蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ビリー・ワイルダー監督の「お熱いのがお好き」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.37


ビリー・ワイルダーの脚本と監督による快速調の喜劇です。貧乏ミュジシャンのジャックレモンとトニー・カーチスを女装姿にしたところが素晴らしい。芸達者なレモンとつい最近亡くなったばかりのカーチスの歯切れのよいやり取りが壺にはまって、われらただ口を開けて眺めているだけで面白いのです。

禁酒法時代のシカゴから、陽光まぶしいフロリダまでの女楽員同士の珍道中も楽しいが、そこへ到着してからの男女入り乱れての恋愛騒動とシカゴから追っかけてきたギャング一味とのすったもんだも見ごたえがあります。

いちばんの見せどころ聞かせどころは、女楽団のウクレレ奏者マリリンモンローがSome Like It Hotという唄をうたうシーンでしょう。今までのコミカルな流れが突然転調されて、なにやらしんみりした雰囲気に変わっていくのは、音楽のアドルフ・ドイッチの力というよりはモンローの不思議な存在感のゆえでしょう。

なんでも題名の由来となったSome Like It Hotというのはマザーグースの「エンドウ豆のかゆ」の一節,Some like it hot、Some like it coldから来ているそうです。エンドウ豆の熱いの冷たいのは人によって好き好きさ、という「たで喰う虫も好き好き節」ですが、これがラストのジョーE・ブラウン扮する大富豪がトニー・カーチスが男であってもわしゃ構わんよ、男でも女でもいいじゃんか、という当時としては革命的にアナーキーなオチにつながっていくわけです。

そんな次第なので、「お熱いのがお好き」は面白いは面白いが、脚本のタッチがいつもと違ってかなり強引かつヘビーで、正直見ていてちょっとゲンナリしてくる部分もありますなあ。


右からって言うとるのになして左から回るあんた日本語分かっとるんかね 茫洋