蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2009年文月茫洋歌日記

♪ある晴れた日に 第62回 水無月尽今年最初の蝉がなく水無月今年最初の仕事来る天青は七つ咲きたりはないちもんめ天青や天まで届けと伸びるなり天青咲いてわたしの夏が来るぎすちょんが轢き殺されている道路かなショスタコ愛しけやチュウチュウ蛸かいなある…

フエンテス著「老いぼれグリンゴ」を読んで

照る日曇る日第275回1842年アメリカのオハイオ州に生まれたアンブローズ・ビアスは「悪魔の辞典」、そして私の大好きな短編小説「空を飛ぶ騎手」の作者として有名ですが、南北戦争に従軍し、ジャーナリストとして活躍した後、2人の息子と妻にも先立た…

チャトウィン著「パタゴニア」を読んで

照る日曇る日第274回パタゴニアといえば社員がいつでも海でサーフィンして構わないふとっぱらのスポーツウエアの会社ですが、これは南米のさらに南の文明の果てパタゴニア地方を旅行しながら当地ゆかりの人物とその事績を延々と執拗に追及したルポルター…

渚にて

バガテルop107&鎌倉ちょっと不思議な物語第201回 今日も3人揃って由井ガ浜の海に海水浴に出かけました。午後2時過ぎに出発して2時半に海岸の傍の地下駐車場にさしかかると満車の表示が出ていたので、これはやばいと思ったのですが、しばらくすると空…

♪ある晴れた日に 第61回

ある人いわく「眼をまなこといふ」と道の上二匹のギースチョンが轢き殺されている雑草という名の草はなく虫という名の虫もないこうてくれえこうてくれえとさけぶのでこうてやるかなカラムシの葉をくるりと巻きてアカタテハの幼虫は夢結びおるアカタテハとヒ…

若杉弘氏を悼む

♪音楽千夜一夜第71回&遥かな昔、遠い所で第86回昨日の夕方、指揮者の若杉弘さんが74歳で臓器不全で亡くなられたと聞いて、驚きかつまた悲しんでいるところです。 私がこの人の音楽をはじめて聴いたのは、東京日比谷の日生劇場で行われた二期会の公演で…

吉村昭著「生麦事件」を読んで

照る日曇る日第273回文久2年1862年8月、生麦でイギリス人3名を切って捨てた島津久光の薩摩藩でしたが、その一年後にはどのように鮮やかな変身を遂げたか。これが本書のテーマといえるでしょう。翌年7月の薩英戦争に敗北した薩摩藩は、その敗戦の…

今年初めての海水浴

バガテルop106&鎌倉ちょっと不思議な物語第200回ほんとうは金曜日に行きたかったんだけど、あいにくの天気だったのでそこはなんとか我慢して、今日も午前中は雨がぱらついていたけれど、午後になると少しは空も明るくなってきたので、お父さんとお母さん…

吉村昭著「桜田門外の変」を読んで

照る日曇る日第272回今となっては水戸藩徳川斉昭の尊王攘夷論に比べると、井伊大老の開国路線の方が時代に先駆けた近代性と開明性を備えた先賢の明であったように思われますが、しかし安政の大獄が猛威をふるったその時代にあっては、どちらが正しい選択…

三宅一生さんの原爆体験

ふぁちょん幻論第52回世界的なファッションデザイナーの三宅一生さんが、先日NYタイムズにこれまで秘していた7歳の時の広島における原爆体験を明らかにしたうえで、米国のオバマ大統領に故郷広島を訪問するように呼びかけたそうです。三宅さんは、19…

「ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団の芸術第2巻」を聴いて

♪音楽千夜一夜第70回 タワーレコードと東京電化株式会社がコラボではなく、コラボラシオンして特別企画された上記のCDを8枚組2980円でゲットしました。1枚当たり300円超というお値段は、このご時勢ではなかなかグッドではないでしょうか。 曲目…

文化学園服飾博物館で「赤い服」展をみる

ふぁっちょん幻論 第51回 帝都唯一無二、本邦随一の衣服遺産の質量を誇る新宿南口甲州街道沿いの博物館が「赤い服」をテーマとした内外のコレクションを展示しています。通常の展覧会の展示は、展示素材のそのもの=WHAT性(たとえばゴーギャン展、ルーブ…

♪ある晴れた日に 第60回記念小特集

天青は七つ咲きたりはないちもんめ天青や天まで届けと伸びるなりまるでゼウスのように天気予報してやがるくしゃみくらい好きにやらせてくれ月曜のロッカーに挿したるわが鍵を木曜の朝に取りにいきたりなにかあれば大好きですと言い交わし男同士で抱き合う父…

