蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2012年睦月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第103回 正月や生死の際のひとやすみかのひとの縁の切れ目の年賀状資本主義でもない社会主義でもない公正主義を空想す二晩も塩見洋一の夢を見たり どうしているか塩見君泣け笑え 歌え踊れ 汝幸なる魂よ野薔薇咲く崖下の家に棲みにけり鎌倉の…

黒沢明監督の「生きる」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.194 何回見ても志村喬の公園でのブランコと「♪命短し恋せよ乙女」には涙腺がぐちゃぐちゃになる。ガンに冒され余命数カ月に迫った公務員の胸中を黒沢は見事に劇化し感動的な名画を誕生させた。そこでは映画の主題とテ…

ローラント・ベーア指揮スカラ座の「魔笛」を視聴する

♪音楽千夜一夜 第244回2011年3月といえば大震災の頃だが、ちょうどその頃にミラノで上演されたモーツアルトの遺作オペラの録画を視聴。さすがはスカラ座という清明な音で序曲が始まったので大いに期待しました。さてどういう大蛇が出てくるのかと楽しみ…

ジャック・リヴェット監督の「ランジェ侯爵夫人」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.193ヌーヴェルヴーグの生き残りリヴェットの2007年の最新作をその翌年に37歳の若さで惜しまれつつみまかったギヨーム・ドパルデューが熱演しています。原作はバルザックの短編で、原題は「斧に触れるな」です。…

溝口健二監督の「祇園の姉妹」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1921936年の製作。かなりの部分のフィルムが失われてしまったが鑑賞に差し支えは無い。京の祇園の芸者として生きる2人の姉妹の物語である。梅村蓉子が演ずる姉は倒産して無一文になった木綿問屋の主人の面倒を見…

アンソニー・マン監督の「シマロン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.191珍しやグレン・フォードとマリア・シェルをフーチャーし一風変わった西部劇。1931年版を1960年にリメイクしたものである。開発途上のアメリカ・オクラホマ州などでは「ランズ・ラン」という名の早い者勝ちの…

ダニエル・ハーディング指揮スカラ座のヴェリズモ・オペラ二曲を視聴

♪音楽千夜一夜 第243回2011年1月にミラノ・スカラ座で上演された「カヴァレリア・ルスティカーナ」(マスカーニ)と「道化師」(レオンカヴァルロ)の衛星放送の録画を鑑賞しました。指揮はどちらもダニエル・ハーディング、演出はマリオ・マルトーネと…

ジーン・ケリー&スタンリー・ドーネン監督の「雨に唄えば」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.190 恋する男が降りしきる雨のなかを歌って踊るシーンが有名なこの映画だが、もっと印象的なのは主人公が美脚の持ち主シド・チャリシーと繰り広げる息を呑むようなダンスメドレーの連続シーンで、広大なスタジオ狭しと…

ジーン・ケリー&スタンリー・ドーネン監督の「雨に唄えば」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.190 恋する男が降りしきる雨のなかを歌って踊るシーンが有名なこの映画だが、もっと印象的なのは主人公が美脚の持ち主シド・チャリシーと繰り広げる息を呑むようなダンスメドレーの連続シーンで、広大なスタジオ狭しと…

吉川一義訳プルースト「失われた時を求めて2」を読んで

照る日曇る日第486回はじめはどうということのない女(男)だったが、そのうちに妙に気になり、ある日ある時の四囲の自他の状況の偶発的必然性(後から考えた)の相対的因果関係にからめとられる形で、当該の男と女のいずれかが絶対的恋愛関係の磁場に吸着さ…

フランソワ・トリュフォー監督の「突然炎の如く」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.189久しぶりに見返したがやっぱり素晴らしい作品だ。トリュフォーは映像をスタッカートのように歯切れよく切り刻む。それがシーンごとの意味を切れる寸前に浮かび上がらせ、これを推力にして次のシークエンスへと自然…

マイケル・ケイトン・ジョーンズ監督の「ジャッカル」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.1881997年製作のハリウッド映画です。題名は「ジャッカルの日」をリメイクしたただの「ジャッカル」。その名で呼ばれる物凄い能力を持つ殺し屋が、チエチェンのテログループに大金で雇われて米ロ連合の捜索チーム…

ロジャー・ドナルドソン監督の「カクテル」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.187除隊したあとグレイハウンドに乗って一旗揚げようとニュヨークに乗り込んできたトム・クルーズがお勉強を放棄して人気者バーテンダーになる。ジャマイカで運命の女性に出会ったのだが、運命のいたずらで運に見放さ…

吉川一義訳「失われた時を求めて1」を読んで

照る日曇る日第485回岩波文庫からプルーストの「失われた時を求めて」の全訳が出始めたので読んでみた。第1編「スワン家のほうへ」の第1部「コンブレー」が収められたその第1分冊である。私は以前井上究一郎氏の旧訳でこれを読み、とても面白かった。眠れ…

津村節子著「紅梅」を読んで

照る日曇る日第484回作家である夫吉村昭の発病から死までを、同じ作家である妻が、事実にもとづいた小説にしたもの。舌ガンの治療の途中で膵臓ガンが発見され、その手術が行われた結果膵臓全体と十二指腸、胃の半分を失った夫を懸命に看護する妻の真情が随所…

