蝶人戯画録

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大島渚監督の「御法度」を見て

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.419

 

ふつう映画や芝居が新撰組を描くときには尊王攘夷の対立など幕末の政治情勢や権力闘争の要素として歴史の外側から対象化されることが多いが、本作ではそういう視点ではなく、あくまでも組織内の同性愛に絞って描き尽くしている。

 

外部ではなく内部、大状況ではなく卑小世界、時代や政治や思想、無機物ではなく身体、性愛、皮膜情動の様相に徹底的に迫ることによってなにが見えてくるか。

 

 組織のたががはずれた崩壊寸前の幕府体制を補完するべく外部から必殺お助け人として颯爽と登場した新撰組は、先行組織の轍を踏むまいと強権的な戒律=御法度で構成員を縛りつけた。

 

しかし彗星のように登場した隊の内部の異端分子の異様な美貌(松田)によって、鉄の規律が次第にゆるみ、ついには崩壊の危機にまで至るありさまを、鬼才大島が面白おかしい映画に仕上げてみせた。

 

ここにはどんな優秀な組織も、それを構成する人間の天衣無縫なはみだしによって崩壊せざるをえないという古くて新しい教訓が秘められているようだ。

 

坂本龍一の音楽が、演出と一体になってこの鬼才最期の作品を悼んでいるように鳴っていた。

 

我が庭に卯月朔日の朝日差し大島桜咲き誇りたり 蝶人