蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2008年茫洋霜月歌日記

♪ある晴れた日に 第46回 ありがたやムラサキシジミの深き青残し柿ひとつ残さず喰いにけり亡き人の胸に塞がる菊の花朝比奈の峠に斃れし土竜かな生温し地震来るやうな風が吹くきゃわゆいきゃわゆいとあほばか腐女子絶叫すわれかつて龍宝という名の上司に仕え…

大船フラワーセンターを訪ねる

鎌倉ちょっと不思議な物語第158回大船には神奈川県立の大きな植物園、大船フラワーセンターがある。ここは観賞植物の生産振興と花卉園芸の普及を目的として、昭和37年に神奈川県農業試験場の跡地に開設されたが、大正時代からこの地で改良・育成された1…

特報! 横浜アート&ホームコレクションを見る

照る日曇る日第192回今日と明日の2日間限定で横浜桜木町・みなとみらいの住宅展示場で面白い展覧会が開かれている。積水、住友林業、三菱地所、ダイワハウスなど全部で17の展示棟のなかで、小山登美夫ギャラリー、児玉画廊、東京画廊、南天子画廊など…

玉縄城址

鎌倉ちょっと不思議な物語第156回玉縄城は戦国時代の典型的な山城で、「当国無双の名城」として知られていたが、現在は学校や住宅の造成で昔日の面影はほとんど失われている。 この城の築城と戦歴は以下のごとし。1512年永正9年 北条早雲(伊勢新九…

龍宝寺にて

鎌倉ちょっと不思議な物語第155回鎌倉氏の資料によれば、この曹洞宗のお寺は玉縄城第2代の城主北条綱成が建てた瑞光院がはじまりであったが、1575年天正3年に4代城主氏勝が3代城主の氏繁を弔うためにこの地に移し、氏繁の戒名によって龍宝寺とし…

玉縄首塚周辺

鎌倉ちょっと不思議な物語第154回 さて大船観音の高台を降りた私は、これからこの地域を支配した武将たちの拠点である玉縄城をめざすのだが、その途中の路地に昭和初期の瀟洒な建物を発見した。日本で初めて駅弁をつくった「大船軒」の社員寮である。その…

「大船」考

鎌倉ちょっと不思議な物語第153回ところで「おおふな」という地名は、どこから来ているのだろうか?縄文時代の大船はもちろんその大半が海没していたが、ほんのわずかな高地だけが現在の相模湾の岬を形成しており、そこには縄文人が棲んで魚介を収集して…

大船観音詣

鎌倉ちょっと不思議な物語第152回大船駅の上に聳えている白亜の巨像がこの“くわんのんさま”です。市の資料によれば、1929年昭和4年に永遠平和のために地元有志がその建立に着手し、1934年昭和9年に像の輪郭ができあがたそうです。私のおぼろな…

黒澤明の「どですかでん」を見る

照る日曇る日第191回黒澤の「どですかでん」は昔一度見たきりで、あまり良い印象を受けなかったが、今回は随所に映画を見る楽しみが転がっていた。この映画では、冒頭で頭師選手演ずる障碍少年が登場してドデスカデン、ドデスカデンと架空の電車を走らせ…

小動神社と太宰治

鎌倉ちょっと不思議な物語第151回 私は、まだ腰越界隈を漂流しているのだった。気がつけば、ここは源氏の武将佐々木盛綱ゆかりの小動神社である。私の実家と同じ御紋が甍の上に燦然と輝いている。「鎌倉志」によれば、古来この神社の山の端には海辺へ突き…

雑賀恵子著「エコ・ロゴス」を読む

照る日曇る日第190回 「存在」と「食」をめぐる著者の思考は、時空を超えて軽やかに飛翔しながら私たちを未踏の領域に導いていく。「最初の食欲」では食べるということの本質が解き明かされ、「遥か故郷を離れて」ではカインとアベル以来私たちが殺してき…

満福寺徘徊

鎌倉ちょっと不思議な物語第150回江ノ電の線路をまたいで松の茂った急な階段を見上げると、そこは義経の腰越状で名高い満福寺であった元暦2年1185年、平家を壇ノ浦に滅ぼし鎌倉へ凱旋してきた義経は、この寺に滞在して兄の怒りを解くべく一通の書状…

腰越界隈

鎌倉ちょっと不思議な物語149 腰越は鎌倉の空虚なにぎわいからきっぱりと遠ざかり、山と川と海のすぐそばにへばりついた漁村であるが、時折潮風に吹かれて江ノ電が通りの真ん中を勢いよく走るとき、なにやら嬉しそうな表情を浮かべるのである。ここには昭…