「ブラームスの子守歌」とわたし

♪音楽千夜一夜第69回私は花鳥風月にだけは恵まれた田舎で育ちましたが、音楽的な体験はほとんどありませんでした。家にあったヤマハの古いオルガンで賛美歌を自己流ででたらめに弾くくらいが関の山で、家でクラシックのレコードを聴いたことなど一度もあり…

手垢まみれの「ショスタコ5番」のイメージを鮮やかに塗り替えた鎌倉

♪音楽千夜一夜第68回&鎌倉ちょっと不思議な物語第199回忙中閑あり。久しぶりに鎌倉交響楽団の第93回定期演奏会に駆けつけました。土曜のマチネーですから間違いなくゆったりした気分で楽しめるはずです。前回はマーラーの5番の感動的な熱演で、私の…

都のオリンピック招致広告について

茫洋広告戯評第9回 先日学友諸君と東京建築観光ツアーで新宿都庁へ行きましたら、原っぱで寝そべっている小学生たちの楽しそうな電光ポスターが掲示してありました。このビジュアルをバックに、左には「日本だからできる。あたらしいオリンピック!」、右側…

五味文彦編「吾妻鏡」第6巻を読んで

照る日曇る日第271回&鎌倉ちょっと不思議な物語第199回現代語訳吾妻鏡の第6巻は、建久4年1193年から正治2年1200年までを扱っています。富士の巻狩における曽我兄弟の仇討、建久6年2月から6月末までに及ぶ頼朝の上京と盛大な奈良大仏供…

神奈川県立近代美術館の「建築家坂倉準三展」を見ながら

勝手に建築観光36回&鎌倉ちょっと不思議な物語第198回坂倉準三は大学卒業後、1929年に渡仏し、ル・コルビジュのアトリエで働き、彼の仕事をつぶさに見聞きしてそのノウハウを身につけた建築家です。1937年にはパリの万博日本館の設計でグラン…

鎌倉国宝館の「お釈迦さまの美術」展を見る

鎌倉ちょっと不思議な物語第197回&バガテルop106鎌倉国宝館では7月12日まで「お釈迦さまの美術」展をやっています。 今回は建長寺の「宝冠釈迦三尊像」や寿福寺の「釈迦三尊十六善神像」などが出品されていますが、私がもっとも惹かれたのは宝戒寺…

谷川俊太郎著「トロムソコラージュ」を読んで

照る日曇る日第270回&♪ある晴れた日に第60回わたしがこのないだこの人の詩が下手くそであるという歌を詠んだのは 月いちで掲載される朝日新聞の短いものを読んでおそろしく手抜きである あんなものなら誰でも書けると思ったからだが、 この「トロムソ…

井上章一著「伊勢神宮 魅惑の日本建築」を読んで

照る日曇る日第269回これは特に伊勢神宮について論じた本ではなくて、我が国の大昔の建築物は、どんな姿形をしていたかを真正面から論じた「超」の字が2つほどつく力作であり、日本の建築学にとってじつに貴重な価値をもつ書物です。建築史には、あの築…

藤原道長「御堂関白記」上巻(全現代語訳)を読んで

照る日曇る日第268回「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」 という歌を詠んだといわれる藤原道長の自伝の現代語訳です。 こういう手放しの自画自賛を臆面もなくやってのける奴はいったいどういう人物なのかと思って手を出したの…

杉本秀太郎著「伊東静雄」を読んで

照る日曇る日第267回私にとって伊東静雄は、中原中也と並んでまさに「詩人の中の詩人」というべき存在です。太陽は美しく輝き あるひは太陽の美しく輝くことを希ひ 手をかたくくみあはせ しづかに私たちは歩いて行った1935年(昭和10年)、彼が若冠…

「ゲバゲバサマーショー展」をのぞいてみたら

バガテルop105東京のJR大塚駅北口徒歩10分にある画廊MISAKO&ROSENで7月19日まで開催されている展覧会「ゲバゲバサマーショー」は、新進気鋭の現代作家たちのカジュアルな新作が狭い会場せましとラインアップされ、それこそゲバゲバで楽しいカオス…

小栗康平監督の最新作「埋もれ木」を見る

闇にまぎれて bowyow cine-archives vol. 6 「埋もれ木」とは彦根の大老井伊直弼の話かと思っていたら、あにはからんや三重の鈴鹿の話でした。この町から大昔の炭化した巨木が掘り出されて話題になったので、それをタイトルにしたようですが、何千年前の壮大…

「アマゾンの半漁人」が消した私の書評たち

バガテルop104これまでAmazonの書評コーナー「カスタマーレビュー」に書籍だけで60点以上、映画やDVDを加えると100点は下らない感想文を投稿してきましたが、最近確認したところ2009年4月10日に投稿したはずのT.E.ロレンス著「知恵の七柱 1 …