蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2010年睦月茫洋花鳥風月歌日誌

♪ある晴れた日に 第70回 てめえなんか死んじまえと叫ぶたびにどこかで誰かが死んでいるあんたのことが大好きよと囁くたびにどこかで花が咲いているクビライの奴婢となりたるわが国の行く末憂う今年の初夢興隆しやがては沈む英国の大人の姿大和も辿れよ沖縄…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第33回

bowyow megalomania theater vol.1 僕はとてもとても悲しくなって、大好きな家族の人にそんなに嫌われてはもうどうしていいのか分からなくなって、「岳君、嫌いですか、嫌いなんですか?」と、3人に聞きました。そしたら3人が声を揃えて 「岳君なんか大嫌…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第32回

bowyow megalomania theater vol.1 僕は3度の食事が大好きなのです。1日でいちばん楽しいのが、ごはんです。はっきり言って、僕はごはんを食べるために生きているのです。そのことを僕より分かっているのは庭にいるムクだと思います。しかもムクのごはん、…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第31回

bowyow megalomania theater vol.1 犬は吠えるだけじゃない。歩いているだけの人を歯をむき出しにしておっかけてくる。逃げる人を追っかけてかみつくのが犬です。 僕は小さい時におっかけられて咬まれました。だから犬はぜんぶ嫌いです。うちで飼っているム…

吉村昭著「ふぉん・しーほるとの娘」を読む

照る日曇る日第324回「ふぉん・しーほると」となぜだか平仮名で書かれているのはドイツ人科学者フォン・シーボルトそのひとで、彼と円山遊郭の遊女お滝との間にできた娘お稲がこの長編小説のヒロインです。シーボルトはドイツ人であるにもかかわらずオラ…

中村稔著「中原中也私論」を読んで

照る日曇る日第324回詩人でもある中村稔がものした中原中也論を読みました。だいたい私はある朝 僕は 空の 中に、 黒い 旗が はためくを 見た。 はたはた それは はためいて いたが、 音は きこえぬ 高きが ゆえに。 「曇天」天井に 朱き色いで 戸の隙を …

リッカルド・ムーティ指揮ウィーンで「魔笛」を視聴する

音楽千夜一夜第106回2006年モーツアルトイヤーにおけるザルツブルク音楽祭の公演をビデオで鑑賞しました。指揮者とオーケストラはまずは当代一流のもので先代のベームにくらべたらいろいろ文句も言いたくなりますが、古楽器以外の演奏ではこれを凌駕…

「プロムス2009ラストナイトコンサート」を視聴して

音楽千夜一夜第105回 ロンドンから中継される「プロムス」も毎年こうやって聞いたり見たりしているわけですが、私がはじめてレコードを買ったコーリン・デイビスの時代に比べると英国という国の衰退に正比例するようにだんだん熱核の放射線を失ってきたよ…

五木寛之著「親鸞」下巻を読んで

照る日曇る日第323回日本仏教会の巨聖にして偉大なる宗教改革者、親鸞の波乱万丈の物語の後篇です。 おおいに期待していたのですが、ちと物足らず。そのわけは、本作がどうにも尻切れトンボの終わり方をしていること、それから作者が主人公をあまりにも現…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第30回

bowyow megalomania theater vol.110月13日 晴れたり曇ったり星の子から帰ったら、お父さんがいました。お父さんがどうしてこんな時間にいるんだろう? 今日は土曜日でも、日曜日でも、天長節でも、国民の休日でもないのに。もしかして会社を首になった…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第29回

bowyow megalomania theater vol.1 10月12日 曇岳君、閉めなさい。岳君、ジュース飲みなさい。じゃ、伸ばしなさい。崩しなさい。開けときなさい。と高木先生は僕に言いました。それから高木先生はおっしゃいました。岳君、ちゃんと、してなさい。岳君、…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第28回

bowyow megalomania theater vol.1 園長先生は、おっしゃいました。「20年施設の仕事をやってきましていま思うことは、もう一回障碍児教育の原点に帰ろう、ということです。見る、聞く、触れる、味わう、匂いをかぐ、5感のすべてを動員して人間らしくいき…

五木寛之著「親鸞」上巻を読んで

照る日曇る日第322回五木寛之といえば希代の物語作家、現代の語り部、小説界の井上陽水としてつとにあなどれない力量をみせつけていますが、今度は来年750回の御遠忌を迎えられた親鸞聖人の生涯の物語です。 登場するのは、物語の主人公忠範(親鸞)を…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第27回

bowyow megalomania theater vol.110月11日 晴 久しぶりに快晴になりました。お母さんと御父さんと一緒に、鎌倉駅から横須賀線に乗って、大船駅で東海道線に乗り換えて藤沢に行って、藤沢で小田急に乗り換えて、各駅停車でS駅に着きました。「ぶどうの…

