蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ヴィンセント・ミネリ監督の「巴里のアメリカ人」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.143

1951年にジュディ・ガーランドの夫でありライザ・ミネリの父親である男が撮り上げたミュージカル映画の傑作、というのが言い過ぎならば名作のひとつ。雨に唄えばのジーン・ケリーがみずから発掘した初々しいレスリー・キャロン嬢をリードして見事なダンス・メドレーをガーシュインの劇伴に乗って延々と繰り広げる後半最後のシーンがことのほか素晴らしい。

ジーン・ケリーって歌や踊りも上手だが、この人の顔容を見ているとおのずと暗い心が明るくなってくるのが得難い人(にん)。いっぽうレスリー・キャロンは踊りもいいが、なんといっても名前が良い。こんなに姓と名が調和した人は横通り在住の香取草之助選手くらいのもんだろう。

結局この相思相愛のお二人が結ばれてハッピーエンドになるのだが、パリ在住のアメリカ人絵描きに入れ上げた美しいパトロン、ニナ・フォックはその後どうなったのだろう。可哀想かつ心配。

芸術の首都巴里で無名作家の個展をやってくれるスポンサーなんて、世界中探してもいないと思うのだが、その美貌のセレブを袖にするなんて、お前は到底まともな絵描きたあ言えないな。

恋を取るか芸術を取るか、の二者択一において、あまっちろいラブを選んでしまうなんて、甘すぎるぜベービー!



可哀想だた惚れたってことで悲しいってこたあ死にたいってことよ 蝶人