蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2012年睦月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第103回


正月や生死の際のひとやすみ

かのひとの縁の切れ目の年賀状

資本主義でもない社会主義でもない公正主義を空想す

二晩も塩見洋一の夢を見たり どうしているか塩見君

泣け笑え 歌え踊れ 汝幸なる魂よ

野薔薇咲く崖下の家に棲みにけり

鎌倉の改札口で美しき女性と接吻していた小泉画伯みまかりにけり

小泉画伯の遺体を乗せし霊柩車妻のカローラに別れを告げたり

倒れながらよくぞ電話をかけてきた正月6日義母92歳

この世の不条理と不如意に怒りの津波が押し寄せるとき

どこまでも君の欲望に寄生して死んでも離さぬドコモauソフトバンク

ブーと言えブーと言えこの阿呆めがとお前は今年も悪口を言うのか

不満あり無力なりされど英雄気取りのアンポンタンにわが命運をゆだねず

不満あり無力なりされどわが荷物を橋の下に投棄せず 

恋は狂気の沙汰にしてつける薬はないわいなあ

森既に黒けれど空まだ青しわれら日のあるうちに遠く歩まん

東大寺より西大寺が好きな人

ムラサキシジミとテングチョウが越冬していた枯葉となって

アラカシの枯葉に似せて横たわるムラサキシジミに幸いあれ

今日もまた貴兄のペニスうんと大きくしてあげるというメールあり

相変わらずお前はアメリカの属国だなイランの石油が要らんとは

全ての国に一個ずつ原爆与えてその直後一斉廃廃棄すればいかがでせう

光明寺に去りし隣の美女が来てナシの種呉れし満月の夜

わかりました行ってみますてふ息子の言葉を頼もしく聞く

病院に行けば病の人ばかり病ならずとも病みし心地す

徳洲会は世界を癒す」というポスターの下でリハビリを受けている妻

リハビリは一生懸命やりなさいけどやってるうちに腱がピシッと切れる時もあると警告されている妻

なぜ樺太をサハリンなどと言い変える悪辣無法のソ連に奪われしあの島を

なぜビルマをミャンマー表記に改める軍事政権に屈した朝日とフィナンシャルタイムズよ

なにゆえに脳しょうぐあいの君だけにピアノが弾けるのとても不思議だ

お父さんドのダブルシャープはレだよとピアノを弾きながら教えてくれました

異国に咲きはかなく散った燃える恋百五十年後も匂いは失せず 

「毎日が日曜日」となっても忙しいのはなぜだろう

幸福は妻と並んで山崎のこもれびプールで平泳ぎする朝
 


墓地にあれば心慰む生きながら死につつある証か 蝶人