川上弘美著「風花」を読む

照る日曇る日第189回そんじょそこいらのどこにでもいそうな主婦が亭主に浮気されて、それをしおに彼女は自分自身を、夫を、そして世界というものを見つめなおし、自分と自分を含めた全部の世界を取り返そうとする。そういういわば世間でも小説世界でもあ…

マーク・ストランド著・村上春樹訳「犬の人生」を読んで

照る日曇る日第188回著者は一九三四年、カナダのプリンス・エドワード島生まれ。アメリカ現代詩界の代表的存在だそうであるが、彼の初の短編小説集が本書である。当たり前のことであるが、短編はともかく短いから長編と違ってすぐに読めてしまうのがよい…

吾妻鏡第4巻「奥州合戦」を読んで

照る日曇る日第187回 我が国に初めて武家政権を樹ち立てた二品頼朝に対する評価は高いようだが、吾妻鏡を読み進むとこの武士の人間性がだんだん厭になるような気がするのは、後に源家を簒奪した悪辣非道な北条氏がこの歴史書を編纂したからだろう。しかし…

雑賀恵子著「空腹について」を読む

照る日曇る日第186回新進気鋭の科学者にして社会思想家による構想雄大、真率にして繊細、知情兼ね備えた詩人哲学者の清々しいエセーである。「あらゆる人間の営為は、物質の動きによって表現される。 たとえば、愛。触れ合う唇の湿り具合。絡み合う指の温…

佐々木健“Score”展を見る

照る日曇る日第185回曇天を冒して2つの展覧会を見た。ひとつは東京新宿区西落合の「ギャラリー・カウンタック」で今月15日土曜日まで開催されている佐々木健“Score”展である。スコアというからすべて音楽や音符にちなんだコレクションかと思ったのだが…

龍口寺に向かう

鎌倉ちょっと不思議な物語148 江の島には行かずに、今日は龍口寺に向かう。ここは鎌倉時代に日蓮が蒙古来襲の折に北条政権に逆らったために平頼綱(1285年の霜月騒動で御家人筆頭の安達泰盛一族を皆殺しにし、1293年に自害した筆頭御内人)によっ…

江ノ島遠望

鎌倉ちょっと不思議な物語147江の島は、片瀬との間をつながれたり海で切断されたりして長い歳月を送ってきた。明治時代の江の島は、小泉八雲が「日本瞥見記」で記したように、夢のようにのどかな浅葱色の海だった。「江の島の、ちょうど対岸にあたる片瀬…

保坂和志著「小説、世界の奏でる音楽」を読んで

照る日曇る日第184回とりあえずは大仰なタイトルといかにもな表紙の写真に辟易させられるが、本編に入るとこの人独特の小説とも評論ともつかぬ小説に対する思索やら随想がまるで牛の反芻のようにしつこく繰り返され、牛の唾液のように夥しく垂れ流される…

バガテルop73

オバマがマケインを下したというので、抱き合って涙を流している民主党支持者の熱狂を眺めていると、それがそんなにうれしいことなのかよ、と興ざめするとともに大いなる違和感を覚える。かつて手前勝手な自国の利害だけで世界中を振り回し、パックス・アマ…

2つのコント

バガテルop72その1 父子の2人で朝比奈峠を登りながら…父 ではここで問題です。あなたがいちばん好きな人は、つぎの3つのうち、何番でしょう? 1番 お父さん 2番 お母さん 3番 弟息子 (しばらく考えてから)両方ですお。 その2 3人で食事をしながら…息…

水本邦彦著「徳川の国家デザイン」を読んで

照る日曇る日第183回&ふあっちょん幻論第23回 徳川時代の日本は、中国などの海外から生糸、絹織物、砂糖などを輸入し、その見返りとして銀、銅、俵物などを輸出していた。「俵物」とは初めて聞く言葉だが、岩波の広辞苑を引くと、なんと煎り海鼠、乾し鮑…

鎌倉交響楽団の「マーラー5番」を聴く

♪音楽千夜一夜第49回&鎌倉ちょっと不思議な物語146回 秋晴れの土曜日のマチネーで第92回の定期演奏会が開かれ、鎌響がマーラーの嬰ハ短調の交響曲を取り上げました。全5楽章、演奏時間およそ80分の大曲です。こんな難曲をつつがなく終えられるのかと案…