蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦2013年卯月 蝶人花鳥風月狂歌三昧

ある晴れた日に第126回 鎌倉や梅と光と風ばかり 初音なるかはた空耳なるか夢の内 淳作の櫻のやうな櫻咲く 桜斬る馬鹿者ならず桜切る ウイが減りノンが増える日櫻咲く よく見れば江戸の着物ぞ浅蜊貝 うかうかと浮かれ出けり揚羽蝶 蝶と見えまた花と見ゆ櫻…

パスカル・ボニザール監督の「アガサ・クリスティ 華麗なるアリバイ」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.445&バガテル-そんな私のここだけの話op.165 制作は2008年とわりと最近のフランス映画だが、ミューミューとランベール・ウイルソンが出演していた。クリストファーではないがクリストファー・ランベールという紛…

村上春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んで 後篇

照る日曇る日第590回&♪音楽千夜一夜 第304回 5)晴朗明晰のうちにも悲愴なモーツアルトの音楽のような文章を書いた漱石、ハイドンのような典雅な調べに激情を内封した鴎外、荷風、由紀夫、バッハのフーガのような螺旋運動を繰り広げる健三郎、「春の祭典」…

村上春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んで 前篇

照る日曇る日第589回&♪音楽千夜一夜 第303回 1)本書の中核に位置する“友情のペンタゴン”はすべての人々の懐かしい青春時代の思い出でもあり、この国の、この惑星の、過ぎし黄金時代の遠い記憶でもあるのだろう。 2)しかし村上春樹も歳をとった。いつもの…

高橋源一郎著「国民のコトバ」を読んで

照る日曇る日第588回 「萌えな」ことば、「官能小説な」ことば、相田みつおな」ことば、「漢な」ことば、などなど様々な切り口で源ちゃんが最新の現代日本語を「メタメタに」斬りまくったエッセイ集である。 戦後民主主義を男女交際の自由という観点で徹底的…

ハワード・ホークス監督の「エル・ドラド」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.445 ジョン・フォードの「馬上の2人」におけるジェームズ・スチュアートとロチャード・ウイッドマークの関係がここではホークスによってジョン・ウエインとロバート・ミッチャムの僚友関係として再現されている。 ホ…

ジョン・フォード監督の「馬上の二人」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.444 珍しくジョン・フォードがジョン・ウエインならぬジェームズ・スチュアートとリチャード・ウィドマークを起用した西部劇で、冒頭の酒場での導入の巧みさに感嘆する。 しかし本題は山っけたっぷりの保安官のスチュ…

ジョン・ヒューストン監督の「マルタの鷹」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.443 ご存知の原作を名匠ヒューストンがメガフォンを撮ってボギーがサンフランの街を駆けまわれば面白くないわけがない。特に全篇に漂うすがれたB級フィルム・ノワールの味がたまらない。 今回特に感じたのはそういう…

伊藤大輔監督の「反逆児」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.442 大仏次郎の原作を伊藤大輔が中村錦之助主演の映画にした。原作は読んでいないが、秀吉の命令で殺された家康の妻築山殿と長男信康の悲劇に焦点をあてたところが面白い。結局これが家康の生涯の分岐点となって戦国勝…

五味文彦著「鴨長明伝」を読んで

照る日曇る日第587回 宮廷歌人から中世最大の散文家へ 著者は中世史が専門の学者なのだが、歴史と同様文学に明るく、鴨長明の和歌を鋭く詠みこみながらその生涯を辿っている。 私は鴨長明なんて下鴨神社の禰宜だったのが出家して方丈に住んで「方丈記」を書…

文化学園服飾美術館で「ヨーロピアン・モード2013」を観て

茫洋物見遊山記第116回ふぁっちょん幻論第75回& 闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.441 毎年恒例のヨーロピアン・モード展ですが、今回の特別出品は、なんとオードリー・ヘプバーンがわが最愛の映画「ローマの休日」のアン王女役で着用した豪華絢爛な…

ネイサン・イングライダー著「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」を読んで

照る日曇る日第587回 2組のユダヤ人夫婦が登場するレイモンド・カーヴァー風の表題作も面白いが、私に強いインパクトを与えたのはその次の「姉妹の丘」という短編だった。 1967年の第3次中東戦争でイスラエルによって占領されたヨルダン川西岸地区の実質的な…

野村浩将監督の「愛染かつら総集編」を見て 闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.438 夫に早くに死なれた看護婦の田中絹代に、病院の跡継ぎのボンボン上原謙が一目ぼれ。まわりからはより美しく聡明なモガ桑野道子をあてがわれるにもかかわらず、「田中が…

シドニー・ポラック監督の「追憶」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.437 スペインの独裁者に反対し、日独伊枢軸国に反対し、マッカーシズムに反対し、戦後は核実験に反対する政治的人間をバーブラ・ストライサンドが演じて大きな破綻はないけれど、彼女よりもっと美しく知的な女優が適ほ…

フィリップ・K・ディック著「空間亀裂」を読んで

照る日曇る日第586回 この作品の前半部はすでに冬木亘訳「カンタータ140番」として発表されていたが、このたび佐藤龍雄氏の手で晴れて完本として本邦全訳されたというわけだ。 特殊飛行体の一部の空間亀裂から覗いた別次元の地球。それは現生人類ホモ・サ…

