蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2007-01-01から1ヶ月間の記事一覧

十二所の神々

鎌倉ちょっと不思議な物語40回 十二所神社の十二所は、「じゅうにそう」、または「じゅうにそ」と読む。「じゅうにしょ」は「敬愛なるベートーベン」ほど酷くはないが、間違った読み方なので念のため。さてその十二所神社は、かつては時宗の一遍上人が開いた…

贈る言葉

あなたと私のアホリズム その5 昨日は学校の最終講義だった。まだ来週の試験が残っているが、いちおうこれでおよそ40人近くの学友諸君と訣別したわけだ。ほとんどの生徒とはこのSNSというメディアを除いては二度と会うこともないだろう。彼らは学校を卒…

インフィル不在の音楽論

♪音楽千夜一夜第9回稀代の悪文で定評のあった塩野七生氏の「ローマ人の物語」がようやく15巻で完結し、もうこの人の醜い日本語を読む必要がなくなったといささかほっとしているところだ。ところで全巻をつうじてローマ時代の芸術について触れることの少な…

ぐあんばれ宮崎緑!

ふあっちょん幻論第5回&鎌倉ちょっと不思議な物語39回 鎌倉には数多くの有名人?が住んでいるようだが、その中の一人に宮崎緑さんという元NHKのキャスターがいる。去年だったか駅前のケンタッキーフライドチキンの細道をこちらに向かって突進してくる顔のみ…

♪土曜日の歌

犬ふぐりふぐり開かぬ寒さかな 今日もまた一人死にたり梅の花 佐々木眞少し死にゆく冬の朝 この国やあらゆるニュースはバッドニュース この花の名前は何ですかと吹き来る風にわれ訊ねたり 不自由な右指伸ばし母がいう冬中咲くから冬知らずなの 中原の中也が…

果樹園にて歌える

鎌倉ちょっと不思議な物語38回 梅一輪開かぬ林に入りけり我らにも希望はありて梅つぼむ果樹園の梅持ち帰るうれしさよ果てしなき評定続くもぐらかなしばらくはルソーの森に遊びけり木陰にてキャミソール脱ぐチャタレイ夫人水仙のごとき香りの君である少年は今…

鎌倉ところどころ

鎌倉ちょっと不思議な物語37回 図書館の本が流れるので、自転車で取りに行った。図書館の向かいの御成小学校は前にも紹介したように旧明治天皇の夏季別荘として利用されたが、後に葉山の別荘にとって替わられた。そのもっと昔は中世の国衙(行政センター)が…

楽園への道

鎌倉ちょっと不思議な物語36回&音楽千夜一夜第8回 十二所の名所はなんといってもここ十二所果樹園だ。もともとはわが十二所村の所有であったが、最近市の史跡保存会が購入し、広大な山全体を手入れしている。私は昔から果樹園やORCHARDという言葉が好きだっ…

幻のつつじ

遥かな昔、遠い所で 第2回 郷里の我が家から田町の坂を登って質山峠を越えていくと、どこやらの山の1画が我が家の所有地になっていて、そこでは10年くらい前まで丹波名産のマツタケが採れた。マツタケははじめのうちはなかなか見つけられない。図鑑などで…

♪トラベルセットが当たる

音楽千夜一夜 第7回「朝は四足、昼は二本足、夕方は3本足のものは何?」というスフィンクスの問いに「それは人間だ」と正答したのは父を殺し母と交わった古代ギリシアの王、オイデップス。「暗い闇夜に飛び交い、暁とともに消え、人の心に生まれ、日毎に死…

遥かな昔、遠い所で 第1回

私の実家は丹波の田舎だ。そこでは長らく下駄屋をやっていた。 02年に三代目の母が亡くなったあとたたまれた店は、いまも「てらこ」という屋号で町の目抜き通りに残ってはいるが、もはや訪れる客も店の新しい主人もいない。外見も中身もそんな古式蒼然とした…

さまよえる酩酊船

改めてアルチュール・ランボー(1854-1-91)の言葉に耳を傾けよう。 安政元年に生まれ明治24年、大津事件が起こり、幸田露伴が「五重塔」を書いた年にマルセイユの病院で右足関節腫瘍で37歳で死んだ詩人のマニュフェストだ。見者であらねばならない、自らを…

スミレ咲く

鎌倉ちょっと不思議な物語35回熊野神社ではもう可憐な山スミレが咲いていた。十二所の山際の崖ではたった1輪が薄紫の花弁を風に揺さぶられていた。今年も暖冬らしい。十二所のガソリンスタンドで尋ねたら1.8リットル当たり1580円だそうだ。ひと頃よりだいぶ…

♪木曜日の歌

ランボオのような眼をした少年だった子が父を殺めたくなる野の小道アポロンの信託は知らず寒椿まむし眠る谷戸に降りつむ椿かな電光影裏タイワンリスの邪悪な眼よ世の中はもっともっと悪くなる鴨陽だまりに愛を乞うる人多くわたしはたんぽぽの好きな人が好き…

追悼

二人の白い巨人が土俵に上った。それぞれがわれこそは世界最強の戦士だ、と喚く。やがて二人の力士は立ち上がってがっぷり4つに組み合ったがそれっきり微塵も動こうとはしない。周囲の人々は懸命に声援を送り続けたが、力士はたらたらと汗をながすだけで相変…

