蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2011年葉月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第96回 天青咲きてわたしの夏が来る喨々と油蝉鳴く正午かなむざむざと車に轢かるるキリギリスギースチョンを2匹助けてやりましたこのススキ持って帰っていいかしら横須賀で長崎チャンポン食べましたつばくらの低く飛ぶ駅を出でにけり原発…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第11回

bowyow megalomania theater vol.1 「い、い、いつから、ヨ、ヨ、洋子はお前のものになったんだ、エッ!」と、のぶいっちゃんは少しどもりながら野太い声を出しました。僕はなにも答えませんでした。またその質問には、僕はなにも答えられませんでした。「洋…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第10回

bowyow megalomania theater vol.1 僕はそんなかっこうで洋子のやわらかな身体をしっかりと抱きとめたまま浜松の郊外にある田島砂丘の向こうに輝く冬の太平洋の群青色をいつまでも眺め、ドオーン、ドオーンと鳴り響く大波の遠吠えを子守唄のように気持ちよく…

バガテルop142&ある晴れた日に 第95回

8月13日の土曜日に7回目の海へ行って、その翌日お父さん浮輪を潰して下さいと息子に言われて今年の海水浴はもう終わりと思っていたのに、今日突然僕海へ行きますと言いだしてまさか本気かよと思ったがやはり本気だったので午後2時半に3人で由比ヶ浜へ…

林望訳「謹訳源氏物語六」を読んで

照る日曇る日第450回 かつて桐壺帝が寵愛する藤壺を犯した源氏は、このたびは朱雀帝より拝受した皇女女三の宮を政敵である太政大臣の息子柏木に犯され、またしても最愛の妻紫上を襲う六条御息所の怨霊と戦いながら、おのれの業の深さに懊悩する。まさに因果…

丸谷才一著「樹液そして果実」を読んで

照る日曇る日第449回甘味滴る書名に惹かれて読んでみたが、柔らかな表皮の内部は博学才知をもって鳴るこの著者ならではの広く深い考察に満ち満ちていた。前半はジェームス・ジョイスの「若い藝術家の肖像」と「ユリシーズ?」を巡る才走った文芸評論、後半は…

バリー・レヴィンソン監督の「グッドモーニング・べトナム」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1431987年に製作されたアメリカから見たベトナム戦争のお話。誰から頼まれた訳でもないのに、太平洋を渡ってアジアの人々に戦争を仕掛け、完膚なきまでに一敗地にまみれた愚かな国のささやかなエピソードをロビン…

本郷森川町界隈を歩く

茫洋物見遊山記第62回&勝手に建築観光第43回 本郷館のすぐそばに、昔ながらの旅館鳳明館の森川別館がひっそりと立っていました。昔はどこへ行ってもこういうひなびた日本旅館ばかりだったのですが、いまでは洋風のビジネスホテルに圧倒されて少し肩身が狭そ…

本郷館を訪ねて

茫洋物見遊山記第61回&勝手に建築観光第42回 東京本郷森川町の「本郷館」が近々取り壊されるという悲しいニュースをマイミクさんから耳にして、久しぶりに現場に立って見ました。 本郷館は築106年の古い木造建築で、東大の正門から200メートルほど離…

フィッシャー・ディースカウ&ジェラルド・ムーア「シューベルト歌曲

♪音楽千夜一夜 第216夜 ドイチェ・グラモフォンに彼らが録音したシューべルトの男声用の全てのリート408曲21枚組のCDを続けて聴くと、ディースカウの前にディースカウなく、ディースカウの後にディースカウなしと思わずつぶやいてしまう。それはあま…

ストラビンスキー自作自演エディション全22枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜 第215夜欲しくて買えなかったLP31枚組が、1枚たった130円の最新録音盤CD22枚に大変身。これでは最低級カナー氏症候群の息子を質屋の抵当に置いても買わずにはいられませんでした。輸出企業には悪いけれどこういうのだけは超円高大…

ダグラス・サーク監督の「愛する時と死する時」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.142「凱旋門」「西部戦線異状なし」で知られるラマルクの同名の原作をダグラス・サークが演出してなかなか見ごたえのある戦争映画に仕立て上げました。 時は1944年の独ソ戦。ロシアとの死闘を繰り広げるドイツ軍兵…

マイケル・カーチス監督の「カサブランカ」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1411942年製作のアメリカの、というよりは全連合国側共同製作の反ナチス宣伝映画です。基本的にはこの頃キャプラが作っていた打倒枢軸国の国策映画とおなじラインにのっかっているプロパガンダムービーですから、…

ダグラス・サーク監督の「悲しみは空の彼方に」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.140昔からラナ・ターナーという女優が好きだった。その派手の容姿の奥に隠された定めなき不安、動揺、いわく言い難い負の要素が気になって仕方がない。 事実彼女はゲーブル、タワー、シナトラ、コネリー、ヒューズなど…

溝口健二監督の「新・平家物語」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.139吉川英治の原作を依田義賢らが脚色して溝口が1955年に映画化した。貴族主人公の清盛を若き市川雷蔵が熱演しているが、この人はどんな映画に出てもけっしてうまい演技をしたと思ったことはない。さしずめ日本の…

