蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

銀座和光本館よ、永遠なれ


勝手に建築観光・第15回


銀座の代表的建築といえば文句なしに服部時計店の時計台だろう。明治28年建設の初代時計台を1932年(昭和7年)に立て直したものが現在の銀座和光本館であろう。

テラコッタではなく自然石を使用したその堂々たるたたずまいは、銀座のランドマークにふさわしい。お向かいの三越と一線を画して、壁面に醜悪な屋外広告を垂らさない見識もこの由緒ある街にふさわしい。

もし銀座からこの素晴らしい建築がなくなったならと考えただけでぞっとする。

ところが、その歴史的名建築が75年ぶりに全面改修されるそうだ。

発表では、「外観は維持しつつ耐震性を強化し、内装を一新す」のだそうだが、04年の10月に三井不動産がめちゃめちゃにした福沢諭吉ゆかりの日本最初の社交クラブであった銀座交詢社のようなひどいことにならないかと心配だ。

余談ながら、私は交詢社の1階の広いフロアの右奥から差し込む日差しを浴びながら、遅い昼食をとるのが楽しみだった。

さて、歴史建造物を一部保存活用する手法は、交詢社や表参道ヒルズなど各地で多用されているが、それは結局は気休めであり、デベロッパーの乱開発の免罪符に過ぎないことを私たちは肝に銘じておくべきだ。

それにしても松坂屋と組んだかの悪名高き森ビルが、銀座中央通に百数十mの超高層ビルを建設しようとするアホバカ計画が、銀座百店会などの反対で挫折したことは、銀座と我が国の建築文化にとって格別に慶賀すべきことだった。