蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2009年神無月茫洋歌日誌

♪ある晴れた日に 第67回 蝉どもの鳴き声絶えし神無月朔日釣り舟も釣舟草も沈めたり台風18号木犀を探し歩くや浄妙寺アケビ食べ丹波の少年となりにけり 性愛の讃歌非情の銃弾テキサス荒野にこだませりセクシーシンボルというよりちょいといかれた芋ねえち…

06年5月20日メト・ガラコンサートを視聴して

♪音楽千夜一夜第88回私がこのSNSで読書や映画メモをつけはじめたのは、「ハリーとトント」という映画を何回見てもなにも覚えていないことに気づいたからでした。おそらく30年間に少なくとも3回は見たこの映画は、ニューヨークの下町で2人の老人が出…

梟が鳴く森で 第1回

第1部 うつろい9月1日 雨のち曇 目指さない、目指します、目指す、目指せば、目指そう、目指した。9月2日 曇時々晴れ 江の電に乗りました。江の電は、JRの鎌倉駅のそばから出ています。 和田塚、由比ヶ浜、長谷、極楽寺、稲村ヶ崎、七里ヶ浜、鎌倉高…

藤森益弘著「ロードショーが待ち遠しい」を読んで

照る日曇る日第305回副題に「早川龍雄氏の華麗な映画宣伝術」とあるので、もしやあの早川さんではないかと思って読んでみたら、やはりそうでした。早川さんはワーナーブラザースの映画宣伝プロデューサーを30年務められ、この業界では知らない人はいな…

バレエ「ザ・グレート・ミサ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第87回 グレゴリオ聖歌やクルタークやペルト、それに詩の朗読などをサンドウイッチにしながら、ゲバントハウスのバレエ団が同じゲバントハウスのオケをバックにモーツアルトのミサ曲ハ短調K427という希代の名曲を踊ります。これは05年6月…

雨の月曜日

バガテルop114 昨日は私の地元では参院補選と鎌倉市長選が行われ、雨が篠突く中を投票に行ってきました。夜になってその結果が判明し、前者では民社新顔の金子氏が当選を決めましたが、後者では同じく民主党推薦の渡辺光子氏がなんと2万票の大差で無所属…

大野和士指揮ベルギー王立歌劇場で「アイーダ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第87回 04年10月15日のライヴ収録を衛星放送の録画で見ました。この公演の最大の特徴は英国の気鋭の演出家ロバート・ウイルソンの仕事ぶりです。メットならラクダや象が行進するところですが、そんな大げさな鳴り物は影も形もなく、き…

川上未映子著「ヘヴン」を読んで

照る日曇る日第304回私が中学生の頃も苛めはありました。なぜか大きな力を持つ実力者を中心にして権力者グループが形成され、彼らは非力な者、弱い者を次々に血祭りにあげ、暴力を伴ったその独裁的なパワーを誇示していました。彼らはどうやら地元の暴力…

演劇集団円公演『コネマラの骸骨』を見る

茫洋物見遊山記 第2回 ロンドン生まれの若き劇作家マーティン・マクドナーの話題作『コネマラの骸骨』を見物してきました。これはアイルランドのリーナン地方を舞台にした、はちゃめちゃに面白いどたばた活劇シリーズの第2作で、第1作の『ビューティーク…

小津安二郎監督「晩春」再見

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.16 見るたびにいろいろな発見とさまざまな感慨が浮かんでくる映画です。 私はこれまで笠智衆の父親と原節子の娘が住んでいるのは北鎌倉だと思っていたのですが、そうではなく鎌倉でした。海まで14,5本という会話…

照る日曇る日第303回 荷風と違って山田風太郎の日記の特徴は、米国に対する憎悪です。彼らの美点に無知ではなかった山田ですが、本土に対する無差別爆撃を繰り返す米軍に対して一人一殺ならぬ三殺を唱え、「全日本人が復讐の陰鬼となってこそ、この戦争に…

ドナルド・キーン著「日本人の戦争」を読んで 前篇

照る日曇る日第302回太平洋戦争中に戦死した日本人兵士の日記を読んで、「どんな学術書や一般書を読んだ時よりも日本人に近づいたという気がした」と語る著者は、このたびはわが国を代表する作家や学者、知識人、たとえば永井荷風や山田風太郎、高見順、…

藤沢周著「キルリアン」を読む

照る日曇る日第301回ひとりの中年の自称鎌倉文士が市内の名所旧跡、たとえば夜の円覚寺の山門や化粧坂、あるいはまた亀ヶ谷のおのれのあばらや、北鎌倉の居酒屋、さらには若き日に身に覚えの道玄坂界隈などで、やたらひとりよがりな物思いにふける私小説…

ヘスス・ロペス・コボス指揮パリ・オペラ座で「ホフマン物語」を視聴

♪音楽千夜一夜第86回オフェンバックが作曲した「ホフマン物語」を録画したビデオで視聴しました。これは主人公ホフマンが、「歌う人形」のオランピア、「瀕死の歌姫」アントーニア、「ヴェネツィアの娼婦」ジュリエッタと次々に恋に落ちるが何れも破綻する…

「皇室の名宝―日本美の華」第1期展を見る

茫洋物見遊山記 第1回 秋晴れの一日、上野の国立博物館で「皇室の名宝―日本美の華」第1期展を見てきました。まだ会期が始まったばかりの午前中だというのにかなり混雑していました。あと1週間もすればまたもや平成館おなじみのぐるぐる巻き大行列が始まる…

