蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

アリス・マンロー著「木星の月」を読んで

 

照る日曇る日第641回

 

ことしのノーベル賞受賞作家による1冊。1982年にカナダで出版されその国の芥川賞ともいうべき総督賞を受賞した本書は、表題作を含む全部で11の短編からなっている。

 

それらの全部が「レイバー・デイ・ディナー」や「ターキー・シーズン」(その恐るべき観察力と超絶的リ

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アリズム!)のようにドラマティックで、読んで抜群に面白いかというと、むしろその反対で、文章が明快なプロットに主導されずに野山や街頭に主人公ともどもふとたたずんでいるような趣をたたえるところがあって、そこにこの作家の奥行きの深い人柄と文学世界を垣間見るような気がするのである。

 

「木星の月」は病気の父親を案ずる2人の娘を持つヒロインの孤独な内面を描いているが、父親が手術室に入るまでの緊張と不安に耐えるためにプラネタリュームに入って時間をつぶしたりするくだりは、アニェス・ヴァルダの「5時から7時までのクレオ」を思わせ、そういえばこの短編自体がそのまま映画をみているような映像喚起力を備えていることに改めて驚く。

 

登場人物も背景も自然描写もふくめて、ぜんぶが成熟した女性による大人の内面世界の象徴のように整然と配置されているところが、本書の最大の魅力だろう。

 

 

なにゆえに君5000回瞬きしや恐らくは五輪知事を辞めさせるため 蝶人