蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2009年霜月茫洋歌日誌

♪ある晴れた日に 第68回 風に縋れ食草求む黄蝶かな上野介の首が落ちたるさざれ石晴朗な魂の頬笑みを隠す黒き雲霧の奥から現れ出たるは永遠弦と弦つま弾くギターのおぞましきテレビ見つつ頷く妻の好ましや電話しつつお辞儀する妻の好ましや仁義なき花盗人を…

軍服の国産について

バガテルop115&ふぁっちょん幻論第53回昨日だか一昨日だかの新聞の短信で、鳩山内閣の北沢防衛大臣が、「軍服を外国から調達しているような国はない」と文句を言っていたようです。うろ覚えで申し訳ないのですが、例の仕分け人たちが、防衛予算のうち…

花盗人

バガテルop115青白い花が近所の草むらに咲いていました。とても珍しい可憐な花です。私が写真を撮っていると、通りがかりのハイカーも数人立ち止まり、「トリカブトに似ていますね」 「いや、あれは夏の花だからね」 「それでは、いったい何の花でしょう…

ある思い出

遥かな昔、遠い所で 第86回 久しぶりに大学生の次男が帰宅して家族四人で食卓を囲んだ。生まれた時から障碍のある長男のKが「Kちゃん、いい子? Kちゃん、いい子?」と何回も聞く。この問いかけにうんうんと肯定してやると、彼は深く安心するのである。…

梟が鳴く森で 第6回

9月18日何? 岳君? 何? 岳君? 用事が無いのに、ちゃんと、座りなさい。と、吉田先生が仰言いました。 指、差さないの。ね、岳君。御喋り、しない。知らない。バイバイ、と、川島先生が仰言いました。 稔、おしっこ、しちゃ、駄目。おしっこ、したら。…

中島みゆきの最新シングル「愛だけを残せ」は素晴らしい。

バガテルop115&♪音楽千夜一夜第96回 私はこれまで心身共に落ち込んだとき、モントー指揮ロンドン響ベートーヴェン交響曲第4番第1楽章の出だしのところと、この中島選手の「ファイト」によってどれだけ救われたか分からないが、この度の「愛だけを残…

梟が鳴く森で 第5回

9月14日 空き缶投げ捨ては、止めましょう。9月15日 雨 渋谷、代官山、中目黒、祐天寺、都立大学、自由ケ丘、田園調布、多摩川園、新丸子、武蔵小杉、元住吉、日吉、綱島、大倉山、菊名、妙蓮寺、白楽、東白楽、反町、横浜、高島町、桜木町、お父さん、…

メルビッシュ音楽祭のレハール喜歌劇「ルクセンブルク伯爵」を視聴す

♪音楽千夜一夜第95回これは06年8月1日にオーストリアのイジートラー湖に面する巨大な野外劇場で行われたメルビッシュ音楽祭の公演です。指揮は日本でもおなじみのルドルフ・ビーグル爺。あとは私の知らない人ばかりの出演ですが、いずれも歌って踊れる…

山中貞雄監督「河内山宗俊」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.20これも夭折した山中の時代劇映画です。遺作の「人情紙風船」で心中する、いな妻に無理心中されてしまう忍従型の武士をやった河原崎長十郎が茶坊主の主役を、やくざな髪結い役の中村翫右衛門が浪人をあいつとめこのご…

ウイリアム・ワイラー監督「ローマの休日」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.19私のいちばん好きな映画は、やっぱりこれ。「ローマの休日」なのです。二度と帰らぬ男と女の青春の輝き、ローマのスペイン広場、コロッセオ、サンタンジェロ城、コロンナ宮殿、疾走するヴェスパとフィアット。老獪…

鎌倉文学館特別展を見る

茫洋物見遊山記第6回&鎌倉ちょっと不思議な物語第208回 特別展「鎌倉からの手紙、鎌倉への手紙」を見に行きましたら、いろんな作家のいろんな手書きが並んでいて面白かったのです。まず漱石は避暑地鎌倉から娘筆子へのやさしい葉書です。漱石の親友正岡…

ジョン・ウー監督「M:I−2」を見ながら

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.18 トム・クルーズ主演の「ミッション・インポシブル」の第2弾ですが、ちゃんとそのように表示しろ。原題は「MISSION:IMPOSSIBLE2」なのに「M:1=2」なんて判じ物じゃ。身内だけで通用している…

ニコラ・ルイゾッティ指揮・東響「ドン・ジョヴァンニ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第94回 今年の4月5日にサントリーホールで行われたライブが収録されたビデオを鑑賞しました。 前回の「フィガロの結婚」の演奏の時にも感じたことですが、この指揮者にはイタリアの田舎を吹いているそよ風を感じます。モーツアルトを考えす…

横須賀ところどころ 第3回

茫洋物見遊山記 第5回 ところでヴェルニー記念館の当時28歳のヴェルニーを起用して横須賀に製鉄と造船所を作ったのは、幕府の陸軍と海軍の奉行並を兼務していた、つまりは軍のトップであった小栗上野介(忠順)でした。小栗上野介は明治政府の近代化政策…

梟が鳴く森で 第4回

9月11日岳君、定期、ちゃんと、見せなさいよ。 分かった。見せた? 居た。分かった。分かった。岳君、御母さんに、言って、貰いなさい。 分かった。分かった。分かった。分かった。分かった。ちゃんと、待って、居るんだよ。 分かった。分かった。分かっ…

