蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-01-01から1年間の記事一覧

「なにゆえに」~ある晴れた日に第189回

西暦2013年師走蝶人花鳥風月狂歌三昧 なにゆえに女性が自動車を運転できないのかサウジアラビアは面妖な国 なにゆえに飛び下りたのか いやもう一つの山へ飛ぼうとしたのだ新宿の女よ なにゆえに少女の歌を聴いて涙が出るの「歌の橋」を過ぎた邊りで なに…

神奈川県立近代美術館鎌倉と鏑木清方記念美術館をみて

茫洋物見遊山記第143回&鎌倉ちょっと不思議な物語第306回 歳末の昼下がりに2つの展覧会を見物しました。 いずれも収蔵展ですが、前者は「光のある場所」、後者は「清方 新春を祝う」というおめでたいタイトルで寂しく陳列しておりました。 前者では2…

角田光代著「私の中の彼女」を読んで

照る日曇る日第645回 角田光代が素晴らしいのはその文章の音楽性で、それは彼女の文章を音読すればただちに分かるだろう(その反対の本邦最悪の文章家は塩野七生。全文語尾がダダ止めの無機的で生硬な文体は、この人物の知性と感性の有りようを図らずも暴…

伊集院静著「ノボさん」を読んで

照る日曇る日第644回 「小説正岡子規と夏目漱石」という副題がついているとおり、生涯にわたって続いた彼ら2人の熱き友情を主題にしたドキュメンタリー的小説で、子規の著作や彼らの往復書簡、キーンの「正岡子規」などの内容をうまく取り入れて、著者な…

夢は第2の人生である 第2回

西暦2013年睦月蝶人酔生夢死幾百夜 33)オフィスではいつも課長と私と部下の3人が同じところに並んでいたのに、ふと気がつくと上司がいない。あたりをきょろきょろ探すと、遥か彼方にたった一人で座っていた。2/1 34)球場では難民救済のためのイベント…

ギロチンの歌

「これでも詩かよ」第54番&ある晴れた日に第188回 ギロチン、ギロチン、シュッ、シュッ、シュッ ギロチン、ギロチン、シュッ、シュッ、シュッ 火つけカツあげ倉破り 殺しに荷抜けに関所抜け これが噂の大泥棒 丹波のてらこのマコちゃんでえ ギロチン、…

すべての言葉は通り過ぎてゆく 第1回

西暦2013年文月蝶人狂言畸語輯 親愛なる全国の学友諸君、メリー・クリスマス! 今日からもうひとつ新シリーズを始めました。ご笑読くださいな。 築30年を超えた安普請の床を歩くと、いたるところでベコベコ凹む。そのうちにズビズビズバズバ踏み抜くの…

夢は第2の人生である 第1回

西暦2013年睦月蝶人酔生夢死幾百夜 今年の1月から夢日記をつけていましたら、いつのまにやらいっぱい在庫がたまったので歳末大放出いたします。ほとんど毎晩見る夢をできるだけ忠実にメモしたものです。 1)最近保守党の党首になった男から、自分のスピ…

川喜多映画記念館で稲垣浩監督の「忠臣蔵 花の巻・雪の巻」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.610&鎌倉ちょっと不思議な物語第305回 なんというても師走だし、それに原節子嬢の最後の出演作品だし、ということで鎌倉小町の川喜多映画記念館に駆けつけましたらぬあんと207分の長丁場で閉口しました。 し…

山本周五郎著「栄花物語」と辻善之助著「田沼時代」を読んで

照る日曇る日第642回&第643回 「栄花物語」は、平安時代の藤原道長一族の栄華を描いた女子の手になる歴史物語であるが、こちらの「栄花物語」は宝暦、明和、安永、天明の30年間にわたる老中「田沼意次の時代」を舞台に、田沼父子と2人の武士を主人…

アリス・マンロー著「木星の月」を読んで 照る日曇る日第641回 ことしのノーベル賞受賞作家による1冊。1982年にカナダで出版されその国の芥川賞ともいうべき総督賞を受賞した本書は、表題作を含む全部で11の短編からなっている。 それらの全部が「レ…

リドリー・スコット監督の「ワールド・オブ・ライ」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.609 原題は「嘘の身体」。中東でテロリスト退治に熱中する米CIAの大活躍を、リドリー・スコットらしく皮肉に、否定的に描く。 それにしても主演のディカプリオは、日本のチンケなテレビCMに出ていた時代に比べる…

リドリー・スコット監督の「グラディエーター」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.608 昔から賢帝を継ぐのは愚帝と相場が決まっていて、あの有名な「自省録」を書いたマルクス・アウレリウスの後継者コモドスの魔手によって、われらが主人公マキシマスは妻子を生きたまま蒸し焼きにされ、剣闘士(…

国家は滅亡する

「これでも詩かよ」第53番&ある晴れた日に第187回 国家は、たとえば「スター・ウォーズ」の帝国軍の巨大ロボットである。 しかし映画と違って、運転席には誰も乗っていない。 無人のロボットがコンピューターで制御された自働律に従って自動的に作動し…

沢木耕太郎著「流星ひとつ」を読んで

照る日曇る日第640回 若き日のノンフィクション作家が、1979年、引退宣言をしたばかりの人気流行歌手藤圭子にインタビューした話題の書物を手に取ってみた。 はじめは頑なな態度を示していた歌手が次第に打ち解け、旭川における食うや喰わずの貧しい…

