大島渚監督の「愛の亡霊」を観て
闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.413
初恋とかカルピスとか恋愛などとほざいている間はどうでもよいが、これが一歩進んで性愛の奈落にはまりこんでしまうと、いくらあがいても男も女もどう仕様もなくなってしまう。
そんな極限が続けば、有夫姦の泥沼状況がどういう地点にまで進んでゆくのかとくと観察してやろう、というのがこの度の作品のテーマとなっていて、明治時代のわが国のどこかの田舎を舞台に、これでもか、これでもか、とおどろおどろしくごっつい画筆でグアッシュグアッシュと分厚く塗りたくったのがこの映画である。
お約束どおり、全篇で主人公の吉行和子と藤竜也がはげしい性交をセッセと繰り広げる。暗くてよく見えなかったが、藤竜也の愛撫に吉行和子の両の乳首なぞはキリリと屹立しているのだが、それでいて不思議なことに凡百のポルノ映画と違って品下らないのは、大島のストイシズムと彼一流の美学のせいか。
傍迷惑な激愛・妄愛・爆愛が次々に殺人を呼び、それが種となって度々幽霊を招来するのも天然の俗情、民俗狐狸の座興の至りで甚だユーモラスであるが、こういう悲劇なのか喜劇なのかわからない情理輹輳した映画だけの快楽を創造したからこそ、大島は唯我独尊唯一無二のシネアストに成りおおせたのである。
ホト突かれアクメに達せしヒロインの絶叫哀し白昼の映画館 蝶人