続・葉月狂言綺語

バガテルop141菅首相がいよいよ辞めることになったので、世間やマスコミでは鬼の首をとったように大喜びしているが、それほど愉快な出来事なのだろうか。そもそも腐敗堕落した自民党を見切り、民主党には立派な人材や政策や指導力がある、などと勝手に巨大な…

葉月狂言綺語

バガテルop1408月5日の日経の文化欄で吉本隆明氏が文化部の記者の取材に答えて「原発をやめるという選択は考えられない」と発言していた。 「原子力の問題は、原理的には人間の皮膚や硬い物質を透過する放射線を産業利用するまでに科学が発達を遂げてしま…

衣笠貞之助監督の「地獄門」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.138平安時代末期から鎌倉の初期にかけて活躍した文覚上人の前半生を文豪菊池寛の原作でカラフルに映画化した。北面武士の遠藤盛遠(長谷川一夫)が同族の武士渡辺渡(山形勲)の美貌の妻、袈裟御前(京マチ子)に横恋…

藤田覚著「江戸時代の天皇」を読んで

照る日曇る日第448回講談社刊の「天皇の歴史」も、いつのまにやら第6巻の江戸時代までやって来た。本巻の冒頭では家康・秀忠・家光と続く徳川幕府が、後陽成・後水尾、明正、御光明天皇の実権をはく奪しながらも、形骸化されたその権威を徹底的に活用してお…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第9回

bowyow megalomania theater vol.1 暖かい日でした。 砂丘の向こうには海が広がっていました。太平洋でした。 はるか彼方の水平線を一艘の漁船が波にもまれながら息も絶え絶えに東の方角へ消えてゆきました。 強風にあおられながらたくさんのカモメが上にな…

ピーター・デイビス監督「ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1381974年に製作されたベトナム戦争をめぐるドキュメンタリー映画です。サイゴンの警察長官がベトコン容疑者の頭をいきなり拳銃で撃ち抜く有名なシーンが挿入されていますが、おのが国家利害のためには世界の果て…

成瀬巳喜男監督の「浮雲」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.137原作は林芙美子、脚本は水木洋子、そして男と女の好いた惚れたのファーストキスから、ズブズブドロドロの腐れ縁、そして因果は巡る大団円までを、これでもかこれでもかと執拗に描く監督。そして、その理想的な被写…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第8回

bowyow megalomania theater vol.1 すると洋子が、「私はやっぱ「さすらう人」だな」と、突然言ってスタスタと三台目の車の助手席に乗り込んでしまったので、僕も仕方なく「遊ぶ人」のトラックに乗りました。 のぶいっちゃんは残った「働く人」のに乗り込む…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第7回

bowyow megalomania theater vol.1 あっと思った時には、その三台のトラックは急停車して、中からねじりはちまきをした背の高い「働く人」と、でっぷりした「遊ぶ人」、そしていちばん年の若い「さすらう人」がドアをバタンと閉めて運転席から次々と飛び降り…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第6回

bowyow megalomania theater vol.1 12月6日 晴金沢八景の三郎の滝から太刀洗いを経て番小屋に居る大きなシェパードに吠えられながら、十二所神社の前の県道に出て霊園の坂をえっちらおっちら登っていくと、後ろから走って来た車がどんどん僕たちを追い越…

アラン・ドロン脚本・監督・主演の「危険なささやき」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1361981年に希代の色男が人もすなるくわんとくをワレモ、と得たりやおうと飛びついて試みた監督主演の探偵謎解きおフランス映画の超ダサく。元デカ上がりのドロンが神出鬼没獅子奮迅の大活躍を演じるが、気持ちよ…

五味文彦編・現代語訳「吾妻鏡10御成敗式目」を読んで

照る日曇る日第447回本巻では寛喜3年1231年から嘉禎3年1237年の7年間の鎌倉幕府の事績を取り扱っているが、そのわずかな期間の叙述にかなりの重複があるのが解せない。そもそも吾妻鏡は北条一族の息がかかった歴史整序が恣意的になされているので…

ジェームズ・ゴールウエイのフルート協奏曲集全12枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜 第214夜これまたソニーの1枚224円の超バジェット価格につき即購入し、バッハ、モーツアルト、テレマン、ヴィヴァルディとどんどん聴き飛ばす。とっかえひっかえ聴きまくる。物凄い技巧とテクニック。あ、同じか。 ともかく指がすみやかに…

クレンペラー指揮フィルハーモニア管の「ベートーヴェン交響曲全集」

♪音楽千夜一夜 第213夜英EMI盤とは違って、しかし同じオケを指揮してのベト全曲。1960年のウイーンライブがアンドロメダから新たに24ビットでリマスターされたが、さしたる感動はなかった。前者はスタジオ録音、後者はライブ1発録りということで、当然…

リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.136 海の表層は青く美しいが、しばらく下降すると暗黒の闇に閉ざされる。さうしてその闇の奥には我々の生誕の原点があり、ここにこそ人類創成700万年の秘密が隠されている、とジャック・マイヨールやエンゾ・マイオ…