蝶人戯画録

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メルビッシュ音楽祭のレハール喜歌劇「ルクセンブルク伯爵」を視聴す


♪音楽千夜一夜第95回

これは06年8月1日にオーストリアのイジートラー湖に面する巨大な野外劇場で行われたメルビッシュ音楽祭の公演です。

指揮は日本でもおなじみのルドルフ・ビーグル爺。あとは私の知らない人ばかりの出演ですが、いずれも歌って踊れる器用な歌手揃いと見受けられます。

歌って踊れて演技ができる役者の存在が、オペラからオペレッタを派生させ、それがのちにミュージカルを誕生させたとも考えられますが、レハールの音楽はウイーンの民衆音楽に恩師ドボルザーク譲りの歌謡的なメロデイを加味したポピュラーミュージックとでもいえばよいのでしょうか。ある種の生真面目さと定式通りのお笑いをとってつけた奇妙なアマルガムが、わたしたちをちょっと面白がらせたり、なんだこの音楽は、と軽蔑させたりすることになるわけです。

有名な「メリーウイドオ」の後で書かれた、このパリを舞台にしたどたばた劇「ルクセンブルク伯爵」は、あいかわらず能天気な筋書きでごきげんなばか騒ぎを繰り広げ、いかにもありがちな恋のさやあての後はお決まりのハッピーエンドで終わります。

会場がばかでかいために歌手はみな口元にマイクをつけて歌っていて、それが本物のクラシックやオペラではない喜歌劇というややマイナーなポジションにかえってふさわしいように思えてきますが、まばらな拍手が途絶えてしばらくすると湖上に花火が打ち上げられ、それが一入この興業のわびしさとはかなさを伝え、ここ2カ月発注のないわたしのやるせなさといつまでも共振するのでした。

♪あなうれしCD1万円注文す2カ月ぶりに発注ありし夜