)、時代の進行とともに衣装の意匠の価値は紆余曲折を重ねながらも、むしろ徐々に「退歩・後退」してきたのではないか、という新たな妄想に駆られるのだ。

もっと具体的にいうと、服飾においては流行のファスト・ファッションよりもマリー・アントワネットのロココドレス、いな、さらに遡って新石器時代の一枚衣・貫頭衣、美術においては村上隆、ボロック、セザンヌよりもラスコー洞窟の壁画、建築ではアホ馬鹿共が狂って登りたがる東京スカイツリーより出雲大社に普遍的な価値を見出すというような反進歩反進化先祖返りの原始的な考え方である。 

こういう時代遅れの妄想を私は「あまでうすの逆行学説」と名付けてけふも独り悦に入っているのだよ。

*本展は来る6月2日まで東京新宿の同館にて開催中。なお日曜祝日は休みです。


あまでうすかく語りき「万物退化す」 蝶人