蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

続 心に残った言葉

♪バガテル op20 乙羽さんとは「愛妻物語」で出会い、「原爆の子」で同志となり、男女の関係を結んだ。この時わたしには妻子があり、乙羽さんは一生日陰の人でいいから、と全身を投げ出してきた。わたしは善良な妻を裏切ることに苦しみながら、これをうけた。…

心に残った言葉

♪バガテル op19 宿祢島へ登る稲妻型の道は百五十メートルもあった。 この坂道を乙羽信子と殿山泰司は水をいっぱいに入れた肥桶を担いで毎日登ったのである。乙羽さんの肩は三度皮が剥けた。 乾いた土へ水を注ぐ。たちまち土は水を吸い込む。果てしなく水を注…

ある丹波の老人の話(24)

第四話 株が当たった話その5郡是は翌大正5年には100万円近い大もうけをして一挙に頽勢を挽回し、5月には優先株を抹消して資本金が200万円となり、将来の大飛躍が約束されて株価はグングン上がりました。これはまったく波多野さんの手腕と徳望のしからしむる…

宮城谷昌光著「風は山河より第4巻」を読む

降っても照っても第18回織田信長は桶狭間の奇襲で今川義元を屠った。しかし義元の後を継いだ氏真の手で愛妻を惨殺された菅沼新八郎は暗愚残虐な今川を見限って源氏新田家の末裔である「得川」家康の陣につく。掛川城に籠った氏真を東からは家康が、北からは…

♪内田光子のモーツアルトの20番

♪音楽千夜一夜第22回 去年の大晦日にベルリンで行われたシルベスターコンサートのヴィデオを今頃になってようやく見た。ベルリンフィルのシェフがアバドの頃は年に一度のこの演奏をテレビで見るのを楽しみにしていたが、ラトルになってからは初めてである。…

銀座和光本館よ、永遠なれ

勝手に建築観光・第15回 銀座の代表的建築といえば文句なしに服部時計店の時計台だろう。明治28年建設の初代時計台を1932年(昭和7年)に立て直したものが現在の銀座和光本館であろう。テラコッタではなく自然石を使用したその堂々たるたたずまいは、銀座…

拝復 神奈川県知事 松沢成文殿

先日は小生が神奈川県の「わたしの提案」に投書した民間社会福祉施設運営費補助金の問題について、さっそく懇切なるご回答を頂戴し誠にありがとうございました。回答の文書を再読しましたが、どうもその趣旨がよく分かりません。再度お尋ねいたしますのでな…

川本三郎著「名作写真と歩く昭和の東京」を読む

降っても照っても第17回 昭和の名建築がどんどん姿を消しているなかで、著者は名カメラマンが遺した名場面をダシにしながら、昭和の懐かしい記憶を思い出の玉手箱の中から一つひとつ取り出してきてはいとおしむように語る。新宿副都心に一変した淀橋浄水場も…

五木寛之著「林住期」を読む

降っても照っても第16回 古代インドでは人生を、「学生期」(青春)「家住期」(朱夏)そして「林住期」(白秋)「遊行期」(玄冬)の四期に分けていたという。著者によれば、「林住期」とは50歳から75歳までの社会的なつとめを終えた人の自由時間、人生…

レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳「ロング・グッドバイ」を読

降っても照っても第15回 チャンドラーが65歳でものした代表作の村上春樹ヴァージョンである。かつての清水俊二氏の「長いお別れ」と比べてずいぶん部厚いな思っていあたら、なんと清水訳は抄訳だったらしい。ずいぶんデタラメなことをするものだ。そんな話は…

ある丹波の老人の話(23)

第四話 株が当たった話その4郡是は翌大正5年には100万円近い大もうけをして一挙に頽勢を挽回し、5月には優先株を抹消して資本金が200万円となり、将来の大飛躍が約束されて株価はグングン上がりました。これはまったく波多野さんの手腕と徳望のしからしむる…

ある丹波の老人の話(22)

第四話 株が当たった話その3郡是の新株式を買うために、私は津山へ飛んだんでした。津山では武蔵野という一流旅館を本陣として、いきなり女中に100円のチップを渡し紀の国屋文左衛門の故智に倣って実は新聞紙が中身の札束包みを主人に預けました。その主…

コジュケイの歌

♪ある晴れた日に その8 鎌倉の滝のほとりに竹生いて 四方竹とぞ村人は呼ぶ世の中の労がわしきこと絶えずして 四角四面になりにけるかもしたり顔のファシスト共は跳梁す 闇に消えたるテレヴィの奥で自分が嫌じゃ、他人が嫌じゃ、日本が嫌じゃ、世界中が嫌じゃ…

♪続タイヤの歌

ある晴れた日に その7ダリア咲き タイはおさしみ ダイア笑う 関東平野にタイヤころがるぐわーっぎゃーっつ Bang !Bomb!Gang! いまに見てろ タイヤだいばくはつおっぺると来たタイヤって君か やに威張ってるな 隅っこのほうでころがってなおおタイヤ! た…

♪タイヤの歌

ある晴れた日に その6 灼熱のアスファルトを朱に染め タイヤにひれ伏す黒猫トム黒猫トムの 背骨を輪切る横浜タイヤ 霊園前は 真っ赤なキャンバス地下足袋をタイヤに換えた石橋さん 功成り名遂げて『近代美』寄贈すおおブレネリ わたしはここだ 大平原 アルプ…