キシュ著「庭、灰」カルヴィーノ著「見えない都市」を読んで

照る日曇る日第310回これは池澤夏樹編集による河出書房新社の世界文学全集の1冊です。ユーゴスラビアのキシュが書いたのは現実と幻想がごった煮になった父親の思い出とそれに付随するビルダングスロマン。ユダヤ人の父親はアウシュビッツで帰らぬ人とな…

山中貞雄監督「人情紙風船」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.17わずか28歳で若い命を中国戦線に散らした山中の最後の作品です。タイトルどおりの江戸時代の長屋もので、ちょっとくだけた落語調で住人の首つり自殺騒ぎを語り始める導入部はなにやら職人肌の超ベテランの仕事のよ…

吉村昭著「吉村昭歴史小説集成5」を読んで

照る日曇る日第309回この巻に収められたのは「大黒屋光太夫」と「アメリカ彦蔵」の2つの作品で、いずれも江戸時代に海難事故で遭難した水夫の波乱万丈の生涯の物語です。天明2年1782年、伊勢国白子浦を15名の仲間とともに江戸に向かった沖船頭大黒…

横須賀ところどころ 第2回

茫洋物見遊山記 第4回ヴェルニー記念館の見どころは、巨大なスチームハンマーです。慶応元年1865年に製造されその翌年にオランダから輸入されたこの横須賀製鉄所備え付けの工作機械は、蒸気(スチーム)を動力としてハンマー(鎚)を持ち上げてこれを落…

横須賀ところどころ 第1回

茫洋物見遊山記 第3回横須賀駅のすぐそばにあるのがヴェルニー記念館というちょっと変わった建物です。 ヴェルニーは幕末にフランスから招かれたお雇い外国人の一人ですが、この地に横須賀製鉄所(造船所)を建設しわが国の近代化に大きく貢献した彼の功績…

梟が鳴く森で 第3回

9月8日 曇のち雨山手線の話。 前の山手線は、旧型です。旧型は、黄緑の電車です。旧型と、新型が、両方、走って、居ました。新型丈、走って居ます。9月9日 山手線の話。つづき。 前の山手線は、旧型で、電車は、黄緑です。旧型と、新型は、両方走って、…

ベローナ野外劇場ポンキエリの「ジョコンダ」を視聴する

♪音楽千夜一夜第93回これは05年6月17日にイタリアベローナの野外劇場で行われた公演のライブです。老練ドナート・レンゼッチィ率いるベローナの管弦楽団が「時の踊り」で有名なこのオペラを好演しました。演出と衣装はこれもベテランのピエール・ルイ…

「第94回鎌倉交響楽団定期演奏会」を聴いて

♪音楽千夜一夜第92回&鎌倉ちょっと不思議な物語第207回土曜2時からのマチネーでした。冒頭楽団長よりこのオーケストラの名誉団長、日比谷平一郎氏が1昨日92歳で逝去されたとの報告がなされ、コンサートに先立ってバッハのアリアが粛々と奏されまし…

小西甚一著 日本文藝史別巻「日本文学原論」を読んで

照る日曇る日第308回理数系の学問と違って、私たちが日本文学を研究する際に、「何を対象にして、どのようにその研究を進めるのか」という問題はなかなかに難しく、明治以来幾星霜を経たわが国の国文学界においても、いまだに明確にされていないといって…

コーリン・デービス指揮コベントガーデン王立歌劇場管で「魔笛」を視

♪音楽千夜一夜第91回03年2月1日のライブですが、モーツアルトに定評のある指揮者なので安心して聞いていられます。演出はオオソドクスな手法が好ましいラビット・マクヴィカー。パミーナのドロテア・ルシュマン、タミーノのウイル・ハルトマン、パパゲ…

イヴァン・フィッシャー指揮ジ・エイジ・オブ・インライトメント管で

♪音楽千夜一夜第90回06年6月にロンドン郊外のグライドボーン音楽祭で行われたモーツアルトの生誕記念演奏です。指揮はハンガリー出身のイヴァン・フィッシャー。この人のお兄さんのアダム・フィッシャーは、私がドラティのと並んで高く評価するハイドン…

梟が鳴く森で 第2回

9月5日中学生の時の時間割 月 火 水 木 金 土1 音楽 音楽 音楽 音楽 音楽 音楽2国語 技術家庭 数学 技家 国語 数学3体育 技家 養訓 技家 体育 生活個別4体育 技家 養訓 技家 体育5生活個別 技家 生活個別 技家 クラブ6 生活個別 生活個別 9月6日 停止信…

第106回横須賀交響楽団定期演奏会を聴いて

♪音楽千夜一夜第89回まずはシューベルトの「未完成」、次にワーグナーのタンホイザー序曲、最後にブラームスの第3番へ長調の交響曲というラインアップに惹かれて宵闇迫る横須賀までやってきました。 相変わらずオーケストラは好調を維持し、へぼでダルな…

夫馬基彦著「オキナワ 大神の声」を読んで 後篇

照る日曇る日第307回 さてせっかくの機会なので著者の驥尾に付して南方問題なぞに贅言を費やしてみたいのですが、本書で取り扱われている「琉球弧」は、往古より中国や日本という大国の不当な干渉を受け、政治的な従属を強いられてきました。そして戦後米…

夫馬基彦著「オキナワ 大神の声」を読んで 前篇

照る日曇る日第306回 20数年前に著者は宮古島・八重山諸島をひとり歩きしてから「琉球弧」と呼ばれる列島の南の島々に強く惹かれ、ここ何年か毎年年始年末にかけて沖縄本島をはじめ喜界島、沖永良部島、与論島、渡嘉敷島、与那国島などを次々に旅して歩…