蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

西暦二〇一二年水無月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第111回 滑川に平家蛍乱舞す七時半 玄関になでしこが咲いているのが我が家です。1ドル79円1ユーロ99円の日本に生きる幸せと不幸せ横須賀の医科歯科大の校門に僅かに藍しジャカランダの花イチロー松井松坂海の彼方の末期の花よ イシオカが…

デビッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.266 何度見ても素晴らしいのは広大な砂漠の美しさで、モーリス・ジャールのテーマ音楽に乗ってくり広げられるこの雄大な自然の景観を眺めているだけでもう十分映画の醍醐味を堪能した思いになってしまう。 ロレンスが…

黒沢清監督の「トウキョウソナタ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.265 市川中車になった香川照之とキョンキョンがリストラサレタリーマンとその満たされぬ妻を力演している。 夫が突然会社をファイアされたがそれを妻に隠してハローワークに日参するが、プライドが高くなかなか仕事に…

矢口史靖監督の「ウォーターボーイズ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.264よい題名なので、はじめは水泳少年のドラマかと思っていたら、高校生の男子が最後の思い出に文化祭で男子のシンクロナイズド・スイミングをするお話だったので驚いた。導入からラストまで漫画のようによく出来てい…

新藤兼人監督の「午後の遺言状」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.263すでに死病に冒されていた愛妻乙羽信子の力演は涙なしには見ることができない。しかし相方の杉村春子も朝霧鏡子も観世栄夫も、そしてとうとう監督自身も幽明境を異にしてしまった。この映画はそれらすべての死者た…

新藤兼人監督の「裸の島」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.262急峻な細道を二つの水桶をぶら下げた天秤棒を担いで懸命に上り下りする夫婦。瀬戸内海の孤島で過酷な農作業を強いられる一家の日常をリアルに描き尽くした日本映画の傑作である。全篇を通じてほとんどセリフがなく…

古井由吉自撰作品6「仮往生伝試文」を読んで

照る日曇る日第520回 「いまだ生を知らず、いずくんぞ死を知らんや」なぞと孔子のように悟り済ませればいいのだが、われらの人生、いつどこでどのように終わるのやら君子聖人でさえ予知できぬとあれば業平卿のごとく「ついに行く道とはかねて聞きしかどきの…

三木卓著「K」を読んで

照る日曇る日第519回 そもそも夫婦というものはあかの他人であるからして、喜びも悲しみも幾年月、いくら相思相愛で結ばれようが長い歳月が経過する中でいろいろな葛藤が水の中に水素が湧くがごとく、空気の中に酸素が噴き出すがごとく生起して、とうてい…

EMI盤マルタ・アルゲリッチの協奏曲集を聴いて

♪音楽千夜一夜 第269回EMIからの廉価版4枚組CDです。アルゲリッチは不思議なひとで、共演する指揮者やオケが凡庸でも、実力以上の演奏に引き入れてしまうことが往々にしてあるから面白い。ここではわたしが嫌いなショパンとプロコフィエフの2つの協奏曲を…

ヘンリー・ハサウェイ監督の「悪の花園」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.261原題は「Garden of Evil」という1954年公開の西部劇映画で、ゲーリー・クーパーとリチャードウイッドマークが、インディアンと戦いながらなんと麗しのスーザン・ヘイワードを取り合いする。サム・ペキンパー監…

サム・ペキンパー監督の「荒野のガンマン」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.260冒頭、酒場で私刑で縛り首にされそうな男を主人公のガンマンが助けるのだが、じつはこいつがガンマンの頭の皮をはごうとした宿敵で、あとで復讐するために助けてやるという手の込んだシナリオである。次に酒場で一…

ルイ・ラングレ指揮エクサンプロバンス音楽祭「椿姫」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第268回2011年7月にエクスの大司教館中庭で行われたライヴで熟女ナタリー・デセイが力演。もう盛りを過ぎてはいるが肌も露わに熱演熱演また熱演。とうとう巴里の謝肉祭の喜びをよそに聞きながらみまかってしまうちう哀れな話ですが、こち…

ボリショイ劇場新装記念の「ルスランとリュドミラ」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第267回ロシア5人組のお師匠さん役を務めたグリンカの記念碑的な純ロシア産歌劇で、どこかウエバーの「魔弾の射手」に似た気負いと初々しさが感じられる。純ロシアというてもとりわけワーグナーの影響を受けていて、あの有名な序曲の旋律は2…

内田光子・ポストリッジの「詩人の恋」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第266回 2011年のザルツブルク音楽祭で内田光子がイアン・ポストリッジと組んだシューマンの「詩人の恋」を視聴しました。以前この2人の組み合わせによるシューベルトの「冬の旅」などを聴いたことがありますが、その神経衰弱を病んだか…

横浜美術館で「マックス・エルンスト展」を見て

茫洋物見遊山記第88回 会期間際に滑り込みセーフでした。(6月24日まで開催中。木曜休館)いわゆるひとつの超現実主義を代表する画家、彫刻家として知られるこのドイツ人(1981-1976)の代表的な油彩、コラージュ、リトグラフ、エッチング作品などがてん…

