蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

今井正監督の「仇討」を見て

kawaiimuku2012-05-16



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.247


なんといっても中村錦之助が圧倒的に素晴らしい。名監督に頤使された大根役者がかくも迫真の演技をもたらすとは、かの川島雄三における石原裕次郎に相似たり。さすがは今井正なり。橋本忍の脚本が良く出来ているが黛の音楽はシナエリオに付き過ぎ。どうせアルバイトの仕事だが、こういう微細な技術はとうてい武満には敵わない。ここでも三島雅夫が好演している。

 ふとしたもののはずみで2名の上級武士を剣で斃してしまった馬廻りの次男坊錦之助が、なんの落ち度もないにもかかわらず藩の役人のご都合主義で仇討ちされるという大チャンバラ悲劇。ラストの猛烈な血刀を大車輪で振り回しての決闘は思わず手に汗握るすさまじさであるが、楚々とした許嫁の三田佳子の白いうなじに挑発された錦之助が、思わずむらむらとなって納屋に連れ込んでらんばうしてしまうエピソードも忘れ難い。

で、今井正は、事が果てるまで女の声だけを聞かせて庭の数羽のちゃぼがえさをついばむシーンだけをしばらく映しているのであった。チャンチャン。


世の中は所詮金なりとく消えよ金なくば生きてゆけぬこの世の中 蝶人