蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2010年神無月茫洋花鳥風月人情紙風船

♪ある晴れた日に 第81回 渓谷の小道をゆくは人か魔かげに美は恐るべきもののはじまりグーグルで検索すればわが家の玄関口に靴の並べる10月の16日に蝉が鳴く誰かさんの誕生日を祝うがごとく人格が毀損汚染されているからあらゆる制度が劣化するとっくに括…

ジャン=リュック・ゴダール監督の「ゴダール・ソシアリスム」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.40 今年12月に米寿を迎えるゴダールの最新作の試写を見ました。その原題が「FILM JLG SOCIALISME」というのだからちょっとした驚きです。しかしゴダールに社会主義なぞというなまぬるいレッテルは似合わない。もしか…

ジョエル・オリアンスキー監督の「コンペティション」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.39昔この映画を見たときは、音楽コンクールの内幕暴露が新鮮でけっこう夢中になって観賞したものでした。あれは1980年だからもう20年も昔になるのですね。30歳になんなんとする主人公リチャード・ドレイファス…

182人のイラストレーターが描く「新訳イソップ物語」を読んで

照る日曇る日 第384回イソップ物語を手にするのはラ・フォンテーヌの「寓話」を読んで以来ひさかた振りのことです。しかもこの本には一話一話に東京イラストレーターズ・ソサエティに所属する有名な挿画家たちのイラストが添えられているので、それこそ一…

世界文学全集「短編コレクション1」を読んで

照る日曇る日 第383回河出書房新社から出ている池澤夏樹個人編集にかかる文学全集の短編集を読んでみましたが、その大半が私にはつまらないものばかりなので、池澤という人はこれらの作品のどこがどのように面白くてピックアップされたのか尋ねてみたいと…

神奈川県立近代美術館鎌倉で「岡崎和郎展」を見て

茫洋物見遊山記第43回&鎌倉ちょっと不思議な物語第230回 雨の日に無人の美術館で現代美術を眺めるのも乙なものだ。岡崎という人の経歴も作品歴も何も知らないままにしおだれる軒をくぐって古い建物に入ると、そこには純白の精神世界が沈然と繰り広げら…

神奈川県立近代美術館鎌倉別館で「保田春彦展」を見て

茫洋物見遊山記第41回&鎌倉ちょっと不思議な物語第229回こないだ横浜で見たドガのデッサンは予想外につまらなかったが、鎌倉の別館で見た保田のそれはつまらないどころではなかった。この違いはどこから来るのかと考えると、前者が制作の途次そのもの…

「井上ひさし全芝居 その六」を読んで

照る日曇る日 第382回 昔昔貧乏な学生時代の私は、主にNHKの舞台大工のアルバイトやビル建築の真夜中の肉体労働でかろうじて生活していました。NHKにおける泊まり込みの主な仕事は「歌のグランドショー」と「ひょこりひょうたん島」のスタジオのセ…

ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の「イヴの総て」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.38ベティ・デイビスとアン・バクスター火花が散るような競演に引きずられてあっという間の140分ですが、アメリカ演劇界の裏表と女の戦いをかくもスリリングに描きつくしたジョセフ・L・マンキーウィッツの脚本と演…

バーンスタイン指揮NYフィルの「ベートーヴェン交響曲全集」を聴い

♪音楽千夜一夜 第167夜60年代にバーンスタインがニューヨーク・フィルハーモニックを指揮してCBSソニーに入れたベト旧録音です。しかしどの曲をとっても、60年代のとれたての地生りのトマトのように新鮮で、滋味豊かな味わいがする。これならなにも…

ビリー・ワイルダー監督の「お熱いのがお好き」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.37 ビリー・ワイルダーの脚本と監督による快速調の喜劇です。貧乏ミュジシャンのジャックレモンとトニー・カーチスを女装姿にしたところが素晴らしい。芸達者なレモンとつい最近亡くなったばかりのカーチスの歯切れの…

ポール・オースター著「オラクル・ナイト」を読んで

照る日曇る日 第382回1990年の「偶然の音楽」、2002年の「幻影の書」と、作者の力量はますます上昇し成熟の度を強めてきたようです。ともかくどんな作品でもいっときも巻を措く能わざるプロットの面白さと思いがけない展開、そしてきわめて知的で…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第37回

bowyow megalomania theater vol.1 のぶいっちゃんとひとはるちゃんは、「よしきた、がってん」と軽いノリで山道をすたこら走りだしました。僕たちは朝から昼までかかって不思議なお家の周りを倒木でびっしり覆い、頑丈な柵を作り、警官隊が踏み込んできても…

横浜美術館で「ドガ展」を見る

茫洋物見遊山記第41回&勝手に建築観光第40回 ポール・ヴァレリーの「ドガ、ダンス、デッサン」で知って以来、エドガー・ドガのデッサンをこの目でみることはわが年来の夢でしたが、ようやくその夢が横浜で叶えれらました。1988年に丹下健三の手によ…

カプシチンスキ著「黒檀」を読んで

照る日曇る日 第381回アフリカと聞けば人類誕生の地と思う。エイズを思う。西欧の奴隷制と植民地主義の圧政を脱して60年代に活躍したガーナのエンクルマやコンゴのルムンバの雄姿を思う。パン・アフリカ主義とアフリカ合衆国構想、アジア・アフリカ会議…

