蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-01-01から1年間の記事一覧

西暦2012年師走 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第119回 十二月八日を吹くや猛き風一枚の落ち葉となりて犬踊る 一陣の疾風となりて犬走るバーキンの頬柔らかしクリスマス冬晴れや死票投じる総選挙世の中はいかになるらん冬の朝冬北斗一票の重さ比類なし孤老死す皇帝ダリア植え終えて凩や…

「古井由吉自撰作品三」を読んで

照る日曇る日第557回本巻に収められたのは一九七九年刊行の「栖」と八〇年の「椋鳥」の長編二作である。長編というてもそのおのおのが六から八つの短編小説から成り立っていて、ある意味ではそれぞれが独立した小説世界を構築していると評してもよろしい。結…

ビャンバスレン・ダバー監督の「天空の草原のナンサ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.371ワカメ「「モンゴルの女性監督が母国の実在の家族を起用してその日常を描いたドイツ映画です。」マスオ「大草原で羊の放牧をやっている一家の貧しいながらも楽しいパオの中での暮らしぶりが私たちの心を洗う。映画…

林瑞絵著「パリの子育て・親育て」を読んで

照る日曇る日第556回パリで妊娠、出産した女性のひたむきな育児奮闘記さきに「フランス映画どこへ行く」で私(たち)が全然しらなかったおふらんす国の映像産業の実態についてビシバシ蒙を啓いてくれた著者が一転してレポートするのは、なんとご本人の子育て…

五味文彦編・現代語訳「吾妻鏡12」を読んで

照る日曇る日第555回 &鎌倉ちょっと不思議な物語第270回 本巻では鎌倉御家人の最強であったはずの三浦氏一族が武装蜂起したにもかかわらず哀れ北条一門の軍門に降る。寛元5年・宝治元年1247年の宝治合戦である。「吾妻鏡」では御霊神社付近に拠点があ…

ビクトル・エリセ監督の「エル・スール」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.370娘と父と母。フランコ独裁体制は去ったが、精神的には「ミツバチのささやき」の孤独な魂の世界をそのまま引きずっている映画です。イレーネ・リオスという女優に心を奪われた父は愛する妻子を投げ捨ててとうとう自…

ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.369怪物フランケンシュタインは果たしていとけない少女を殺めたのだろうか? スペインの寒村にやってきた1931年製作の映画でそんな疑問を懐いた少女アナの心の旅路を辿る映画である。みつばちの栽培と研究に朝まで…

鎌倉小町通りの鏑木清方記念美術館で「正月の風情展」を見る

茫洋物見遊山記第98回 &鎌倉ちょっと不思議な物語第269回全国の闘う学友諸君、そしてルンペン・プロレタリアートのみなさん、メリー?マス! いよいよ押し詰まって参りましたね。今年は長年お世話になって来たクライアントからの発注が突然止まり、ヒジョウ…

岡松和夫著「少年飛行兵の絵」を読んで

照る日曇る日第554回「世上乱逆追討耳に満つと雖も、之を注せず、紅旗征戎吾が事にあらず」という白居易の言葉をかみしめながらこういう本を読んでいると、いつの世も人の暮らしと心は変わらないよと亡き著者がそっと呟くのを耳にしたようで、乱れたこころが…

ワーナー版「バッハ大全集」を聴き終えて

♪音楽千夜一夜 第290回 153枚のCDに1枚のD?Dがおまけについた定評あるバッハの全作品を半年がかりでようやく聴き終えました。 全体のおよそ半分がカンタータで占められていて、そのほとんどをアーノンクール指揮のウィーン・コンツェントス・ムジク…

木下恵介監督の「カルメン故郷に帰る」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.368サザエ「浅間山の白い噴煙がたなびく北軽井沢の高原に戻って来たレビューの踊り子高峰秀子が、仲間の小林トシ子とともに繰り広げるコメディ以前の醜悪なドタバタコメディね」マスオ「演出も脚本も劣悪なら、木下&…

ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の「望郷」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.367舞台は所も同じアルジェのカスバ。主人公は訳ありの異邦人。そこへ突然訪れた謎のファム・ファタール。そして待っているのははかない別れ。どことなくかの「カサブランカ」に似ているが、ここでどんと存在感を示し…

市川昆監督の「四十七人の刺客」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.366池宮彰一郎の原作を読んだことがないのでなんとも言えないが、今までの赤穂浪士余話とはずいぶん違った内容で、首をかしげる箇所も多かった。たとえばあの謹厳な大石内蔵助があんな軽佻浮薄な京女にうかれてにわか…

レオン・フライシャー&セルのピアノ協奏曲集を聴いて

♪音楽千夜一夜 第289回 フライシャーは長年に亘る腕の故障が癒えて後はさらに一層素晴らしいピアノを聴かせるようになったが、1950年代後半から60年代にかけて録音されたこの5枚組のベートーヴェンとブラームスの協奏曲でも、初夏の午後の青空のよう…

リチャード・ブルックス監督の「弾丸を噛め」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.365「弾丸を噛め」というのはいい題名だなと思って、原題を調べてみたらまったく同じ意味の英語Bite the bulletだった。ちょっと奇妙な西部劇で、莫大な賞金を目当てに駆けつけたカウボーイや英国人やメキシコ人などが…