秋山駿著「私小説という人生」を読む

降っても照っても第14回「自分のことをもう一度行き直してみよう」という年齢に達した著者が、眦をけっして向き合った日本文学の名作再読記であるが、その熱と意欲の高さに大きな刺激を受けた。扱われているのは、田山花袋、岩野泡鳴、二葉亭四迷、樋口一葉…

最愛のCD

♪音楽千夜一夜第21回先日私がこれまででもっとも感銘を受けたクラシックの生演奏について非常に興奮した記事を書いてしまったが、あほうついでにそれではCDのベストは何かといえば、そのひとつはバーンスタインの「ROMANTIC FAVORITES FOR STRINGS」という…

鶯の歌

♪ある晴れた日に その5長男と共に熊野神社に詣で、家に帰ってクレンペラー指揮フィルハーモニア管が伴奏するヴェートーヴェンの第三協奏曲をバレンボイムのピアノで聴いていた私は、突然そのCDのフォルテッシモをぶち破るような「ホー、ホケキョ!」という…

母の日の歌

♪ある晴れた日に その4一輪のカーネーションを携えて 遠き町より息子は帰宅す息子よりカーネーションを手渡され 我を振り返る妻のその顔いたつきに疲れ果てたる妻の眉 たちまち開く一輪の花一輪のカーネーションを母に捧ぐ 良き息子なり天も嘉せよ天使よりカ…

孤高の天才、チェリビダッケに寄す

♪音楽千夜一夜第20回私が生涯で聴いた最高の名演奏は、1977年に初来日した彼が、ミュンヘンフィルではなく、わが三流オーケストラの読響を率いてのブラームスの4番だった。全曲を通じてもっとも印象的であったのは、異様なほどの緊張を強いる最弱音の多…

中川右介著「カラヤンとフルトヴェングラー」を読む

降っても照っても第13回&♪音楽千夜一夜第19回カラヤン対フルトヴェングラー。私はやはり前者の音楽よりは後者のそれを好むが、これほど詳しく2人の巨人の対決の様相を教えてくれた本は初めてだ。音楽の世界に荒々しく侵入する政治と嫉妬と闘争。人間であ…

大石芳野「無告の民-カンボジアの証言」展を見る

降っても照っても第12回 中野坂上の写大ギャラリーで大石芳野氏の「無告の民-カンボジアの証言」展を見る。氏は80年から81年にかけて現地に入り、ポルポト派によって圧殺されたカンボジアの民衆の受難をモノクロームの静謐な画面に克明に定着した。危険…

大船田園都市構想をもう一度

鎌倉ちょっと不思議な物語58回&勝手に建築観光・第14回鎌倉市では現在大船駅東口市街地再開発事業を推進している。駅周辺を再開発して商業、居住、交流機能を促進しようというものだが、そのなかで24階建て高さ90mの高層ビルを建てようとして市議会の多…

ある丹波の老人の話 第21回

この天から降ったような金で、私はどん底まで下がりきって捨て値になっておった郡是の株を買いあさりました。百姓たちは株が嫌になってしもうてタダにならんうちにと誰もかもが売り急いでおりました。私は綾部付近から和木、下原のほうへ行って買いまくりま…

見城徹著「編集者という病い」を読む

降っても照っても第10回1972年、イスラエルのテルアビブ郊外の空港で自動小銃を乱射しながら手投げ爆弾を投げ、自らを肉片と化して死んでいった奥平剛士。 その存在が、著者の不眠不休、獅子奮迅の出版活動を支えている、らしい。連合赤軍の決死的闘争、…

子供の日日記「神奈川県立近代美術館を歩く」

鎌倉ちょっと不思議な物語57回&勝手に建築観光・第13回 子どもの日は八幡様は雑踏でごったがえしていたが、一歩木立の中に入ると閑静だった。名匠坂倉準三が設計した東急文化会館はすでに消失したが、ここ鎌倉の神奈川県立近代美術館は降り積もる歳月の底で…

夢のような話

ある丹波の老人の話(20)大正三年に、あの欧州大戦が勃発しました。糸価が大暴落したので、波多野鶴吉翁の郡是製糸会社は払込資本金十四億余円に対して、三十余億円の大損をしてしまいました。当時「これで郡是はつぶれる」という噂が高まり、二十円株がわ…

こんな夢を見た

子供たちは運動会のような、いや北朝鮮のマスゲームのようなものを、何者かに強制されて行っていた。彼らは、梯子を伝って窓から大きな家の2階の部分にはいりこみ、そこから屋根に上り、指導者の合図で一斉に1階に向かって飛び降りるのだった。1階といっても…

降っても照っても 第9回

緑陰消閑 @高橋源一郎「ニッポンの小説」 「文学とは遠くにある異なったものを結びつけるあるやり方です」と、語りながら始まる高橋教授の終わりなき大文学論。その真摯な思索に脱帽す。 とうとう中原昌也、猫田通子の「うわさのベーコン」を産出するにいた…

右か、左か、真ん中か

♪バガテル op18昨日中野坂上の学校で、広告代理店を受けるという大学生から就職相談を受けたときのこと。彼女が、「自己PRの、“どんな新聞を購読しているか”という欄に、朝日新聞と書いてもいいでしょうか?」と尋ねるので「君が実際に購読しているのなら…