ジョン・ウー監督の「ハードボイルド 新・男たちの挽歌」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.435 中国の傘下に組み込まれる以前の香港映画はどれもこれも無類に面白かった。 1992年に製作されたこのハードボイルド映画も、暴力団と警察が敵味方入り乱れて無茶苦茶に殺しまわる。それは確かに家や句や火薬や…

高村是州著「ファッション・ライフのはじめ方」を読んで

照る日曇る日第585回&ふぁっちょん幻論第74回 文化学園大学の先生で以前は文化服装学院や東京モード学院、バンタンデザイン研究所などでもデザイン画を教えていたことのある高村選手の手になるふぁっちょんライフの基本教則本です。 この方がこれまでに書…

ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭のヘンデル「ジュリアス・シーザー」を視聴して

♪音楽千夜一夜第302回 バルトリがデイレクターを務めることになった12年のザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭で、ヘンデルを歌いました。まあ歌は絶好調で素晴らしい。脇役で出ているアンネ・ソフィー・オッターが完全にかすむほどの出来栄えで、自分の思い通り…

サム・ライミー監督の「スパイダーマン1&2」を観て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.431&432 スタン・リーの漫画の原作は、蜘蛛の糸でオブラートにくるまれてはいるが、かの名作スーパーマンの物語を換骨奪胎した正義の味方の一大冒険物語である。 デイリー・プラネットならぬデーリー・ビューグル新聞…

平岩幹男著「自閉症スペクトラム障害」を読んで

照る日曇る日第584回&バガテル-そんな私のここだけの話op.164 これは自閉症について初めて岩波書店から出版された新書ではないだろうか。福祉や医療、児童教育についてはかなりのレパートリーがあるのに、2012年の年末になってようやくこのジャンルの…

内山登紀夫監修「もっと知りたい!自閉症のおともだち」を読んで

照る日曇る日第583回&バガテル-そんな私のここだけの話op.163 ミネルヴァ書房の新しい発達と障碍を考える本の新刊が出ました。本書で紹介されているように、自閉症は1)他人と上手につきあえない。2)コミュニケーションがとりづらい。3)想像力が乏しくこ…

「THE CLAUDE DEBUSSY COLLECTION」全18枚組を聴いて

♪音楽千夜一夜第301回 ドビュッシーの管弦楽曲、ピアノ曲、室内楽、歌曲、歌劇の代表的な作品を18枚のCDに網羅したお馴染みソニーの超廉価盤セットです。 どのジャンルのどの曲をとっても、ミュンシュ&ボストン、ブーレーズ&クリーブランド管、カサド…

「Great Conductors 偉大なる指揮者たち」を聴いて

♪音楽千夜一夜第300回 お馴染み「独ドキュメンツ・レーベル」が世界のルンペン・プロレタリアートに向けて贈る超廉価盤10枚組CDでありんす。主にスイスのルガーノに本拠があるわが偏愛のローカル・オケ、スイス・イタリアーナ放送管弦楽団のライブ録音で…

加藤治郎著「短歌のドア」を読んで

照る日曇る日第582回 恥ずかしながら短歌の本を手に取るのはこれが「岡井隆全歌集第4巻」に次ぐ2冊目ということで、最近短歌が好きになって下手な歌を見よう見まねで詠んでいるだけの人間にとっては、宮沢賢治の史上初の「シュルレアリスム短歌」の先駆的…

大沢在昌著「売れる作家の全技術」を読んで

照る日曇る日第581回 安倍蚤糞がどう奇怪な幻想を振り撒こうと相変わらず不景気が進行しているけたくそ悪い状況にめげず、初志貫徹をめざすえりすぐりの作家志望者を集めてかの「新宿鮫」の流行作家が角川書店で敢行した即席作家養成指南講座がこれであるぞ…

バルザック著「艶笑滑稽譚第三輯」を読んで 

照る日曇る日第580回 第一輯で「美姫インペリア」ではじまった本作は、第三輯の末尾「美しきインペリア」でああ堂々の円環を閉じて完結する。いかにもバ選手の超力作ではあるが、その「美しきインペリア」の逸話が艶笑味も滑稽味もさらさらなく、むしろ美徳…

川上弘美著「なめらかで熱くて甘苦しくて」を読んで

照る日曇る日第579回 題名だけで判断すると全篇性的なものが主題になった作物ばかりかと想像する人がいるかもしれないが、そういうことは多少はあっても、じっさいはあんまりなくって、「なめらかで熱くて甘苦しくて」なんてふそれっぽいタイトルにしても性…

セルゲイ・ボンダルチュク監督の「戦争と平和全4部」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.422、423、424、425 トルストイの原作でもっとも感動的なのは、アウステルリッツの会戦で死を垣間見た主人公が戦場に横たわって見上げる蒼穹の描写、そして村夫子然とした典型的なロシア老人、クトーゾフ将軍の質朴に…

ジュリー・デルピー監督の「パリ、恋人たちの2日間」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.421 NY在住のアメリカ人デザイナーとフランス人女性写真家とのパリでの二日間をコメディタッチで描く恋愛映画。 ゴダールに見出された才人監督のジュリー・デルピーが、脚本・製作・編集・音楽・主演を兼ねて八面六…

大島渚監督の「御法度」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.419 ふつう映画や芝居が新撰組を描くときには尊王攘夷の対立など幕末の政治情勢や権力闘争の要素として歴史の外側から対象化されることが多いが、本作ではそういう視点ではなく、あくまでも組織内の同性愛に絞って描き…