大野和士指揮リヨン国立の「夜鳴きうぐいすウグイス」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第265回ベルギーのモネ劇場を経てリヨンオペラのシェフに就任した大野の実力を遺憾なく発揮したストラビンスキーの2010年エクサンプロバンス音楽祭のオペラ公演ビデオです。指揮もいいし、曲もいいのだが、ロベール・ルパージュによる演出…

岩井俊二監督の「市川昆物語」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.259映像作家としての市川昆に感動したことはない。けれどもこの映画を見て、彼の作品を「東京オリンピック」まで支えた和田夏十の人柄とシナリオについての思いを新たにした。映像の職人の長きに亘る活動を背後から支…

ラファエル・クーベリック指揮「偉大なる交響曲集」を聴いて

♪音楽千夜一夜 第264回お馴染みソニーの超廉価盤でクーベリック指揮バイエルン放送交響楽団の名コンビによるモザールの後期交響曲やシュウマン、ブルックナーを聴きました。70年代のパリで彼らの「リンツ」とマーラーの4番を耳にして思わず落雷じゃなくて…

行定勲監督の「遠くの空に消えた」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.258物語はとうとう完成した空港の一角にうずもれた1足の靴型から始まる。ちょっとに似た少年少女思い出物だ。最初から脚本と音楽のコンビネーションが拙劣で一体これはどうなるのか先が危ぶまれたが、三日月が満月に…

中島哲也監督の「下妻物語」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.257嶽本のばらの原作を中島哲也が映画化した快速ジェットコースター&スラップスティックワンダーランドムービー。下妻のロリータちゃんに扮した深田恭子とヤンキーに扮した土屋アンナの圧倒的な怪演を引き出した監督…

NHKミュージック・ポートレート「山本耀司×高橋幸宏」を見て

バガテルop155&音楽千夜一夜 第263回&ふぁっちょん幻論第70回老境を迎え最後の後退線を懸命に戦う山本耀司の人世の応援歌は、中島みゆきの「ヘッドライト、テールライト」の「旅はまだ終わらない」というルフランであり、彼が人世の最期に聴きたい曲は、中…

レナード・バーンスタイン著「バーンスタイン わが音楽的人生」を読

照る日曇る日 第519回原題は「Findings」という素晴らしいタイトルなのに、なんでこういう邦題になってしまうのだろう。彼は生涯に5冊の本を書いたそうだが、これが最後の著作で、いわば自叙伝的な作品であるという。それは良いとしても彼のハーヴァード…

フィリップ・ジョルダン指揮パリオペラ座バスチーユの「ペリアスとメ

♪音楽千夜一夜 第261回何の期待もせずに見物しはじめたビデオだったが、ロバート・ウイルソンの美術と演出が素晴らしい。04年10月15日の大野和士指揮のモネ劇場の「アイーダ」でも、さながらルネ・マグリットの演出でイプセンの演劇を見せられているよ…

ティーレマン指揮・ウイーンの「影のない女」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第260回2011年のザルツブルク音楽祭における公演をライヴ収録した映像です。演出のクリストフ・ロイという奴が天下一品の大馬鹿者で、ホフマンスタールの原作を現代にもってくるのはまあ仕方がない、(けっして良いとは言わない)が、その…

ドナルド・キーン著「続百代の過客」を読んで

照る日曇る日第518回前巻に続いて本書で取り上げられたのは、万延元年1860年に日米修好通商条約を批准するためにアメリカ合衆国に渡った村垣淡路守の「遣米使日記」にはじまり、明治42年1909年に中央公論に発表された永井荷風の「新帰朝者日記…

渋谷実監督の「本日休診」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.256 井伏鱒二の原作を渋谷実が1952年に映画化したモノクロ作品で、柳永二郎扮する医者がたまさかの休診日もなげうって滅私奉公する献身的な医師を演じている。むかしは医は仁術をまともに実践する「赤ひげ医者」が…

穂村弘選手に「日経歌壇」で選ばれて

バガテルop154最近はここで「一日一歌」と題して下らない唄のような屁のやうなものをアップしているわたくしであるが、時々日本経済新聞の俳壇や歌壇に投稿することもあるのだ。 思い返せば今を去る一〇年ほど前、日経俳壇の黒田杏子氏に死者のこともう忘れ…

パッパーノ指揮ロイヤルオペラ「トスカ」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第259回レバインが病気降板したNYのメトでは凡庸な指揮者どもの登板と楽員の質の急速な低下で惨憺たるアンサンブルの乱れを呈し、ウイーン国立とミラノスカラ座また低迷久しい現在、アントニオ・パッパーノが指揮するコベントガーデンほど充…

高橋源一郎著「さよならクリストファー・ロビン」を読んで

照る日曇る日第517回毎日毎日砂を噛むように空虚な時間が流れて行き、ともすれば天変地異も勃発し、人々はおのれの存在理由を見失う。慣れ親しんだ友人や物や世界が、気がつけばどんどん失われていくのである。この明るい崩壊の時代にあって、それでもな…

西暦二〇一二年皐月 蝶人狂歌三昧

ある晴れた日に 第110回 人参の葉っぱを残して下さいな黄揚羽の幼虫の大好物なので 一芸に秀でていても駄目ですか? 口丹波春の綾部の寺山にふわり浮かびしギフチョウの羽根 置き石のために遅れたり山手線なぜその置き石を置きたるか男よ 通史の書けない歴史…