蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2011-09-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2011年長月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第98回 隣家で鳴く鳩時計で目覚める午睡かな狼にロ短調ソナタ弾く少女かな淳作と直筆サイン入りの団扇で涼をとるミチアンナイに案内されて登る坂わが泉ひとつ涸れたる白露かな蟷螂に喰われながら鳴く油蝉死に場所を選ばぬ蝉の潔さ晩節を全う…

9月の終わりの風吹けば

ある晴れた日に 第97回 9月の終わりの風吹けば チョンザイチョンザイオイーフービー 人世毎日ドデスカデン川の上には風がある 風の上には山がある 山の上には空があるチョンザイチョンザイオイーフービー 人世毎日ドデスカデン空の上には雲がある 雲の上に…

アイザック・スターンの「ベートーヴェン選集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第222回スターンのヴァイオリンはいつも明朗闊達でメロディをよく歌わせるが、時折音程に不安があり、ピアノやチエロとのハーモニーに無神経なところも散見するのは、彼に私淑した徳永二男にちょっと似ている。また芸格は超一流とはいえないが…

ジョージ・セルの「ハイドン交響曲選集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第221回 ジョージ・セルはナチスから逃れてジョージョ君などと英語で呼ばれるようになったが、同じハンカリー人のゲオルク・ショルティの姓と同じ綴りなのでゲオルク・セル選手と呼んでもよろしいのでせう。しかしこのジョージョの練習はトス…

四方田犬彦著「ゴダールと女たち」を読んで

照る日曇る日第456回「女は俺の成熟する場所だった」という、ここに記すだに気恥ずかしい小林秀雄の顰にならって、このたび著者が用意したのは、希代の気狂い監督ゴダールの変貌常ならぬ思想と映像哲学を、もっとも分かりやすい物差しをあてがってぶった切ろ…

ドイッチエ・グラモフォンの「ザ・リスト・コレクション」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第220回リストのピアノ曲、オーケストラ曲、協奏曲、合唱曲、歌曲の代表作をえりすぐった34枚組のCDセットです。例によって1枚200円という超バジェット価格に目がくらんで買ってしまった「誰も聴かない大作曲家」の音楽ですが、買って…

青柳いづみこ著「グレン・グールド」を読んで

照る日曇る日第455回グールドといえばバッハのゴルトベルク変奏曲だが、彼を世界的に有名にした1955年の録音は我が国でも吉田秀和氏のみのすぐれた聴力によって正しく評価されたわけだが、その前年の録音ではグールドはまったく別の解釈で同曲を演奏して…

ジュゼッペ・シノーポリの「マーラー交響曲全集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第219回この人はいかにもインテリの音楽をやったヴェネツイア生まれのマエストロでありました。ここでは1番から未完の10番までの交響曲に加えて「大地の歌」や「亡き子をしのぶ歌」など歌曲の代表作までマーラーの管弦楽曲を手兵フィルハー…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第20回

bowyow megalomania theater vol.1 くそ! それにしてもどうして僕とじゃなくて、あいつとなんだ! くそっつ、のぶいっちゃんめ! あいつだ。あいつが悪いんだ!そうか、洋子が悪いんじゃない。のぶいちが、のぶいちのやつが洋子をそそのかして、だまくらか…

トマス・ピンチョン著「競売ナンバー49の叫び」を読んで

照る日曇る日第454回佐藤良明の懇切丁寧な翻訳と注解に導かれて、今回はかろうじて最後まで読みおせたが、いったいこれは何なんだ。熟れた人妻がサンフランシスコの黄昏をダシール・ハメットの探偵小説の主人公のようにさまよい始めるが、その彷徨はセリーヌ…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第19回

bowyow megalomania theater vol.1 12月8日 曇昨日から洋子のやつは、のぶいっちゃんをやけに親切にします。 みだりに笑いかけたり、手を握り合って浜辺を散歩したりしています。のぶいっちゃんはそんな洋子の髪の毛にちょっと口で触れて匂いをクンクン犬…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第18回

bowyow megalomania theater vol.1 いままで洋子も、死んだ文枝もただの女の子で、ただの友達で、特別の感情は全然抱いたことはなかったのに、どうして僕ちゃんは突然こんな訳の分からん気持ちにはまりこんでしまったのでしょうか?ああ、たまらない、たまら…

溝口健二監督の「雨月物語」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.147上田秋成の原作をこの映画のために自在に企画・脚色した辻久一、川口松太郎、依田義賢、そして夢か現か幻かという映画世界を見事に具現化した美術、照明、撮影、音楽スタッフ、最後にヒロイン京マチ子の妖艶な美し…

夏の死

バガテルop143&♪音楽千夜一夜 第218回 行き合いの空には入道雲、九月よ永遠に続けとばかりここを先途と泣き叫ぶ油、ミンミン、つくつく法師、そして夜はぽっかりお月さまと、なかなか秋になりそうでならないこの季節が好きである。これで仕事にありつければ…

ウイリアム・ワイラー監督の「大いなる西部」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.146 この映画のことを初めて知ったのは1958年の秋か冬で、お隣の火星社書店の店頭に並んでいた研究社の「英語青年」を立ち読みしていたときだった。東部からやって来た船乗りのグレゴリー・ペックが清潔可憐なジー…