岡松和夫著「実朝私記抄」を読んで

照る日曇る日第553回私が住んでいる鎌倉の小邑には二人の有名人が住んでいた。一人は日本画家の小泉淳作氏、もう一人は芥川賞作家の岡松和夫氏であったが残念ながらお二人とも本年一月に相次いで逝去された。本書はその岡松氏が綴られた鎌倉幕府の第三代将軍…

勝長寿院入口の「文覚上人屋敷跡」を訪ねて

茫洋物見遊山記第97回 & 鎌倉ちょっと不思議な物語第267回文覚上人(1139-1203)の鎌倉の屋敷跡は、滑川に面した勝長寿院(大御堂)の入り口にあった。彼は平安末期から鎌倉時代初期の真言宗の僧で、元は遠藤盛遠という俗名の北面の武士だった。芥川龍之介…

鄙びたる軍楽の憶ひ〜“自民大勝”の後に来るもの

バガテルop161いよいよ運命の日が近づいてきた。昔から政治や政治家が嫌いで極端な変化を嫌う私は、今回もどこに入れようかと迷っている。そんな混迷派の私が愚かにも政変を期待して清き一票を投じた元逗子市長の長島選手は、選挙民への挨拶もなく、義理も果…

小栗康平監督の「泥の河」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.364泥の河を挟んだ廓船と食堂に住む人々、とりわけ3人の少年少女の出会いと別れを描いた日本映画の傑作である。冒頭の馬車曳きの死、橋の下に蠢く大魚、引き続き描かれる水の人と陸の人とのつかのまの友愛の姿は儚く…

今村昌平監督の「豚と軍艦」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.363この映画でいちばん驚いたのは、生命力あふれる長門裕之の演技でもなく映画初出演の吉村実子の新鮮な肉体でもなく、ましてやどぶ板通り狭しと荒れ狂う豚共の大暴走でもなく、胃がんで余命三日と通告された丹波哲郎…

ジョン・シュレシンジャー監督の「遥か群衆を離れて」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.363サザエ「一九六七年製作の素晴らしい英国映画。トーマス・ハーディの原作を名匠シュレシンジャー監督が見事な映画に仕立てましたね。カツオ「人ひとり見えない英国エセックスの荒野に放牧されている羊と牧羊犬。意…

岡本喜八監督の「独立愚連隊」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.361私にとってまっとうな戦争映画とは小林監督の人間の条件や極東裁判などであるが、この映画ではわが帝国の中国侵略戦争が、面白おかしい見世物であり一種の活劇と化している。満州に潜入した主役の佐藤允が、謎の「…

森まゆみ著「千駄木の漱石」を読んで

照る日曇る日第552回漱石が49歳の若さで亡くなって1世紀近くの歳月が流れたが、しかし今でも嘗て彼が住んでいた千駄ヶ谷や早稲田の旧居跡を訪ねると、なにがなしに文豪在りし日の面影の断片がどこかに漂っているように感じられるのは奇特(どく)というか…

ジョン・フォード監督の「バッファロー大隊」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.360のび太 巨匠による一大「法廷」サスペンス西部劇だぞお!スネ夫 騎兵隊に黒人がいたなんて知らなかったな。元は奴隷の身分だった黒人を南北戦争の後で軍人にしたんだそうだ。それなのに白人よりも勇敢な兵隊がいた…

ジョン・フォード監督の「リオ・グランデの砦」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.359お馴染みの騎兵隊長のジョンウエインが息子との「父子鷹」を見せてくれるが、その妻であり母親役でもあるモーリン・オハラがじつに美しい。おそらくジョン・フォードは、彼女を手を変え品を変え奇麗に撮るためにこ…

伊丹十三監督の「お葬式」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.358きのう歌舞伎役者の中村勘三郎さんが57歳で亡くなられた。惜しみてもあまりある才能の持ち主の突然の訃報に言葉もない。本当に人の命は明日をも知れないとまたしても思い知らされたが、謹んでご冥福をお祈りした…

ヘンリー・ハサウェイ、ジョン・フォード、ジョージ・マーシャル監督

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.357先住民時代から南北戦争の混乱を経て現代に至るまでのアメリカの西部開拓史をある開拓家族3世代の歴史をつうじて、3人の監督が全5部構成で演出している。ファミリーのエピソードを追いながらアメリカの歴史を回…

マーティン・キャンベル監督の「バーティカル・リミット」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.356「バーティカル・リミット」とは無酸素登頂時の高度的限界を示す用語で、ある地点を超えると高山病による肺水腫で死に至る。原題通りの邦題は珍しいがそれでいいのである。2000年に米国で製作された山岳映画で…

豊田四郎監督の「夫婦善哉」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.355こないだ亡くなった淡島千影がもっと昔に亡くなった森繁久弥と組んで演じる大阪浪速の夫婦善哉。苦労と涙と儚い望がちょちょ切れる正統的な日本映画ですわ。偉いこっちゃ。主役のヒロイン、ヒーローがいい味を出し…

ウォルフガング・ペーターゼン監督の「ネバー・エンディング・ストー

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.354「夢見る力」が衰えると現実にボロボロと穴が空いて「虚無」が忍び込み、世界を荒廃させるという原作者のミヒャエル・エンデの思想を元にして、潜水艦物の得意なペーターゼン監督が勝手に映画にしたものである。 巨…