蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

箱根羈旅歌

ある晴れた日に第109回 新しき光求めて旅に出んしょうぐわい者と老母の介護に追われたる妻に恵まれし一泊の旅ユニクロの980円の緑色のポロシャツを着て箱根行きけり風が吹き小雨落ち来る強羅坂公園目指して君と登る吹上の水は碧の池に落ち深紅の薔薇は今…

サム・ペキンパー監督の「昼下がりの決闘」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.255わたしの大好きなサム・ペキンパーが、わたしの大好きなジョエル・マクリーとランドルフ・スコットを起用して演出した1962年制作のB級西部劇である。ペキンパーのどこが好きかといわれると、このひとのいかに…

国立劇場開場45周年記念「三人吉三巴白波」のビデオを見て

♪音楽千夜一夜 第258回 国立劇場開場45周年記念公演として2012年新春歌舞伎で演じられたのが、河竹黙阿弥原作「三人吉三巴白波」の通し狂言だった。4幕7場の全幕を演じたのは、和尚吉三が松本幸四郎、お嬢吉三が中村福助、お坊吉三が市川染五郎という…

独ヘンスラー盤「バッハ大全集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第257回 ドイツのベーレンライター社が刊行する新バッハ全集の楽譜によるバッハ作品のすべてを網羅した唯一の「大全集」です。このヘンスラー・レーベルの制作した完全な全曲盤の監修は、バッハの研究者でもある指揮者ヘルムート・リリングの…

「山本周五郎戦中日記」を読んで

照る日曇る日第516回 本書には1941(昭和16)年12月8日の真珠湾攻撃の日から1945(昭和20)年2月4日までの日記が全文復刻されている。当時彼は38歳。東京大森の馬込文士村に居を構え、連夜の空襲の中を防空壕と行き来しながら代表作と…

ジョージ・シドニー監督の「愛情物語」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.254これは今までに何回か見ている映画で、でもやっぱりキム・ノヴァクは色っぽくていいなあ、どこか謎めいたところがあるのがまたいいなあ、きっといろんな男といろんなことをしてきたんだろうなあ、とか、彼女の「手…

ロバート・マリガン監督の「アラバマ物語」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.253原題はTo Kill a Mockingbirdで、「モッキンバード(マネシツグミ)を殺すこと」は良くないとこの映画の原作者ハーバー・リーは言いたがっている。物語の場所は確かに60年代のアメリカ南部アラバマ州の田舎町だが…

小津安二郎監督の「お早よう」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.2521959年制作の「彼岸花」に次ぐカラー映画だが、最新型のデジタル・リマスターで鑑賞したので、屋外も室内も洋服もインテリアも驚くほど精妙で美しい。出てくる場面はいつもの廊下と突き当たりの玄関、4丈半と6畳の…

ドナルド・キーン著作集第2巻「百代の過客」を読んで

照る日曇る日第515回1983年から84年まで朝日新聞に連載されて読み、選書版で再読した覚えがあるが、3度読んでも汲めど尽きせぬ文芸と人世の叡智の泉を満々と湛えているのがこの1冊である。文句なしに素晴らしいのは本書の斬新な問題意識で、83…

ジョン・ウー監督の「ペイチエック 消された記憶」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.251数週間前に確かに見たはずなのだが、その部分の記憶を消されてしまって何も覚えていないから、おそらく下らない映画だったのだろう。ユマ、サーマンが出ていたことは覚えているが、べつにどおってこたあない。仕方…

ビクター・フレミング監督の「風と共に去りぬ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.250原作を読んだことはありませんが、お話も映画の作りもかなりゾンザイなもので、どうしてこんなウドの大木のようなぬるい3流映画が世紀の名作扱いになっているのが不可解ですが、マックス・スターナーのテーマ音楽…

クロード・オータン=ララ監督の「赤と黒」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.249スタンダールの原作による1954年制作の仏伊合作映画でこのたび色鮮やかなデジタルマスタープリントに仕上がった。なんせ有名な大作家のネタの映像化であるし、美男ジェラール・フィリップと美女ダニエル・ダリ…

イサベル・コイシェ監督の「エレジー」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.248フィリップ・ロスの原作をイサベル・コイシェが2008年に映画化した老いらくの恋の物語です。古希に達した大学教授の主人公ベン・キングズレーが、花も恥じらう女子学生ペネロペ・クルスを落として朝な夕なにも…

リチャード・ロンクレイン監督の「ファイアーウオール」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.247いつのまにか70歳になんなんとするハリソン・フォードをフューチャーした06年制作のサスペンスアクション物映画です。大銀行のIT担当取締役を務めるフォード選手は、家族をまるごと自宅で人質に取られて顧客…

今井正監督の「仇討」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.247 なんといっても中村錦之助が圧倒的に素晴らしい。名監督に頤使された大根役者がかくも迫真の演技をもたらすとは、かの川島雄三における石原裕次郎に相似たり。さすがは今井正なり。橋本忍の脚本が良く出来ているが…

