蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

梟が鳴く森で 第1部うつろい 第30回


bowyow megalomania theater vol.1

10月13日 晴れたり曇ったり

星の子から帰ったら、お父さんがいました。

お父さんがどうしてこんな時間にいるんだろう?
今日は土曜日でも、日曜日でも、天長節でも、国民の休日でもないのに。もしかして会社を首になったのかしら。

お父さんは、僕の顔を見ると、大きな声で「岳君、お帰り」と言いました。

僕は、星の子から帰って来た時に、「岳君、お帰り」と言われるのが嫌いです。「ただいま!」と大きな声で玄関から声を掛けながら入って来るお父さんが嫌いです。小さな声で「今帰ったよ」と言ってほしいのです。「ただいま!」と怒鳴られると、耳の中で何かが爆発するような気がするのです。

そうだ、昔お父さんが何か僕には理由のわからないことでオッカナイ顔をして、「コラ!」と怒鳴りつけた。その時と同じ声だから、それが恐ろしくてとても嫌いだから、僕は耳を指でふさいで逃げるのです。

僕はムクも嫌いだ。お隣の吉本さんの家のタロウも、反対側のお隣の橋本さん家のラッシーも嫌いです。
犬はワンワン吠えるから嫌いだ。突然、理由もなくワンワン吠える奴は大嫌いだ。みんなあんなおっかないのをどうしてほったらかしにしておくのか、不思議だ。



   ♪昔の自分は死んだらしい 茫洋