スピルバーグ監督の「ターミナル」を見る

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.16これは故国を旅だってニューヨークのJ.F.ケネディ空港に到着したトム・ハンクス扮する主人公が、父の願いをなかなか果たせずに同空港の内部で延々と滞在を余儀なくされるというお話です。ロシアの隣国と思しき…

ジョージ・ルーカス監督「アメリカン・グラフィテイ」を見て

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.15全編オールディーズ音楽満載の懐かし60年代回顧フィルムですが、いまみても「青春って変わらないなあ」と思わせてくれるつよい普遍性を発散しています。主人公はハイスクールの男女というよりもキャデラックでし…

吉村昭「歴史小説集成第4巻」を読んで

照る日曇る日第300回岩波書店から刊行されているシリーズの第4巻には「落日の宴」「黒船」「洋船建造」「敵討」の長短4つの作品が収められており、幕末のペリー来日の頃の幕吏の精力的な活動ぶりをつぶさに追体験することができます。 嘉永6年1853…

橋本征子著 詩集「秘祭」を読んで

照る日曇る日第299回「夏の呪文」「闇の乳房」「破船」につづく著者の第4番目の詩集「秘祭」が刊行されました。苺、アスオアラガス、桃、アドカボ、にんにく、イチジク、メロン、レモン、ホウレンソウ、ピーマン……、キッチンにそっと置かれた果物を凝視…

高橋源一郎著「13日間で「名文」を書けるようになる方法」を読んで 

照る日曇る日第298回この長谷川摂子の童話「めっきらもっきらどおんどん」が、いったんは失われた言葉の力を取り戻す光景は劇的で、その昔、やはり脳に障碍を持つ私の長男が一度は失われていた発語を取り戻した折の無上の感激をはしなくも思い出しました…

高橋源一郎著「13日間で「名文」を書けるようになる方法」を読んで 

照る日曇る日第297回それからこの本(講義)のもうひとつの楽しさは、行き当たりばったりの即興的な自由さです。くだらないシラバスにとらわれない、ジャズの演奏に見られるような奔放な思索のインプロビゼーションです。たとえば源チャンの第9回目の授…

高橋源一郎著「13日間で「名文」を書けるようになる方法」を読んで 

照る日曇る日第296回これは著者が毎週木曜日の4時限に明治大学国際学部で行った「言語表現法」の13回の講義の実録ライブ収録です。軽薄な実用書のようなタイトルで損をしていますが、内容的にはその正反対の著作であると断言してもいいでしょう。よしんば…

スピルバーグ監督「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」を見る

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.14自分が大好きな人はいざ知らず、あまり好きでないからこそ人はもう一人の自分を夢見たり、年甲斐もなく自分探しなる虚妄の旅路に出るのでしょう。そういう元スポーツマンにうってつけの映画がこれ。パイロットや医…

吉村昭著「彰義隊」を読んで

照る日曇る日第295回徳川幕府に最後まで忠誠を誓い、上野の森に立てこもって薩長の朝廷軍と戦った彰義隊は新撰組と並んで江戸が最期に咲かせたささやかな玉砕の2輪の華でしょう。しかし著者がこの本で精細に描いているのは、その彰義隊本体ではなくて、彼…

カルロ・リッツイ指揮ウイーンフィルで「椿姫」を視聴して

♪音楽千夜一夜第85回これは05年8月7日にザルツブルク祝祭大劇場で行われたヴェルディの「椿姫」の公演録画ですが、新星ビオレッタ役のアンナ・ネトレプコの容姿と演技と歌唱に終始魅了されました。この人はモデル並みのスタイルと美脚の持ち主であり、…

ケント・ナガノ指揮ベルリン・ドイツ響「パルシファル」を視聴して

♪音楽千夜一夜第84回04年8月にバーデンバーデン祝祭劇場で行われたライブの映像です。ケント・ナガノという人の指揮を私はまったく評価していませんでしたが、このワーグナーではさしたる破綻も見せず、最後までなんとか無難に振っていたので驚きました…

スピルバーグ監督「宇宙戦争」を見る

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.13 オーソン・ウエルズがラジオ番組にして全米をあっと驚かせた英国の作家H.G.ウエルズの原作をスピルバーグが映画化しました。雷鳴が轟きわたる黒い空から突然襲来してくる凶悪な宇宙人たち。思いもかけず彼らは天体…

ジョージ・キューカー監督「恋をしましょう」を見る

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.12まずタイトルが単純明快でよろしい。なんたってLe t's make loveですぞ。次にマリロンモンローが単細胞で超可愛いところがよろしい。3番目は、モンローに恋したイブモンタンが彼女の歓心を買おうと歌をビング・ク…

吉村昭著「天狗争乱」を読んで

照る日曇る日第294回水戸天狗党が尊王攘夷の実行を求めて筑波山に集結したのは明治維新まであと5年足らずに迫った元治元年3月のことでした。過激な尊王攘夷論者である藤田小四郎が、水戸藩町奉行田丸稲之衛門を大将に仰ぎ、63名の同志とともに決起し…

アーサー・ペン監督「俺たちに明日はない」を見て

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol.11どうして原題の「ボニーとクライド」が「俺たちに明日はない」に変身したのかわかりませんが、アメリカ30年代の大不況期に銀行強盗を繰り返した若い2人が主人公の悪漢映画という名の恋愛映画であります。冒頭、…