リチャード・ドナー監督の「タイムライン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.246巨大ハイテク企業が製作した転送装置で100年戦争の真っ只中にある1357年のフランスに送り込まれた現代人数名が、失踪した父親と再会したり、英仏の戦争に巻き込まれたり、当時の美人と恋愛したり、秘密兵器を作って…

フランク・キャプラ監督の「スミス都へ行く」を見る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.245 私の付き合った非ユダヤ系のアメリカ人の多くは、どっちかというと率直で単純明快で アホでハイテンションでそのノリについていくのが疲れてしまうが、どいつもこいつもひと癖ある陰険な仏蘭西人などと違って、お…

川本三郎著「白秋望景」を読んで

照る日曇る日第514回林芙美子に続いて著者が取り上げたのは、なんと北原白秋です。明治大正昭和の3代にまたがって詩歌の世界で活躍したこのいぶし銀のような文学者の生涯と業績を、前著と同様に慈しむように、呼吸を共にするように、もう2度と戻らない…

ミシェル・ボワロン監督の「殿方ご免遊ばせ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.243 「BB」ことブリジット・バルドーが主演するアホ馬鹿フランス映画。なんとベベちゃんが仏蘭西の大統領令嬢に扮してアンリ・ヴィダル扮する旦那の秘書官ミシェル・ルグラン!の浮気に対抗して(訪問中のシャルル・…

ウディ・アレン監督の「それでも恋するバルセロナ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.242 2008年制作の米スペイン合作の映画。例に因って例のごとしの恋愛映画で、NYからやって来た若い女性がスペインのぐうえいじゅつ家の掌中にはまって、喜んだり泣いたり苦しんだりするお話だが、こういう題材な…

根津美術館で「KORIN展」を見て

茫洋物見遊山記第87回&勝手に建築観光第49回そろそろ会期も終わりに近づいたので、意を決して南青山まで重い足を運んできました。だいたいこの度の改築を設計した隈研吾という男を私はまるで信用していないし、本展のタイトルのコーリン鉛筆みたいな表示も…

フィルダー・クック監督の「テキサスの5人の仲間」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.241 テキサスの超金持ちギャンブラーたち(ジェイソン・ロバーズなど)を銀行主と素人をよそおった夫婦ヘンリー・フォンダ&ジョアン・ウッドワードがぎゃふんといわせる痛快無比の西部劇コメディで、カードゲームに敗…

G・ガルシア=マルケス著「百年の孤独」を読んで

照る日曇る日第513回&ある晴れた日に第108回 この古き本読み始めて以来我が家に異変相次ぐ 深夜に玄関のベル鳴り柱時計真っ逆さまに落下して柔らかき腹の上をオオムカデ往来す 庭に埋めたる愛犬の夥しきウジ振り払いつつ座敷に飛び込むを懼れて今朝は斎戒沐…

熊井啓監督の「黒部の太陽」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.240 暗くて狭いトンレルの中で三船敏郎と裕次郎と辰巳柳太郎が行ったり来たりする。柳太郎の演技は分かるが、後の二人がどういう演技をしているのかはほとんど分からない。もちろん世紀の難工事だったことはよく分かる…

篠田正浩監督の「瀬戸内少年野球団」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.239 阿久悠の原作を田村孟が脚本にし、篠田正浩が演出した敗戦後の淡路島で起こる悲喜こもごもの物語。これが遺作となった夏目雅子、監督夫人の岩下志麻、若き日の渡辺謙、郷ひろみ、島田紳介、戦犯となってシンガポー…

マーチン・ブレスト監督の「セント・オブ・ウーマン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.238 これは米国陸軍を退役した盲目の元軍人とある若者との人情物語。アル・パチーノ扮するこの誇り高い軍人が自動車を猛スピードで運転したり、美女とダンスを踊るシーンは思わず感嘆してしまうのだが、よく考えると彼…

ヘンリー・コスター監督の「ハーヴェイ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.237 私達の世界には多くの霊が存在しているはずだが、1950年制作のこの映画では、それが実際に存在していることを確信する立場から描かれてひときわ異彩を放っている。 霊というてもケルト神話に出てくる善良な巨…

ビリー・ワイルダー監督の「第一七捕虜収容所」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.236 これはミュージカルの原作を映画化した大脱走物語だが、名匠の緩急自在な演出力が随所に発揮されている。当初ドイツのスパイと疑われていたウイリアム・ホールデンが真犯人を捜し出して鼻を明かせるのだが、このク…

バート・ケネディ監督の「大列車強盗」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.235 1972年制作のこの西部劇映画は、なんといっても晩年の御大ジョン・ウェインがその出っ腹で存在感を示していて、それなりの見ごたえがある。誰かがどこかに隠した大金を欲望にまみれたガンマンたちが争奪すると…

フランシス・コッポラ監督の「コットンクラブ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.234大恐慌前後、禁酒法時代のNYのエンターテインメント界とギャング社会の興隆を2つの愛の交流を軸にして描く。当時のハーレムの歓楽スポットに集うマフィアたちやチャプリンやギャグニーやグロリア・スワンソン、…