相米慎二監督「セーラー服と機関銃」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1452001年に53歳で早世したこの四トロ出身の映画監督にはもっと多くの作品のメガホンをとってもらいたかった。私は彼が一流の映画監督だとはさらさら思わないが、「台風クラブ」「魚影の群れ」などに顕著な映像…

ジュシュア・ローガン監督の「バス停留所」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.144 1956年に製作されたマリリン・モンローが出演しているのに、じつにつまらないハリウッド映画。その前の年にはビリー・ワイルダーが「七年目の浮気」で彼女のもつコケットリーを上手に取り出したというのになんとい…

東博の「空海と密教美術展」を見物して

茫洋物見遊山記第63回国宝・重文率98.9%という惹句につられてはるばる上野の森に出かけてはみたものの、猛烈な暑さと人の波で早々に退散。曼荼羅のパワーを浴びてくたびれ果てた心身が甦るどころか、もう少しで卒倒するところだった。だいたい私は仏教に興…

ヴィンセント・ミネリ監督の「巴里のアメリカ人」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1431951年にジュディ・ガーランドの夫でありライザ・ミネリの父親である男が撮り上げたミュージカル映画の傑作、というのが言い過ぎならば名作のひとつ。雨に唄えばのジーン・ケリーがみずから発掘した初々しいレスリ…

町田康著「残響」を読んで

照る日曇る日第453回夭折の天才詩人、中原中也に詩にことよせてパンク音楽文芸家が短いコントを添付している書物だ。その安直な発想と投げやりな編集のあり方に激怒したおらっちは、思わず本書を虫干し中のCDだらけの狭い書斎に投げ出そうとしたが、待て待…

前田和男著「紫雲の人、渡辺海旭」を読んで

照る日曇る日第452回 著述、翻訳、編集、プロデュースと八面六臂の大活躍を持続する著者の最新作が「壷中に月を求めて」と副題されたなんと526頁という浩瀚の書です。渡辺海旭は明治5年1872年に浅草田原町の蛇骨長屋に生を享けた貧民の子でしたが、…

西川誠著「明治天皇の大日本帝国」を読んで

照る日曇る日第451回 講談社の天皇の歴史第7巻がいよいよ幕末を経て明治に突入しました。一身にして二生を経た父孝明天皇と同様、明治帝もまた朝廷の奥に巣食う繁文縟礼と神人一体祭政一致の魑魅魍魎の混沌に浮沈しながら、薩長の指導者、元老の補弼に導か…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第17回

bowyow megalomania theater vol.1 僕は涙が流れていましたが、どうして涙が出てくるのか分かりませんでした。あの可愛らしい洋子を一人占めしたい。朝から晩まで自分のものにしたい。のぶいっちゃんなんかに絶対にわたしたくない。口もきいてほしくない……。…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第16回

bowyow megalomania theater vol.1 昨夜のあんな気持ちの良いことを、洋子は僕とだけではなく、のぶいっちゃんともやったのだ。僕はたった1回しかやっていないのに、のぶいっちゃんとはもっともっと前から、何回も何回もやっていたのだ、と考えると、そう考…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第15回

bowyow megalomania theater vol.1 12月7日 晴見よ、東海の空明けて、あさき夢見し、酔いもせすん……ぶどう色の朝やけを見ながら、僕はこの世に生まれてもっとも幸福な朝を迎えました。太陽が空高く昇りきった頃、のぶいっちゃんはようやく戻ってきました…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第14回

bowyow megalomania theater vol.1 そしたらおちんちんが次第にかたくとんがってきたのに洋子が気がついて、それを手でつかんでどこかとてもやわらかくてひんやりしたところへ入れてくれたので、僕は思わずいい気持になって、ああ、いい気持ちだ、いい気持ち…

クラウス・テンシュタット指揮の「EMI盤偉大なる録音集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第217回 ロンドン・フィルとの相性が抜群であった旧東ドイツ出身の指揮者テンシュタットをしのぶ超バジェット価格による名演集。ベートーヴェンの3番、6番、8番、ブラームスの1番、ブルックナーの4番と8番、その他ベルリンフィルとのワー…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第13回

bowyow megalomania theater vol.1 洋子はいつまでも泣きやまずにいる僕を、そっと抱きしめてくれました。頬ずりしてくれました。キスをしてくれました。のぶいっちゃんに「あっちへ行け」と言ってくれました。のぶいっちゃんがふてくされてどこかへ行ってし…

梟が鳴く森で 第3部さすらい 第12回

bowyow megalomania theater vol.1 「洋子って君の女なの?」と聞くと、のぶいっちゃんは、「あったりメエよ。とっくの昔からおれの女よ。おれの言うことは何でも聞く、何でもするんだぞお」といばっているので、洋子に向かって、「ほんとうに洋子はのぶいっ…

アルゲリッチの「EMI盤室内楽集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第216回 この節はソニーにならってEMIも続々激安CDを投入してくれるのでうれしい。これはマルタ・アルゲリッチをフユーチャーしたベートーヴェン、フランク、ショパン、シューマン、ハイドン、メンデルスゾーンなどの室内楽8枚組で、1枚わ…