カン・ジェギュ監督の「シュリ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.186朝鮮半島の緊張が高まる中で北の工作員が南に潜入し、テロ活動を繰り広げる。そしてなんと両国共同開催の世界サッカー戦のさなかに両国首脳を暗殺しようというハチャメチャな話になるのだが、この国家テロルのスリ…

トマス・ピンチョン著「ヴァインランド」を読んで

照る日曇る日第483回マイケル・ティルソン・トマス指揮、サンフランシスコ交響楽団演奏会のFM放送を聴きながらこの駄文を書いているところ。ヘンリー・カウエル作曲「シンクロニー」の演奏が終わって、今度はクリスティアン・テツラフの独奏によるアルバン…

東博の「北京故宮博物館200選」を見て

茫洋物見遊山記第76回寒い寒い木曜日の午前11時に到着して長い列の最後に並びました。会場の入り口に到着するまでに1時間、次いで場内で立ちん棒となって時たまゆるゆると歩むこと3時間、2冊の小説を読了しつつ都合4時間かかって目視することができた…

金子修介監督の「毎日が夏休み」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.185どうにも会社の生活が性に合わなくなったリーマンと中学でのいじめで登校拒否状態に陥った娘が母親のとまどいや反対を押し切って「なんでもやりますお助け隊」を結成して自主独立していく愛と涙と感動?の物語。大…

ジャック・ドレー監督の「フリックストーリー」を見て 

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.184アランドロンが1975年に製作・主演した刑事ものサスペンスドラマ。フランスでは国家警察と警視庁の2大警察機構があって昔から仲が悪いそうだが、これは前者に属した実在の刑事が書いた実話を「ボルサリーノ2」…

サンクトペテルブルク白夜祭のゲルギエフ指揮「春の祭典」「火の鳥」

♪音楽千夜一夜 第242回これはロシアの指揮者ゲルギエフが創始したサンクトペテルブルグ白夜祭の2008年6月の公演で、ストラビンスキーの有名な3曲が演奏され踊られている。さいきんいくつかのバレエ団の公演をビデオで視聴したが、いずれもその劇伴音楽…

アメリカン・バレエシアターの「ドン・キホーテ」を視聴する

♪音楽千夜一夜 第241回2011年の7月23日に行われた文化会館での来日公演です。レオン・ミンクス作曲のこのバレエはセルバンテスが書いた小説に比べるとどうしょうもなくつまらないが、踊り手に人を得、オケと指揮者を得ればそこそこ楽しめるのですが、…

梶村啓二著「野いばら」を読んで

照る日曇る日第482回 これは日経新聞が公募したコンテストで見事グランプリを獲得した小説です。選者の中に縄田なんとかというひじょうにいかがわしいひょーろん家がいるので眉つばで読みだしたのですが、いまどき珍しい史実とロマンを表題の香り高い植物に…

小澤征爾×村上春樹著「小澤征爾さんと、音楽について話をする」を読

照る日曇る日第481回クラシックとジャズに一家言ある作家だからこういう対話集を出してもおかしくはないが、それが小澤征爾とはちょっと意外だった。なんでも村上氏の細君と指揮者の娘さんが仲良くなって家族ぐるみの交際をするようになった副産物らしい。あ…

橋爪大三郎×大澤真幸著「ふしぎなキリスト教」を読んで

照る日曇る日第480回私の家はなぜかプロテスタントであったから、幼いころから教会に通わされて牧師の説教を聞いたり讃美歌を歌わせられたりしたものだ。それで大略キリスト教についてはわかったような気がしていたのだが、本書を読んでとそんなものは一知半…

内田樹著「呪いの時代」を読んで

照る日曇る日第479回本書が誕生したきっかけは、著者がある日編集者に「現代は呪いの時代である」と呟いたからだそうだ。これを切り口にして「婚活」「草食系男子」など「日本辺境論」以降の日本および日本人の動向や病根や震災や原発に関する著者独自の文明…

高橋源一郎著「恋する原発」を読んで

照る日曇る日第478回なんでもそうだが、大事件のあとで国全体、国民全体が白一色、赤一色に染まるのはよくない。それは闇世界の平成大政翼賛会が推進する精神の自由と民主主義の危機の姿であるともいえよう。しかし9・11のNYでは「これまで見た最も美しい…

サイモン・ラトル指揮・ベルリンフィルの「フィデリオ」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第240回2003年のザルツブルク復活音楽祭における演奏ですが、この頃のラトルの音楽は中途半端でいったい何を考え何をやりたいのかさっぱりわからず、せっかくベルリンフィルを起用しながら奏者にも戸惑いが感じられるベートーヴェンです。…

ヤンソンス指揮・ウイーンフィル・ニューイヤーコンサートを視聴して

♪音楽千夜一夜 第239回 2012年の指揮棒を振るのはマリス・ヤンソンス選手。2006年に続く2回目の登場ですが今年の演奏はまことに聴きごたえがありました。前半はそれほどでもなかったが休憩後の「ピッチカート・ポルカ」は息を呑むような名演で、手…

ショルティ指揮・ウイーンフィルの「魔笛」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第238回懐かしや今は亡きゲオルグ・ショルティが91年8月8日のザルツブルク音楽祭に登壇してモーツアルトの名作オペラを振っています。この人はいつもエネルギッシュに鋭角的な切り込みをしますが、序曲もかなりあわただしくはじまる。この…