鴉鳶

バガテルop119世間では小沢対検察の全面戦争などと物騒なことを言うておりますが、これではいったい何のための政権交代であったのか、金銭モラルの欠如した2人の頭目を担いだ政党の愚かさ、そして渡辺爺以外誰ひとり言うべきことも言わず牡蠣のごとき沈…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第26回

bowyow megalomania theater vol.110月10日 曇 今日、星の子で山塚さんと塩川さんが、けんかしました。山塚さんの髪の毛を、塩川さんがひっぱったら、山塚さんが泣きました。 えーん、えーん、えーんと山塚さんは泣きました。「山塚、ちゃんとやれよ。ど…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第25回

bowyow megalomania theater vol.1 10月9日 曇時々雨朝、鎌倉駅から横須賀線に乗って大船駅に着きました。プラットホームはおおぜいの人々でいっぱいでした。東海道線と横須賀線と京浜東北線のお客さんで、電車も人もいっぱいでした。どうしたんだろう? …

モブ・ノリオ著「JOHNNY TOO BAD内田裕也」を読んで

照る日曇る日第321回前半はモブ・ノリオの小説「ゲットー・ミュージック」、後半は1986年に内田裕也が平凡パンチで連載したインタビュー記事「ロックン・トーク」の採録という奇妙奇天烈な合体本。しかしてその実態は、モブ・ノリオと内田裕也の、孤…

哀悼エリック・ロメール

バガテルop118&闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.23パリではエリック・ロメールが89歳で、ベルリンではオトマール・スイトナーが87歳で死んだ。2人とも私の敬愛する映画監督であり、指揮者であったので、今日はとても悲しい。 夕刊にスイトナ…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第24回

bowyow megalomania theater vol.1 「岳君、今日、英語行くんだよ。分かった?」 と高木先生はおっしゃいました。高木先生、いい匂い。お母さんの枕とおんなじ。いい匂い。髪の毛が長くて、とてもサラサラしていて、きれいに輝いて、さわるととっても気持ち…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第23回

bowyow megalomania theater vol.1 10月8日 雨また雨だ。どうしてこんなに雨が降るんだろう。空気中の水分が多いから、と、高木先生は言いました。「スペインの平原には、大気中の水分が多いので、それでよく雨が降るのよ」 と、高木先生は歌いながら言い…

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第22回

bowyow megalomania theater vol.1 10月7日 雨10月だというのに、毎日雨が降ります。ユーウツだ。字を書くと、いっそうユーウツだ。タイクツだ。では本当にタイクツなのかしら、と自分で自分にたずねてみましたが、じつはそんなにタイクツでもなさそう…

梟が鳴く森で 第21回

bowyow megalomania theater vol.1 9月30日 晴僕は、お父さんもお母さんも純ちゃんも好きです。 おんなじくらい大好きです。10月1日 バス停でバスを降りようとしたら、どこかの知らないおじさんに、 「馬鹿野郎、てめえ、順番に降りるんだ」 と怒鳴ら…

池澤夏樹著「カデナ」を読んで

照る日曇る日第320回1968年の熱い夏に、嘉手納基地のある沖縄で、沖縄人とアメリカ人の4人の男女が、いわゆる「反戦平和」の運動に加担する話です。反戦運動というのは、具体的には、嘉手納から爆弾を積んでベトナムに向かうB-52の北爆計画を事前…

梟が鳴く森で 第20回

bowyow megalomania theater vol.1 9月29日 晴お父さんとお母さんと純ちゃんと僕の4人で大船のスエヒロファイブへ行きました。自動車に乗って行きました。トヨタ・カローラに乗って行きました。トヨタ・カローラはお母さんが運転しました。なぜなら、お…

梟が鳴く森で 第19回

bowyow megalomania theater vol.1 9月28日 晴のち曇今日はお母さんと一緒に横須賀線に乗って横須賀へ行きました。聖ヨセフ病院で虫歯を治すのです。「痛くないからね。すぐ終わるからね」 と、先生はおっしゃいました。 僕は、じっとしんぼうしました。…

梟が鳴く森で 第18回

bowyow megalomania theater vol.19月27日 雨昔、昔のこと。 僕が戸塚の子ども病院へ連れて行かれた時のことを思い出しました。お父さんが、怒り狂っていました。「俺の仕事が頭を使うから、子どもが自閉症になったんだと! どういうことだ。そもそも頭を…

梟が鳴く森で 第17回

bowyow megalomania theater vol.1 9月26日あの時、桜が満開でした。 何百本という桜が満開でした。風が少しでも吹いてくると、吹雪のように花びらが僕の周りにはらはらと降りかかりました。公園の土の上は、もう淡いピンクでいっぱいでした。 あれは確か…

梟が鳴く森で 第16回

bowyow megalomania theater vol.1僕はS先生のおっしゃることはあんまりよく分かりませんでした。でも、僕が「自閉症」という名前の障碍者であるということはなんとか分かりました。自閉症は、1943年にアメリカのカナーという学者によってはじめて報告…

「現代語訳吾妻鏡7 頼家と実朝」を読んで

照る日曇る日第320回 本巻では、私のあまり好きでもない頼朝の息子頼家とその支柱である比企能員、私の大好きな畠山重忠および私のまあ好きな和田義盛が、北条氏の毒牙にかかって一族もろとも抹殺されます。そもそも2代目の馬鹿殿頼家が、梶原景時一族を…