小川洋子著「原稿零枚日記」を読んで 

照る日曇る日 第380回 10月のある日の昼下がりのこと(金)ちょうど私が小川洋子さんの「原稿零枚日記」の132ページを開いて、天然記念物の桂チャボが20メートルくらいは泳ぐというくだりを読んでいるときだった。ぎゃあ、ぐああ、がああという、いまま…

ミンコフスキー指揮で「ポントの王ミトリダーテ」を視聴する

♪音楽千夜一夜 第166夜 2006年8月、レジデンツホーフで行われたザルツブルグ音楽祭のモーツアルト生誕250周年記念のライヴ演奏です。ローマと戦って戦死した、と聞いたポントの王ミトリダテスの2人の息子が戦場から飛んで帰って王妃に求愛し、王妃…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第36回

bowyow megalomania theater vol.1 洋子と文枝はひきつった顔をして2人でひしと抱き合っています。僕も耳を手でふさいで「こわいおう、こわいおう」と叫びながら、不思議のお家のまわりを全速力で走りまわりました。「よおーし、分かった。もういい。2人と…

サルトルの「嘔吐新訳」を読んで

照る日曇る日 第379回昔この本を白井健三郎という人の翻訳で読みかけて、途中で放り出したことがありました。なんでも実存主義という哲学が大流行の頃でした。 今度手にとったのは鈴木道彦という人の翻訳ですが、こちらは当世風にこなれた訳語のせいもあ…

月下美人のような妖しい芸術の花 「車谷長吉全集第1巻」を読んで

照る日曇る日 第378回この巻では処女作「なんまんだあ絵」から平成年の「大庄屋のお姫さま」に至るまでの短編と中編をことごとく読むことができ、車谷長吉という不世出の作家の労作を読む楽しさというものを満喫させてくれます。長編の代表作は「赤目四十…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第35回

bowyow megalomania theater vol.1のぶいっちゃんとひとはるちゃんは、「ちくしょう、おいらをあんなひどいめにあわせやがって。くそっ、皆殺しだ! だいたいわいらあを星の子みたいな地獄に入れっぱなしにしておいて一度も見に来ない親も親だ。わいらあをト…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第34回

bowyow megalomania theater vol.1 あっちか、こっちか、戦うか逃げるか、右か左か、そんなことどうでもいいじゃないか。無理矢理どっちかに決めるほうがおかしいんじゃないか。それに右のほっぺたを叩かれたら、左のほっぺたをどうして叩かなければいけない…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第33回

bowyow megalomania theater vol.1 「第7機動隊のおまわりさんは、きっと死んでしまっただろう。だからきっと彼らは、もうすぐここまで攻めてくるだろう。団体で徒党を組んでやって来るだろう。だから僕たちも、ここで命懸けで戦うか、いったん退却するか態…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第32回

bowyow megalomania theater vol.1 11月5日 晴れのち雨 ひと晩たつと公平君ものぶいっちゃんもだいぶ元気を取り戻しました。大勢の警官隊にふくろだたきにあっているのぶいっちゃんを見た公平君がピストルを振りかざして突入していったら、おまわりは一斉…

ビリー・ワイルダー監督の「情婦」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.36「情婦」という映画を観ました。これはアガサ・クリスティ原作の探偵ものですが、原作のトリックも凄いが、どちらかというと脚本・監督のビリー・ワイルダーのほうがもっと凄い。最初にてっきり悪人と思った奴が途中…

新国立美術館で「没後120年ゴッホ展」を観る

茫洋物見遊山記 第40回 またゴッホか、と思いつつも、ゴッホと聞けば万難を排して駆けつけざるをえません。今回のゴッホはオランダのファン・ゴッホ美術館とクレラー・ミュール美術館からの貸し出しで油36点、版画・素描32点が同時代の有象無象と並ん…

演劇集団「円」公演「シーンズ・フロム・ザ・ビッグ・ピクチュアー」

茫洋物見遊山記 第39回ある国のある地方のある町村を描こうとするとき、その共同体や部落に住んでいるあれやこれやの任意の人物にフォーカスして、その人生の苦しみや喜びを伝えることができたら、私たちはその共同体や部落について少しは理解できたような気…

塩野七生著「絵で見る十字軍物語」を読んで

照る日曇る日 第377回ローマ史を完成させた著者が次に取り組んだのが十字軍物語です。その予告編とでもいうべき本書ではギュスターヴ・ドレの精巧なモノクロ版画を紹介しながら、11世紀末から13世紀後半に至るまで聖地エルサレムの回復をめざして全8…

ステファヌ・マラルメ全集第1巻を読んで

照る日曇る日 第377回マラルメの全詩集の邦訳といえば岩波文庫からでている鈴木信太郎訳が有名ですが、こちらは筑摩から出た松室、菅野、清水、阿部、渡辺氏の新訳です。なにせフランスの高踏派・象徴派の泰斗による超難解な詩ばかりなので、意味を取るこ…

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第31回

bowyow megalomania theater vol.1 「そこに、のぶいちが、いる」と、公平君は押し殺したような低い声で、言葉を胸からきれぎれに押し出すように言いました。きれぎれに押し出すように言いました。見るとススキの根元から3メートルくらい離れたところに、息…