♪ コインの歌

♪ 1円玉 吹けば飛ぶよな アルミの独楽よ 風に吹かれてくるくる回る ほんにお前は屁のような♪ 5円玉 餓鬼道、修羅道、畜生道、因果は巡る風車 ここで会ったが百年目 ご縁があれば涅槃で待つぜ♪ 10円玉 誰でも気軽に賽銭投げるが 本気であたいを投げられるかい…

歌舞伎座の建て替えに反対する

勝手に東京建築観光・第4回 わが国が世界に誇る最高、最大の芸術は、やはり歌舞伎であろう。江戸のオペラともいうべきこの歌と踊りとお芝居の総合芸術ほど私の心をかきみだすものはない。 私がもしも大好きなモーツアルトのオペラと歌舞伎のどちらを選ぶか二…

巡り合い

鎌倉ちょっと不思議な物語34回 20002年2月に消えたうちのムク ここにいたのかかわかわのムク駆け寄りてムクやムクやと呼びかければ 空に向かいてピンと尾をあぐ

生きるよろこび

鎌倉ちょっと不思議な物語33回&音楽千夜一夜 第7回 例のオオウナギ棲息地の近所に鎮座ましますのは、室町時代中期の仏様である。この御仏は、それまでは人知れず小さなやぐらの奥で眠っていたのだが、ある日突然Oさんという老ピアニストが突然周囲を開拓し…

ある蛇の歌

今年の冬は遅い。ゆっくり朝寝をしたら、午後からは散歩に出よう。大気は胸に冷たく透き通り、柔らかな光が君の漠然とした不安をなだめてくれるだろう。君は緑に包まれた楽園をめざしてどんどん歩いていくだろう。道はゆっくりと左に曲がり、やがて右に曲が…

歌うよろこび

音楽千夜一夜 第6回音楽の本質とは、内部生命が歌うことではないでしょうか?音楽とは、私の心がなぜか生きる喜びに満たされ、その喜びと幸せが原動力となって無意識に歌いたいという衝動が生まれ、自分でもそれと気づかないうちに「歌のようなもの」が胸か…

さようならお化け屋敷

鎌倉ちょっと不思議な物語32回市役所に行ってバリウムを飲んで胃検診を受ける。以前はレントゲンを一枚撮ってからまずいバリウムをコップ一杯飲んだような記憶があるが、今日は最初から有無をいわさず呑まされた。お棺のような半月形の筒に収納されて、ぐる…

よみがえるモーツアルトの精霊

音楽千夜一夜 第5回 いまパソコンでモーツアルトの「ミサ曲ハ短調K427」の演奏を聴いています。指揮は長老チャールズ・マッケラス、演奏はジ・エージ・オブ・エンライトメント・オーケストラ。 この夏英京ロンドンのアルバートホールで開催された「プロムス…

苔のむすまで

鎌倉ちょっと不思議な物語31回 以前にもご紹介したように、私の自宅は元は鎌倉石の石切り場であった。鎌倉石というのは房州石と同様、割合に柔らかで加工しやすい凝灰岩からできていて、寺の五輪塔や石段はおおかたこれで造られている。また鎌倉石は、昭和の…

不相応な天からの贈り物

あなたと私のアホリズム その4日本国憲法の序文と第9条は、たぶんいかれぽんちの米国の理想主義者の脳裏に浮かんだ一瞬の夢だった。しかしそれはなんと美しい、まるで7色の虹のような夢であったことだろう。私はこの条文を目にするたびに、かつてベートーヴ…

2007年正月の歌

猪は悲しきものよ幾たびも己が額を壁に打ちつくついに鎌倉では産院絶ゆうろたえて町をさまよう多くの妊婦たち耕君をとりあげし針谷産婦人科なんとかマンションに身売りしにけり江ノ電は嬰へ長調、横須賀線はイ短調で踏切が鳴ると教えてくれたうちの耕君耕ち…

ここで中世のたたら製鉄が行われていた

鎌倉ちょっと不思議な物語30回 「たたら」とは鉄を製錬するために鉄を吹く「ふいご」のことですが、そのふいごを使う古代の製鉄技術全体をたたらと呼んでいます。 たたら製鉄とは日本古来の独自の製鉄法で、千年以上の歴史を誇っています。最初は古代の九州…

霊園のガーデニング

鎌倉ちょっと不思議な物語29回 十二所神社の裏山に登ったついでに鎌倉霊園まで歩いた。霊園には墓参の人々がちらほら歩いていたが、斎場の傍にガーデニングのサンプルが展示してあった。お金さえ出せば春夏秋冬季節の様々な花々で墓地を美しく飾ってくれると…

オオウナギが棲む小川

鎌倉ちょっと不思議な物語28回 滑川は鎌倉の動脈だ。相模湾、東京湾から和賀江嶋を経て鎌倉に陸揚げされた物資は、由比ガ浜から滑川を遡って、この中世都市の中枢部に運ばれた。そんな交通の要所であった滑川だが、流域にはいまも多くの魚や鳥やカニやホタル…

大塔宮の正式参拝

鎌倉ちょっと不思議な物語27回 元旦は家族、親戚一同の皆さんと大塔宮へ正式参拝に行きました。ここは薪能で全国にその名を知られた神社で、足利尊氏の弟、直義によって非業の死を遂げた後醍醐天皇の皇子、護良親王を慰霊するため、明治になってから建立され…