蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

バガテルop73

オバマがマケインを下したというので、抱き合って涙を流している民主党支持者の熱狂を眺めていると、それがそんなにうれしいことなのかよ、と興ざめするとともに大いなる違和感を覚える。

かつて手前勝手な自国の利害だけで世界中を振り回し、パックス・アマリカーナを謳歌していた唯我独尊帝国は、政治的にはイスラム教国や無手勝流北朝鮮との闘争、経済的には中国、ロシアなどBRICsやEU諸国との闘争に一負地にまみれ、あまつさえサブプライム・ローンに端を発する世界金融危機の元凶として聖金曜日にクンドリから致命傷を負ってしまったために、もはや長期的には歴史の花舞台から徐々に退場するほかはないだろう。

いつも陽気なヤンキーたちは、あのように何ヶ月間も「チエンジ!チエンジ!」と馬鹿のひとつ覚えのやうに絶叫していたわけだが、現在のブッシュにできなかったことが、オバマやマケインやヒラリー・クリントンにできるとはとうてい思えないのである。
帝国の沈没はもはや時間の問題となった。

しかしそれではわが最愛のヤマトンチュウ帝国はどうであろうかと一瞥すれば、口先のひんまがった炭焼き炭坑節男が、長らくのお待ちどう。近々ようやっと解散総選挙に打って出るそうな。
それというのも聖なる日蓮上人の非嫡子の末裔たちの悪知恵で、一人あたり二万円也の公金ばらまき作戦を思いついたから。しかも飴玉くれてやる代わりに、三年後にショウヒゼイ取るぜ、とどすの利いただみ声でおしきせがましく駄目を押す。これって脅迫じゃあないの。

おいおいそこの出目金、その金は誰の金だと思っているのだ。国民の血税をエサにして奇跡の衆院逆転勝利返り咲き、返す刀で恐怖の増税たあ、コムロテツヤも真っ青な悪辣詐欺よ。そんな幼稚な手練手管でわれら陛下の忠良なる臣民が騙されると思ったら大間違いだぜ。

(いや、ころっとだまされちゃうのかな?)

おまけに今頃になって旧帝国軍人の生き残りが、フィリピンならぬ市ヶ谷界隈から黒タヌキのように飛び出して、悪いのは米帝だった、日帝はちいとも悪くない。あんときゃ鬼畜米英に強いられて、いやいやアジアに鷹狩りに行ったのだ。南京、上海、満州、韓国、台湾のお友達に無上の幸せを運んでやったのだ。五族協和亜細亜解放ツアーにちょっくら行ってきただけよ。それがあんまり嬉しくて楽しくて、お礼の花束までもらったので、近いうちにまた行きたいな、などとぬかしやがるのだ。

タヌキ親爺は百叩きのうえ市中引き回しのうえ縛り首の刑も受けず、なんと退職金をたんまりもらって浅草の奥山辺りに逃げ込んだそうだが、もしかして市ヶ谷村にはこんなタヌキ親爺がほかにもワンサと棲息しているのではあるまいなあ。



♪市ヶ谷のタヌキ屋敷を訪ぬれば帝国軍人健在なりき 茫洋