川喜多映画記念館で成瀬巳喜男監督の「驟雨」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.607 妻の言い分、夫の言い分、どちらにも一理はある。質量と重心が決定的に異なっているのでなかなか調和させることが難しいのだけれど、時間の経過とともに収まるべきところへいつか収まる。そんな昭和の東京梅が…

私は

「これでも詩かよ」第52番&ある晴れた日に第186回 私は一人の人間です。 夢を見ながら生きてます。 朝から晩まで陽に戯れる いろんな雲を見ながら生きてます。 私は一人の人間です。 山から海へとひたすら下る 川の流れを見ながら生きてます。 野の緑…

川喜多映画記念館で成瀬巳喜男監督の「山の音」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.606&鎌倉ちょっと不思議な物語第304回&照る日曇る日第640回 この映画のはじめにいきなり出てくるのが、1954年現在の鎌倉駅東口の京急バスの停留所である。主人公のひとり山村聡はここから「浄妙寺方面…

鎌倉大町の「妙法寺」を訪ねて

茫洋物見遊山記第142回&鎌倉ちょっと不思議な物語第303回 日蓮はおよそ20年にわたって鎌倉に滞在したが、このお寺には彼が初めて開いた法華経の道場があり、彼はこの松葉谷妙法寺の裏山の奥にある小さな庵で富士山を眺めながら修業に励んだ。 私は…

鎌倉大町の「安国論寺」を訪ねて

茫洋物見遊山記第141回&鎌倉ちょっと不思議な物語第302回 建長5年(1253年)に鎌倉に入った日蓮が初めて庵を結んだのがこのお寺で、本堂の向かいにある「日蓮岩屋」と呼ばれる岩窟で彼の有名な「立正安国論」が書かれたそうだ。 しかし私は日蓮も日…

鎌倉大町の「安養院」を訪ねて

「茫洋物見遊山記第140回&鎌倉ちょっと不思議な物語第301回 安養院は躑躅の名所で初夏になると道路に向かって大きく張り出しながら咲き誇って壮観であるが、いまは遅い秋であるから静まり返っている。 この浄土宗のお寺は今から30年以上前に誰かが…

ある晴れた日に

「これでも詩かよ」第51番&ある晴れた日に第185回 ある晴れた日の昼下がり、 「岐れ路」のハム屋さんで買い物をするために、妻と歩いていたら、 「歌の橋」をちょっと過ぎたところで、 2人の女の子が手をつなぎ、歌をうたいながらこちらへやって来た…

リー・タマホリ監督の「NEXT」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.605 主演のニコラス・ケージがフィリップ・K・デイックの原作「ゴールデン・マン」を映画にしたそうだが、なかなか楽しめるSF映画である。ケージはなぜか身辺で2分後に起こる事件を予測できる超能力を持ってい…

ジョン・アーヴィング著小竹由美子訳「ひとりの体で」下巻を読んで

照る日曇る日第639回 「こうして私はひとりの体で幾人もの人間を演じ、どれにも満足することがない」というシェークスピア「ロチャード2世」の科白が掲げられたこの本は、だから、 ひとりの体の中にいる男や女を見い出し、大いなる苦悩と孤独の中で、そ…

ジョン・アーヴィング著小竹由美子訳「ひとりの体で」上巻を読んで

照る日曇る日第638回&「これでも詩かよ」第51番&ある晴れた日に第185回 私たちは、誰もが秘密を持っている。 他人にはけっして明かせない秘密。 墓場まで持っていきたいような秘密のひとつやふたつを。 私たちは、その私だけの秘密を大事にしよう…

大江健三郎著「晩年様式集」を読んで

照る日曇る日第637回 私はこの作家のきざなタイトルともって回った粘着質のいそぎんちゃく的文体が大嫌いで、昔からほとんど読んでこなかったのですが、「これで最後」と銘うたれた前作の「水死」が、それこそ想定外の、途方もない、かつまたまぎれもない…

ロバート・アルドリッチ監督の「ヴェラクルス」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.604 ゲーリー・クーパーとバート・ランカスター、どっちが強いか? そりゃあ見かけは後者だが最後に勝つのはクーパーに決まっとるじゃないかと思って眺めているとやっぱりそうなる。 しかしアルドリッチは、人物造…

愛と友情のメタモルポーセース

「これでも詩かよ」第50番&ある晴れた日に第184回 よしこちゃんと耕君はもうすぐ四〇歳になる養護学校の同級生。 よしこちゃんは数字と漢字がダメだけど、ほかはだいたい健常者と同じ。 耕くんは数字と漢字はちょっぴり強いけど、ほかはあんまりか全然…

西暦2013年鎌倉の秋

「これでも詩かよ」第49番&ある晴れた日に第183回&鎌倉ちょっと不思議な物語第300回 夕方、妻と珍しく喧嘩してしまったので頭を冷やそうと外に出たら、南西の空に大きく明るい星が燦然と輝いていたのでいま話題のラブジョイ彗星かと思ってしばらく…

黒澤明監督の「白痴」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.603 ドストエフスキーの原作をものの見事に換骨奪胎し、全身全霊もて激情と慈愛と憎しみの相克に囚われた主人公たちが札幌の吹雪をさすらう光景は、さながらペテルブルクの街をゆく愛の亡霊かと錯覚するほどである…